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クリス・プラット夫妻の破局は、成功の悲しい代償か

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
8年の結婚を経て破局したクリス・プラットとアンナ・ファリス(写真:ロイター/アフロ)

 どんな愛にも、永遠は約束されていない。クリス・プラット(38)とアンナ・ファリス(40)の破局は、そんな現実をあらためて突きつけた。

 いずれもコメディアンとして有名になったこのふたりは、ハリウッドで最もお似合いと思われてきたカップル。 たくさんある共通点のひとつは虫を集めることで、家の中は「ガラスに入って飾られた虫だらけで、自然博物館みたい」だそうである。インタビューでもしょっちゅう相手のことを語り、仲良しぶりを見せつけていただけに、アメリカ時間6日夜、夫妻連名の破局宣言がソーシャルメディアに投稿された時の衝撃は、大きかった。ツイッターには、「愛というものを信じていたよ。クリス・プラットとアンナ・ファリスが別れるまでは」「『クリス・プラットとアンナ・ファリスは一生一緒』と書いたTシャツをオーダーして、届いたところだったのに」といったコメントが飛び交っている。

 破局を発表する投稿の中で、ふたりは「僕たちは、長い間、一生懸命努力してきました。とても残念に思っています」と述べているだけだ。本当のところ何があったのか、もちろん知るよしはないのだが、プラットの突然かつ急速な成功を見つめてきた者としては、その喜ばしい出来事が影響しているのではないかと考えてしまう。

出会った頃は、ファリスのほうが有名だった

 ふたりの出会いは、2011年に公開されたコメディ映画「Take Me Home Tonight(日本未公開)」。撮影が行われた2007年当時、ファリスはすでに「最終絶叫計画」「ロスト・イン・トランスレーション」などで名前を知られていたが、プラットは無名だった。2015年のインタビューで、プラットは「(ファリスのほうが有名だったことは)、自分にとって良かったと思う。彼女の置かれた状態をそばで目撃することができたから、自分にもそれが訪れた時、冷静に対処ができたんだ。今、起きていることに感謝をする一方で、真に受けちゃいけないんだとも、僕はわかっている」と語っている。

 ふたりは2009年7月に結婚。プラットは初婚、ファリスは二度目だ。2012年、長男ジャック君が誕生する頃には、プラットがレギュラー出演するコメディ番組「Parks and Recreation」が好調な視聴率を集めるようになっていた。

 コメディ番組へのレギュラー出演は、俳優にとって、安定したおいしい仕事である。撮影場所はいつも同じスタジオで、たいてい週休2日。1日の労働時間も映画に比べれば短く、長く続いた番組では、共演者やスタッフとよく知る関係になっているため、流れもスムーズだ。複雑な筋をもつドラマと違い、視聴者が前のストーリーを知らなくても入っていきやすいため、再放送がされやすく、レジデュアルと呼ばれる再使用のギャラも、番組が終了してからも、長期にわたってしっかりと入ってくる。2013年には、ファリスが主演するコメディ番組「Mom」も始まった。夫婦揃って安定した収入を得つつ、子育てもしやすい環境に恵まれたのだが、そんな時、プラットが 「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の主演に大抜擢されたのだ。

アクションヒーローになるための大幅な食事改革

「Parks and Recreation」の、ちょっとぽっちゃりめのファニーな男がマーベルのアクション大作でスーパーヒーローを演じるというニュースは、業界を驚かせた。何よりも自分自身が驚いたと、プラットは当時、認めている。だが、俳優である以上、ビッグスクリーンで世界の観客に向けて演技をしてみたいというのは、誰もが願うこと。自分というキャスティングが間違っていなかったと証明すべく、プラットは、最大限の努力を注ぎ込んで、役に挑んだ。

