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京急にも導入 関東で広まる鉄道のロング・クロス転換座席車両、今後はどう展開していくか?

小林拓矢フリーライター
京急の新しい1000形(京急電鉄プレスリリースより)

 今月6日より、京急電鉄では朝の「モーニング・ウイング号」3号に、1000形4両編成が併結されることになった。これまでは2100形の8両編成だったものに追加される形で、あわせて12両編成になる。

 京急の1000形は、長きにわたって増備が続けられてきたものの、今回登場した4両編成2本は、京急初のロング・クロス転換座席車両であり、車体長18メートルの車両では初のものである。

 これまでロング・クロス転換座席車両は、車体長20メートルの車両でのみ導入されていたものである。

「進行方向向き」のサービスがある京急の新車両

 京急は、ほかの関東圏の鉄道事業者とはちがって、特別料金を払わなくても座れる車両・2100形を走らせている。伝統的のその種の車両は、京急のフラッグシップトレインとして人々に愛されている。

 いっぽう、そういった車両は多くの人が座ることができるがゆえに、詰め込まなければいけないラッシュ時には使用が困難ともいえる。

 京急は有料座席指定車両として使うことで問題は解決した。朝時間帯の「モーニング・ウイング号」や、帰宅時間帯の「イブニング・ウイング号」は、2100形の輸送力を最大限に発揮させようとした。

 だが、2100形は座席の向きが決まっており、また2扉である。何かに使うにあたっても、条件の制約が厳しすぎる。

 いっぽう、京急はこれまでの車両に増結したり、またイベント列車などに使用したりするために、新しいタイプの車両を必要としていた。イベント列車ではトイレもほしい。そこで生まれたのが、ロング・クロス転換座席を備えた、新しい1000形20次車である。

「モーニング・ウイング号」ではロング・クロス転換座席を生かして併結車両とし、ほかではイベント車両として活用する。

 ある意味、試作品のような車両だが、京急の抱えるジレンマを解決しようとするものである。

 京急の「快特」は、泉岳寺・品川発着の京急のみの車両と、都営浅草線より乗り入れる車両の2種類がある。進行方向向きの座席を使用する車両は、京急区間のみを運行する列車でのみ使われる。

 また京急は4両・6両・8両の編成があり、制約も多い。

 このあたりを解決するのに、ロング・クロス転換座席の導入というのは、納得がいく。

 はじめは、増結車両などのために4両編成をつくり、うまくいけば8両編成の列車に導入する、という流れが考えられる。とくに、「快特」とその他の列車と運用の自在さを求めるとしたら、こうした車両の必要性は高まってくる。

 たとえば、8両編成でロング・クロス転換座席が導入された場合、三浦半島方面の「快特」だけではなく、羽田空港から都営浅草線などを経由して成田空港へ向かう列車にも使用が可能である。空港間の列車にはちょうどいい。

 今後が期待できる車両である。

「京王ライナー」にリクライニング可能な座席が登場

 今年度下期、「京王ライナー」に使用される5000系にリクライニング可能なロング・クロス転換座席が登場することになった。コイト電工が開発したもので、日本初となるものである。

「京王ライナー」5000系のリクライニングシート(京王電鉄プレスリリースより)
「京王ライナー」5000系のリクライニングシート(京王電鉄プレスリリースより)

 京王電鉄は「京王ライナー」に力をいれ、この列車は人気となっており、さらに増強しようとしている。

 ロングシートでの運用時も快適性は高い。そのあたりが京王5000系への支持が集まる理由となっており、「『京王ライナー』用の車両はもういいから新車はふつうのロングシートで」とはならない。

 しかも単純な増備ではなく、サービスの改善を行う。

 これまでリクライニングシートは、有料特急や、JR東日本の普通列車グリーン車でしか見られなかった。ロング・クロス転換座席を利用したライナー列車にはなかった。

 競合する中央線に普通列車グリーン車が導入されるという情勢の中、それへの対抗策として「京王ライナー」を一層強化するという考えなのだろう。

新しい「急行型車両」?

 国鉄には、「急行型車両」と呼ばれる車両があった。ボックスタイプのクロスシートで、2扉のものである。この車両が、ときには普通列車にも使用された。しかし普通列車としての使い勝手は悪く、遅延の原因となっていた。それゆえに利用者が暴動を起こしたことがある。

 いっぽうで近郊型車両を急行列車に使用し、「遜色急行」と呼ばれたこともある。

 関東でロング・クロス転換座席が広まったのは、このあたりの優等列車的な使い方と、一般列車でも共用できるという利便性をあわせ持つものとして便利だから、というものがある。

 フラッグシップトレイン用の車両をつくっていた京急でもこういった車両を導入し、京王ではこのタイプの車両を強化しようとしている。

 関東のJRはこのタイプの車両を導入しないものの、私鉄では確実に広まりつつある。長距離の快適な輸送と、短距離の輸送とを並立させるための車両として、各社とも新機軸のロング・クロス転換座席車両を増やしていくことになるだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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