電話番号非公開。京都の和菓子屋「菓子屋のな」全国から感性豊かな上生菓子を求めてファンが訪れる人気店
明治を代表する文豪のひとり、森鴎外。作中にドイツで過ごす時間を盛り込んだ舞姫は当時としては非常に斬新で話題になったほか、彼自身がドイツで過ごした際に培った語学力を活かして優秀な邦訳家としても活動していました。
その中のひとつ。人魚姫やマッチ売りの少女でもおなじみ、アンデルセンの著書を邦訳した「即興詩人」はイタリアを舞台にした恋愛作品のひとつ。その作品からインスパイアされた和菓子をご存知でしょうか?
京都府京都市にお店を構える「菓子屋のな」さん。電話番号非公開のお店には、色彩豊かながらもどこか繊細で儚い、それでいて今まであまり和菓子に取り入れられなかった素材や組み合わせにも出会える作品や、自慢のあんこを使用したあんバターチャパタなどが店頭に並びます。今回は、即興詩人の登場人物をモチーフにした「アントニオとララ」をご紹介。
主人公の青年、アントニオ。一見すると、ごくごくシンプルな錦玉をまとった小豆こし餡の餡玉です。あんこは控えめな甘味の非常に舌馴染みの良いこし餡…なのですが。
小豆こし餡を突き抜けた瞬間、こちらの作品の本領発揮。ほろ苦い、非常にほろ苦い甘美な餡は焦がしキャラメル餡に思わず「んん?」と声が漏れてしまいました。ただのキャラメルではなく、焦がしているという部分も、主人公のアントニオが直面する困難や胸を締め付けられるような体験から着想を得ているのでしょうね。最深部に包まれている甘酸っぱい干し葡萄は、彼の若さと諸々を乗り越えたハッピーエンドでしょうか。
太陽の恵みをそのままあんこにしたようなララ。温かで希望に満ち溢れているようなはちみつ色の餡玉は、陽気で鮮やかなイタリアの情景にリンクするようなマンゴー餡です。中には弾けるようなキウイの寒天が!この寒天がぷるぷるではなく、果肉感がしっかりと残っているのでジューシー。
マンゴー餡、キウイ寒天双方から迸るような果汁を彷彿とさせるような味わい。餡玉なのにのどを潤すような感覚は、もしかしたら初めてかもしれません。
御菓子にはそれぞれ物語がある、といいますが、まさにその通りで作品を知っていると数々の名シーンが味わいの変化と共にスライドショーの如く脳裏に映し出されます。
芸術の秋、食欲の秋ふたつを満たしてくれるアーティスティックな和菓子でした。