新型コロナウィルス感染拡大にもかかわらずシリアで続く攻撃と大国の小競り合い
北東部での米・ロシア軍の小競り合い
シリア北東部のハサカ県では、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団などによると、カーミシュリー国際空港に駐留するロシア軍のパトロール部隊が3月30日、ルマイラーン町への進入を試みたが、同地近郊の油田地帯を違法に占拠し、軍事基地を設置している米軍のパトロール部隊によってこれを阻止され、退却を余儀なくされた。
これを受け、ロシア軍の装甲車4輌からなる別のパトロール部隊がハサカ市とカーミシュリー市を結ぶ街道上の要衝に位置するヒッティーン燃料ステーション(ヒッティーン交差点)一帯に派遣され、警戒活動にあたった。
米軍は「油田を防衛する」との口実のもと、ハサカ県とダイル・ザウル県の油田地帯に駐留を続けているが、ハサカ県では、ロシア軍パトロール部隊との小競り合い以外にも、地元住民やシリア軍とのいざこざが絶えない。
トルコ軍の砲撃続く
アレッポ県では、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、トルコ軍とその支援を受ける国民軍(Turkey-backed Free Syrian Army、TFSA)が30日、北・東シリア自治局とシリア政府の共同統治下にあるマンビジュ市近郊の大アラブ・ハサン村を砲撃し、6歳の女児1人が死亡、両親が負傷した。
北・東シリア自治局はPYDが主導する自治政体。
一方、ラッカ県でも、トルコ軍と国民軍がアイン・イーサー市近郊のフーシャーナー村を攻撃した。
これに対して、PYDが創設した人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍が反撃、トルコ軍側の車輌1輌を破壊し、国民軍に所属するスライマーン・シャー師団のマーヒル・ハミーディー司令官を殺害した。
トルコ軍と国民軍は、トルコの占領地と、北・東シリア自治局とシリア政府が共同統治する地域の境界一帯での砲撃を連日続け、シリア民主軍と散発的な戦闘を繰り返している。
イドリブ県での戦闘は小康状態が続く
一方、3月初めまで、シリア軍とトルコ軍による激しい戦闘が続いていたイドリブ県では、ロシア・トルコの停戦合意が発効(3月5日)して以降、シリア軍と「決戦」作戦司令室による砲撃が散見されるものの、シリア・ロシア軍、トルコ軍の爆撃は確認されていない。
「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる武装連合体。
また、トルコ軍は、この停戦合意に従い、ラタキア市とアレッポ市を結ぶM4高速道路でのロシア軍との合同パトロールを実現するため、31日までに11回にわたる単独でのパトロールを実施している。
イスラエル軍によるミサイル攻撃
国営のシリア・アラブ通信(SANA)はシリア軍筋の話として、31日午後8時25分、イスラエル軍戦闘機複数機がレバノン領空を侵犯、ヒムス県に向かってミサイル複数発を発射したと伝えた。
シリア軍防空部隊はただちにこれを迎撃、ミサイル多数を撃破したという。
イスラエルがシリア領内をミサイル攻撃したのは、3月5日以来約1ヶ月ぶり。
シリア人権監視団によると、イスラエル軍戦闘機によるミサイル攻撃は、ヒムス県西部のシャイーラート航空基地から県中部のT4航空基地(タイフール航空基地、ティヤース航空基地)に輸送機1機が移動したのを受けて行われた。
この攻撃で、イスラエル軍戦闘機はシャイーラート航空基地におよび同基地一帯に展開する「イランの民兵」の拠点複数カ所にミサイル8発以上を発射した。
なお、レバノン山地県キスラワーン郡、ジュベイル郡上空では、イスラエル軍戦闘機4機が低空で飛行し、旋回を繰り返す様子が確認されたという。
攻撃に関して、イスラエル側からの発表はない。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)