  撮影の6ヶ月前から、厳しい食事制限とトレーニングを始め、脂肪を落とし、筋肉をつける。その間も、週に1日、3時間だけは、好きなものを食べてもいいと言われていたが、「最初は、その時間にやみくもに食べた。でも、そうすると、その後2日ほども、影響を感じるんだよ。ビールとパンケーキは、さらに1時間ジムでの特訓を増やす価値があるのかと考えるようになった」と、その「特別な3時間」もあきらめた。撮影が終わり、L.A.に戻った後は、馴染みのカフェでオートミールのパンケーキとチキンのオムレツを食べたという(このカフェは行列のできる人気店だが、その頃は、まだ普通にこういう店にも行くことができていたということだ)。「すごく美味しかった」と言うが、その後はまた、厳しい食生活が始まった。「ジュラシック・ワールド」、「マグニフィセント・セブン」、「ガーディアンズ〜」続編など、アクション映画が立て続けに入る中、「Parks and Recreation」時代の体に戻ることは、許されなくなったのだ。ファリスは、ある時、「ぽっちゃりしていた頃のクリスのほうが良かった」と発言している。

映画のロケで、家族を離れる日々

  ロケでL.A.を長期間離れるようになったのも、キャリアアップに伴う変化だった。映画スターとして成功したことで何が変わったかと聞かれた時、プラットは、「『Parks and Recreation』の撮影現場は、家から7分だった。これらの映画のためには、遠く離れたところに行かないといけない。自分が望むほど、家族と一緒にいられなくなった」と答えている。「ガーディアンズ〜」1作目でロンドンに向かった時、生後6ヶ月だったジャック君は、撮影が終わる頃、1歳になっていた。「ジュラシック〜」はハワイ、「マグニフィセント〜」はニューメキシコ、「ガーディアンズ〜」続編と「パッセンジャー」は、アトランタで撮影している。アメリカ国内ならば、ファリスも、たまには息子を連れて訪ねていけるが、彼女にも「Mom」の撮影があるので、ずっとはいられない。

 パパラッチの問題も出てきた。そこそこ成功しているテレビスターというレベルだった頃には放っておいてくれたが、今は家の前で待ち伏せしている。最初の頃こそ、「写真を撮るならちゃんとメイクをしている時にしてほしいよ」とジョークを言っていたが、最近は、「今は、昔のように、突然思いついてどこかに行ったりできない。空港、コンサートといったような、人が大勢集まるところには、行かない。前なら考えなかったことを、考えなければいけなくなった」と告白している。

  タブロイド紙が作り上げた記事に、心を傷つけられたこともあった。プラットが「パッセンジャー」の共演者ジェニファー・ローレンスと浮気をしていると書かれた時、ファリスは、こんなものごときに心を揺るがされるなんてとわかりつつも、胸を痛めてしまったと打ち明けている。「私たち夫婦の関係は、とても強い。それを誇りに思っている。なのに、奇妙にも、心が痛んだの」とアメリカのメディアに対して語ったファリスはまた、「クリスは遠いところで映画を作っていて、私はL.A.で子育てをしている。誰だってそうであるように、不安になってしまうものよ」とも述べている。

「パッセンジャー」のプラットとローレンス
「パッセンジャー」のプラットとローレンス

 遅咲きで、売れない時代の苦労を知っているプラットは、スターになったことの弊害を語るのを避けてきた。 「セレブリティであることのどこが楽しくないかなんて、言っちゃいけないよ。そんなの、誰も聞きたくない。だから僕も、すべてが好調だ、すべてが楽しいと言わなくちゃ」と言ったことがある彼は、実際、ずっとそうしてきている。だが、今年3月のインタビューでは、めずらしく、少しだけ本音を明かした。この取材を、プラットは軽食を取りながら受けたのだが、皿の上にあるパンは残し、フルーツだけを食べている。

「家から7分で現場に行けたのは好きだった。毎晩、家でディナーを食べられることも。スタジオに入ってきて、人を笑わせたと思ったら、さらっと出て行けたことも。ストーリーに責任がなかったことも。好きなものをなんでも食べられたのも恋しい。今も僕はこうやってパンを避けてフルーツだけ食べているけれど、『Parks and Recreation』の頃なら、全部たいらげて、ぶどうの枝までばくばく食べて、ビールを2杯飲んでいたよ」。

 そうやって最後にまた笑わせてくれたプラットは、サービス精神の裏で、辛さを抱えていたのかもしれない。破局を発表する声明の中で、ふたりは、「僕たちは今もお互いを愛していますし、一緒に過ごした時間を大切に胸にしまっていきます。そしてこれからも、お互いに敬意を持っていきます」と述べている。そんなふたりを、応援し続けていきたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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