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有機食品に農薬排出効果、研究報告相次ぐ

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

有機食品を食べると体内に残留する農薬の量が大幅に減ることが、最新の研究で改めて明らかになった。農薬は、政府の決めた使用量が守られていても、日常的に摂取すると内臓機能や胎児・子どもの発育に予期せぬ影響を及ぼす恐れがあると指摘する専門家は少なくない。そのため、農薬の摂取や蓄積をどうすれば防げるか世界的に関心が高まっている。

グリホサートを調査

研究は、国際環境保護団体の「地球の友」に所属する米国の科学者らが行い、今月11日、学術誌『Environmental Research』に掲載された。

米国内の各地から4家族を選び、4歳から15歳までの子ども9人を含めた計16人に、まず普段通りの食事を5日間続けてもらい、6日目からは朝昼晩とも、農薬や化学肥料を使わずに生産した有機農産物のみを使った食事に切り替え、6日間、継続してもらった。その間、毎日、尿を採取し、分析した。

分析した農薬は、除草剤のグリホサート。グリホサートが体内で変化し生成されるアミノメチルリン酸(AMPA)も同時に分析した。グリホサートは日本を含む世界各国で大量に使用され、世界で最も人気の除草剤だ。しかし、その一方で、発がん性の疑いが浮上し、フランスやドイツ、メキシコなど各国が続々と使用禁止に動いている。

米国内でも、自治体レベルで規制強化の動きが広がっているほか、グリホサートが原因でがんを発症したと主張するがん患者らによる、開発元の独バイエルを相手取った巨額訴訟が起きている。

日本でも最近、学校給食用のパンや国産大豆など様々な農産物からグリホサートが検出されている。ただ、欧米のような具体的な規制強化の動きは今のところない。

2日で7割以上減少

地球の友らの研究では、16人から採取した合計158の尿サンプルを分析した結果、全サンプルの93.7%からグリホサートが、96.9%からAMPAが検出された。グリホサートやAMPAが検出されなかった参加者は1人もいなかった。

6日目から食事を有機食品に切り替えると、グリホサートとAMPAの尿中濃度が、平均してそれぞれ70.93%、76.71%減少した。大人と子どもで減少幅に大きな違いはなかった。ただし、濃度自体は、切り替え前も切り替え後も、子どものほうが大人よりグリホサートで約5倍、AMPAで約2.5~4.5倍高かった。

また、大人も子どもも、食事を有機に切り替えた2日後に濃度が大きく低下したが、その後はほとんど変化がなかった。

調査チームは、グリホサートを対象としたこの種の調査は「初めて」と強調した上で、「今回の研究からわかることは、(農業従事者などを除く)一般の市民にとっては、グリホサートに曝露する最大の原因は普段の食事であり、このため、グリホサートの影響を減らすには食事を有機に切り替えることが最も確実な方法だ」と指摘した。

食事を有機に切り替えると体内の農薬を劇的に減らすことができることを示した研究は、日本でも最近、報告されている。

ネオニコチノイドも

NPO法人・福島県有機農業ネットワークは、北海道大学の研究者らと協力し、殺虫剤ネオニコチノイドを食事によって体内から減らせるかどうか実験し、その結果を昨年、発表した。

ネオニコチノイドは、グリホサート同様、世界各国で使用され、日本でも各地で米や野菜、果物の栽培などに使われている。しかし、子どもの発達障害や、自然の生態系の崩壊との関連が指摘されており、やはりグリホサート同様、禁止や規制強化する国が相次いでいる。

日本では、獨協医科大学と北海道大学などの研究チームが、極低出生体重児を対象に行った調査で、新生児の尿から検出されたネオニコチノイドの濃度と新生児の体重との間に相関関係があると指摘した論文を昨年、発表。また、産業技術総合研究所と東京大学などの研究チームは、島根県の宍道湖でウナギやワカサギの漁獲高が激減したのは周辺の水田に散布されたネオニコチノイドが原因の可能性が高いとした論文を、やはり昨年、発表している。

政府もこうした研究結果は把握していると見られるが、日本ではむしろ、ネオニコチノイド系農薬の新規登録が目立っている。

福島の実験では、参加した家族に、有機栽培の米や野菜、有機飼料で育てた豚の肉などを一定期間食べ続けてもらい、尿サンプルを分析。すると、有機食品を食べ始めて約1週間後にはネオニコチノイドの尿中濃度が半分以下になり、1カ月後には当初比で94%減少した。

有機食品は世界的に需要が伸びており、とりわけ新型コロナウイルスの感染拡大以降は、消費者の健康意識や食に対する安全志向の高まりで、先進国を中心に人気が急速に高まっている。ただ、日本ではまだ認知度が低く供給も限られているため、他の先進国と比べると消費者は手に入れにくいのが現状だ。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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