【いい風呂の日】はじめての「ひとり温泉」なら、”絶対外さない”温泉主義&お手頃≪ひとり旅歓迎の宿≫
ひとり温泉歓迎「日本秘湯を守る会」
2024年で50周年を迎えた「日本秘湯を守る会」(以降、「秘湯の会」と略す)をご存知だろうか。
3月13日に東京の有楽町マリオンで開催された50周年記念式典に私も参加したが、驚くことに関係者の10倍にも相当する、秘湯の会のファンが押し寄せた。
式典の盛況を見ながら、私が温泉に関わる仕事を始めてからの25年以上の歳月が思い出された。
特に、初めての秘湯を体験した日のことは忘れられない。
1997年11月下旬、秋田県乳頭温泉郷「鶴の湯」の本陣を前に、時空間を移動したかのような不思議な感覚に落ちた。
この日、私は初めて温泉取材をし、混浴風呂も初体験だった。
混浴露天風呂では、英国人ジャーナリストと一緒になり、彼は「鶴の湯には神が宿る」 と感動しており、私も「ここには日本人のソウルがある」と語りあった記憶が鮮明に蘇る。
晩秋で、早くも少し雪が積もっていた。雪化粧された「鶴の湯」の本陣はさらに私を魅了した。
どこかまだ、おおらかさが残る1990年代後半。見ず知らずの男女が、ごく自然にお風呂を共にする混浴風呂の風景が存在した。
この「鶴の湯」での体験が私の温泉への扉を開いたのだ。
50周年記念式典では、基調講演やパネルディスカッションが行われたが、「秘湯は人なり」という言葉が多用され、秘湯の宿と宿の繋がりの強さ、絆を感じた。
特に、山形県「滝見屋」の女将の訴えが心に残った。
「秘湯の価値はそれぞれの温泉を活かした宿であること。しかし近年は当たり前に居続けることに、知恵がいるようになっている。それは自然環境と社会環境が大きく変化したため。それでも私たちは宿を繋いでいきたい。外国人、若い人も『秘湯の宿』で心をひらいてほしい」
どうだろう、「秘湯の宿」のイメージが湧いてきたのではないだろうか。
自然と人とお湯を重んじる。それが「秘湯の宿」である。
私も「秘湯の宿」を愛して25年。
私なりに「秘湯の宿」を一言で表すとすれば、「解脱できる宿」である。解脱するには、まずゆるめ、ほどき、コリを取らねばならぬ。そのためには5つの条件が必要となる。
条件1 俗世から隔絶された秘湯。けれど比較的行きやすい
条件2 自家源泉を有する
条件3 お風呂の数がたくさんある
条件4 空気の美味しい散策ルートがある
条件5 宿泊料金がお手ごろ、ひとりで宿泊して休前日でも20000円程度
秘湯とは、秘境にある温泉を指す。
宿泊先も大自然の中にぽつんとある一軒宿がほとんどで、客室数は20室前後とこじんまりしていて、大型旅館に比べると、人に接する機会がかなり少ない。
こうした秘湯は、たとえば森の中の一軒宿や清流沿いの宿、もしくは海に面した宿と、自然豊かなことがウリ。
一軒宿だから、宿が源泉を有することが多く、これを「自家源泉」と呼ぶ。
食事では、ごちそうがずらりといった華やかさはないが、新鮮な山の幸、海の幸が自慢。素材の良さを活かした田舎料理も「秘湯の宿」ならではの魅力だ。
コストパフォーマンスは抜群で、うまく平日に利用したら、1万円前後で宿泊できる宿もある。
自然環境が最高、お湯がいい。料理は素材が良くて、コスパもいい。そんなメリットが揃うのが「秘湯の宿」である。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、移動が制限されていた最中にも、「秘湯の宿」にはお客がたくさん訪れたというのは、頷ける。
ここからは、私が訪れた「秘湯の宿」を含む、思い出深い何軒かの温泉を紹介したい。
※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。
※この記事は2023年4月6日に発売された自著『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)から抜粋し転載しています。