ビッグなアメリカ　肉の塊がどんときた　

　　　（アメリカ・コロラド州・グレンウッド・スプリング）

アメリカ・コロラド州の温泉に行ってきた。

コロラド州には、北米大陸を南北５０００キロに渡り貫くロッキー山脈、通称〝アメリカンロッキー〟が鎮座する。最も高い山は標高４４０１メートルのエルバート山で、他にも４０００メートル以上の山が５３峰もある。

いろいろと大きかったなぁ。山のスケールが桁違いなら、ステーキもハンバーガーも、温泉もビッグ。「わぁぉ～」と呟いてばかり。

コロラド州の玄関口、デンバー国際空港に到着すると、この旅を案内してくださる州政府観光局の女性Ｕさんが待っていた。とても小柄で華奢な方。いかにも花柄が似合うＵさんが、デカイ四駆を転がし、５５２マイル（約８８８キロ）大移動の女性２人の旅がスタートした。

まずは空港から３時間かけて、全米でも知られる温泉保養地のグレンウッド・スプリングに向かった。コロラドにはホットスプリングという都市もあるし、スプリングの付く地名がとても多い。「いまも入浴ができるかどうかは別として、飲泉も含めて、なにかしら温泉に関わりがある場所ですよ」とＵさんが説明してくださった。

グランドキャニオンに続くという巨大な渓谷を縫うように四駆は走る。剥き出しの巨岩がグレンウッドのゲートとでも言おうか。

洗練されたロッジと温泉プールがあるグレンウッド・スプリングに到着した。

アメリカは日本の温泉入浴とは異なり、感覚的にはプールと言った方が近い。基本的には水着着用が義務付けられており、子供が浮輪を付けて遊ぶ姿もある。大人たちが寛げるようにと、子供出入り禁止ゾーンも設定されている。

ここには世界最大の温泉プールがある。子供用のプールは長さ１２３メートル、幅３０メートル。大人たちが寛ぐプールは長さ３０メートル、幅１２メートル。この２つのプールは仕切りはあるものの、ひとつの菱形を成している。温泉の温度は子供用は３２度、大人用は４０度だった。

今年（２０１８）で創業１２９年と歴史もあり、ルーズベルト大統領が入浴したプールとしても知られる。また先住民も温泉の熱を活用して洞窟内のミストサウナを使っていたという。プールの大きさを写真に収めようとしたが、どうアングルを変えても巨大過ぎてフレームに入りきらない。プールを一周するのに１０分くらいかかったが、カメラ片手にぐるぐるとまわりながら悩み続けた。

入浴中の肌触りとか、入浴後の肌の仕上がりを感じ入る間もないほど、プールから眺めた山々や人々の量感に圧倒された。ダイナミックな空気に酔いしれていると何時間でも過ごせる。それは日本の温泉情緒では決して味わえない、アメリカの温泉らしさなのだろう。

初日の夕食はグレンウッドの街中にあるレストランに入った。アメリカ第１食目はやはり赤身ステーキを注文した。焼きはミディアムレア。肉の塊がどんと出てきた。

この肉のデカさを写したいと、傍にあったコップを比較対象として写真に入れようとしたが、あぁ、スケール感を伝えるのは難しい。

急いで撮り終え、食すと、やわらかい。旨い。ソースはハラペーニョが入っていて、スパイシーさが舌に残る。大きなステーキも、飽きずに食べられたが、さすがに一皿をひとりで食べたわけではない。Ｕさんと分けてちょうど満腹。

以前、カリフォルニア州の温泉巡りの時に食べたステーキより、新鮮に感じるのはなぜだろうと思っていたら、Ｕさんが教えてくださった。コロラド州は「農園からテーブルへ」という言葉が定着しているそうだ。店員さんがやたらと、産地を解説してくれるのはそのためだ。目の前にある肉も近くの牧場が産地だという。なるほど！

隣にはクラフトビール専門店があった。「コロラド州ではクラフトビール全米大会が開催されるんです。スパイシー、ハーブ、チョコレート風味なんかもあります。これも山々からの新鮮で豊富な水があるコロラド州ならではの名物です」とＵさん。

景観も温泉もクラフトビールも、全てはアメリカンロッキーの恩恵だった。どこにいても山々の気配を感じていた。

さあ、２日目の朝は先住民が愛した洞窟風呂だ！　　　　　　　　　

※この記事は2023年4月6日に発売された自著『温泉ごはん　旅はおいしい！』（河出文庫）から抜粋し転載しています。