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愛妻家チャニング・テイタムが妻と破局。愛とはそもそも虚像なのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
破局を発表したチャニング・テイタムとジェナ・ディワン夫妻(写真:ロイター/アフロ)

 今年も、まだ4分の1が過ぎたばかり。だが、2018年最大の衝撃破局は、すでに起こってしまったようだ。仲良し夫婦で有名なチャニング・テイタムとジェナ・ディワンが、破局を発表したのである。若者向けダンス映画「ステップ・アップ」(2006)での共演がきっかけで交際を始めてから13年、結婚して9年弱。ふたりの間には、来月5歳になるひとり娘がいる。

 セレブの恋愛や結婚をウォッチングしてきた人々にとって、この破局は、昨年のクリス・プラットとアンナ・ファリスの別離と同じくらいショッキングな出来事だ(クリス・プラット夫妻の破局は、成功の悲しい代償か)。ツイッターには、「愛は死んだ」「もう愛なんか信じない」といった悲しみのコメントが多数飛び交っている。

 こんな展開は、筆者もまったく予想していなかった。筆者はこのカップルのどちらもインタビューしたことがあり、最近あまり映画に出ないディワンは「ステップ・アップ」の時の一度だけだが、その後、どんどん売れっ子になっていったテイタムには、ここ6年の間に5、6回取材している。そして彼は、その都度、妻について語っては、愛妻家ぶりを披露していたのだ。

 とりわけ思い出に残るのは、2012年の「君への誓い」公開時のインタビュー。これは夫婦の強い愛を描く映画だったこともあり、自然と彼自身の夫婦関係の話題にもなった。この時、テイタムは、ふたりの出会いとなった「ステップ・アップ」のオーディションについて振り返っている。「僕は、いろんな女優を相手にオーディションしたんだ。ジェナは、その中で、めちゃくちゃだったんだよ(笑)。すごくあがってしまっていて、セリフを間違ったりしてさ。あんな可笑しいものを見たのは初めてだったな。だけど、彼女はまさにあの役にぴったりだとも思った」と言うテイタムは、だが、ひとめぼれではなかったとも語っている。「その時、僕はまだ前の彼女と別れるかどうか悩んでいる時だった。だからひとめぼれじゃないよ。ジェナとは、次第に発展していったんだ」。

 ディワンはテイタムの前にジャスティン・ティンバーレイクと交際していたのだが、そのことについても「ジャスティンとは、僕も知り合い。彼はかっこいいよね。彼とだったら、誰だって付き合いたいだろう。嫉妬なんかしないさ。僕にだって元恋人はいるんだから、同じこと」と、あっさり。また、ディワンの誕生日には「予約してあるレストランに行こうと言って、そのまま空港に連れて行ったんだよ。そしてハワイに飛んだ。スーツケースは、彼女の友達に頼んで用意しておいてもらったのさ」と、素敵なサプライズをしてあげたことを明かしている。

妻が妊娠出産した時には、最高のイクメンぶりを発揮

 その翌年、「ホワイトハウス・ダウン」の公開前にインタビューした時、彼は、最もホットなハリウッドスターへと昇格していた。2012年に公開された「君への誓い」「21 Jump Street(日本未公開)」「マジック・マイク」が、すべて大ヒットしたのである。

 ディワンは当時、ふたりにとっての初めての赤ちゃんを妊娠しており、テイタムは、今のタイミングで子を授かったのは最高だったと語っている。

「おかげで、現実を忘れないでいられる。それ以外のことは、現実じゃないんだよ。妊娠した妻をもつほかの男たちと同じように、僕は毎晩家に帰って、妻のおなかにココナッツオイルを塗ってあげる。それが現実さ。本当に毎晩、『大丈夫かい?』『何か欲しい?』と聞いているんだ。そんな状態は素敵。僕とジェナはふたりとも野心あふれる俳優だが、子供という存在ができたことで、それよりもっと大事なものに神経を集中できるんだよ。『あ、今、赤ちゃんが蹴った』とかね(笑)」。

 赤ちゃんが生まれたのは、ロンドン。テイタムがウォシャウスキ姉妹監督の「ジュピター」(2015)を撮影していたせいだ。この映画の公開前、テイタムは、「妻が出産を控えている時に映画を4本立て続けに撮るのはやめたほうがいいね。それは忠告する」と笑っている。彼がそんな状況にうまく対処できたのは、「妻がスーパーウーマンだから」。出産後まもなくディワンはテレビドラマの出演に入ったのだが、「その間、僕は彼女の現場に行って育児を完全に担当するよ」と、イクメン宣言までした。「とは言っても、子供がこんなに小さい時期に男ができるのは、せいぜいアシスタントなんだよね。NASCARでレーサーのためにタイヤを交換する男みたいな感じ。最近では、ちょっと歩いたり、言葉を発したりするようになってきて、すごく楽しくなってきた」とも付け加えた彼は、実際、ディワンの撮影現場でしっかり良いパパをしていたようである。

良い関係を持続させるには「相手を理解しようとすることが大事」

 この次に彼に会ったのは、同じ年の末、クエンティン・タランティーノ監督の「ヘイトフル・エイト」公開時だ。だが、この映画は多数の主要キャストで語られるアンサンブルもので、テイタムの役は重要ながら、出番は少ない。そのため、インタビューもほかのキャストとセットで、彼の私生活について触れられる余裕はなかった。それ以前に、筆者も、おそらく彼らはあいかわらず順調で、とくに新しいこともないだろうと思っていたのだ。

 ディワンは長年のビーガン(完全菜食主義者)で、テイタムは「この地上から絶滅させてやりたい」と言うくらい野菜が大嫌い。だが「家族の食生活に問題はいっさいない」と言い、それはむしろ楽しいジョークのネタだった。この2年半の間に、何があったのだろう?今のところ、それはふたりにしかわからない。

 2012年のインタビューで、テイタムは、良い関係を持続させるには「相手を理解してあげることが大事」だと述べた。自分と意見が異なった時には、「それがどこから来るのか、本当に理解したい」とアプローチするべきなのだと。それが簡単でないのは、わかっている。「ついつい感情的になって、『君は間違っている』と言いたくなるものだからね。でも、その根元を理解し合わないと、トラブルは解決できないのさ」。

 そんな信条のもとに家族を築いてきたテイタム夫妻は、おそらく、お互いを理解し合おうと努力したのだろう。それでも、望まない結果を招いてしまった。ファンが言うように、愛とは虚像なのだろうか?いや、それを言ってしまったらおしまい。愛にはいろんなジャーニーがあり、運命がある。このふたりも、ひとつの物語。これをハッピーエンドだと決めつけていたのは、観客である我々の想像であり、希望だ。それで失望するのは、そもそも勝手な話なのである。そうわかっていつつ、悲しいと感じるのも、やはり人間の勝手なのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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