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衆議院定数是正「10減」が直撃する10県で始まる自民の仁義なき戦い。半数を占める殿様の改易危機も

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
元首相の後継者も焦点の1つ(写真:ロイター/アフロ)

 衆議院議員の小選挙区の数を「10増10減」する改正公職選挙法が今月可決・成立。12月28日から施行されます。もしその後に衆議院が解散されたら新区割りで実施されるのです。

 増減の理由は1にも2にも1票の格差是正。当然の措置ながら選挙区が1つ減る宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、広島、岡山、山口、愛媛、長崎の10県は大騒ぎ。ここに比例区(比例代表に同じ。以下同)の「3増3減」で東北・北陸信越・中国の3ブロックが1減されるのも相まって。

 閣僚の辞任ドミノなどで求心力の低下した岸田文雄首相が起死回生の解散総選挙を狙っているとも報じられているなか、減員区の仁義なき戦いを展望してみます。

 なお後述するように減員区のある山口県で議席を得ていた安倍晋三元首相が亡くなり、後継者や補選の行方がわかりません。ゆえに本稿では安倍氏の扱いを生前のままといたします。

自民独占の滋賀、岡山、山口、愛媛の4県は「誰かが必ず外れる」

 最も険しいのが自民が小選挙区での当選を独占している滋賀、岡山、山口、愛媛の4県(21年総選挙の結果。以下同)。誰かが小選挙区での当選を諦めなければならないのです。

滋賀(4→3)は自民には珍しく世襲議員がいません。言い換えると皆が叩き上げゆえに調整が難しいともいえます。派閥は二階派2で森山派1、菅義偉グループ1。総裁(岸田派)、副総裁(麻生派)、三役(茂木派、安倍派、谷垣グループ)の執行部のどこにも属さない方ばかりで執行部が裁定するのも厳しい情勢です。

山口(4→3)は全員世襲(※注)。安倍元首相の死去で「1枠空いた」ので結果オーライとはいきそうにもありません。微妙なのが安倍氏の選挙区であった4区の補欠選挙が4月にも実施される点。それまでに解散されていれば消滅する半面で補選があればたぶん安倍氏の系譜に連なる誰かが当選しそうだから結局「現職4人」となってしまいます。

岡山(5→4)と愛媛(4→3)も世襲が目立つ。ハッキリと「世襲ではない」と言い切れるのは両県とも1人ずつ。世襲は当地における殿様みたいなものなので地盤を譲るとは改易に等しく支持者は絶対反対でしょう。

 岡山は自民独占(5人)プラス1で実質6人。というのも4区で元自民大物の息子が無所属で立候補して当選後入党したからです。自民公認候補は復活当選。ゆえに「小選挙区なのに自民代議士2人」という珍現象が出来し、次は「6から4へ」減らさなくてはなりません。

西日本の和歌山、広島、長崎の3県も揉める事情あり

 他の6県は野党が議席を得ています。うち西日本の和歌山(3→2)、広島(7→6)、長崎(4→3)は1選挙区が野党だから自民現職で収まりそうなものの、実際には個別の問題を抱えていて悶着も予測されます。

和歌山は国民民主党現職が知事に転身したため、現職でそのままというのがわかりやすい図式ですが、3区に自民重鎮の二階俊博氏の去就が注目されます。何せ御年83歳。子に継がせるとのうわさがあるなか、世耕弘成参議院議員(世襲)が鞍替えするとのうわさが絶えません。世耕氏は領袖を失った安倍派の跡目に目されているもネックは参院議員であるという点だからです。最大派閥のトップが首相を一度も輩出していない参院議員ではねえ……と。

広島は6区が立憲。ただ野党当選者は世襲で地盤が固い上に同区には比例復活した自民議員もいます。さらに面倒なのはスキャンダルで実刑が確定し既に引退した河井克行元法相が地盤としていた3区。現在は連立与党の公明が議席を保っているも自民が河井後継として支部長とした者が先の総選挙で比例中国ブロック名簿1位に遇されて当選しているのです。

 つまり広島の自民は小選挙区5人、比例単独1人、復活当選1人の計7人。連立与党を組む公明の議席をよこせとも言いにくいので次回の選挙区は6-1=実質5。岡山と同じく2人もオーバーしています。

長崎も野党議席である1区は世襲で強いため減員になれば自民現職3人が挑む構図となりなかなかに厳しい模様です。

東日本の宮城、福島、新潟の3県は比例復活同士で削り合う羽目になりそう

 東日本3県は西日本3県よりは野党議席が多いためバチバチの自民内ゲバこそ避けられそうとはいえ内情は複雑になっています。

宮城(6→5)は自民4・立憲2、福島(5→4)は自民2・立憲3、新潟(6→5)は自民2・立憲4(うち1人は総選挙後に入党)と東日本の3県は立憲民主党が善戦しています。支持率が低迷しているなかでの結果ゆえ自民側が「だったら立憲の地盤を崩せばいい」というほど簡単な相手は1人もいません。むしろ減員で自民が食われる恐れすら十分あるのです。

 やはりややこしいのは小選挙区は立憲に奪われても比例で復活当選した自民議員がいる点。小選挙区のうち宮城(野党2)で1人、福島(同3)で3人、新潟(同4)で4人。

 減員区の自民は過去のいきさつから「小選挙区勝ち抜きが優先」となりましょう。だがそうすると福島(定員4人中2人)と新潟(同5人中2人)で足りません。ゆえに「次に復活当選を優先」すると、今度は小選挙区当選者と合わせると福島5人、新潟6人と1人オーバー。復活当選者同士で削り合う羽目になりそうです。

 特に混迷しそうなのが新潟の復活当選4人の調整。2人が世襲で弾かれたらお家断絶の危機となるので必死でしょう、

比例区転出も救済の決定打にならない

 救済策としてしばしば用いられてきたのが比例区転出です。選挙区を諦める代わりに比例区の自民名簿上位へ単独掲載すると。でもここでも難問が。減員される10県のうち比例区も1減されるのが宮城、福島(東北ブロック)、新潟(北陸信越)、広島、岡山、山口(中国)と実に6県も該当してしまうという点です。

 21年総選挙の各ブロックで自民が得た議席は東北6(うち比例単独1人)、北陸信越6(同1人)、中国6(同4人)。3ブロックのなかで各1人は選挙区事情で今後も単独枠が使用されそうですから変更はなさそう。ここに選挙区を失った小選挙区当選議員を宛がうと比例単独の数が岡山と山口から1人ずつ加わる中国ブロックの比例単独が3人となります。「もともと4人だからいいじゃないか」とはいきません。中国は自民現職が小選挙区で無類に強いため比例復活が少なく、ために名簿下位の単独が当選に与っているだけだから。

 さらに復活当選組まで救済範囲を広げると東北・北陸信越が単独1人から2人へ、中国に至っては4人。ただでさえ減員されるのに復活当選の「自民枠」が狭まるので物議を醸すのは確実といえましょう。

突出する安倍派と総裁派閥のジレンマを抱える岸田派

派閥別で展望するとどうなるか。比例復活を含む数は安倍派14人(うち比例4人)、岸田派10人(同2人)、二階派6人(同2人)、茂木派6人(同1人)、麻生派4人(同1人)、他は森山派、菅G、谷垣G各々1人(同0)、無派閥3人(同1人)。最大派閥だから当然とはいえ安倍派が突出しており選挙区選出優先で調整すると不利な比例選出も4人と最多。安倍元首相というカリスマを失って跡目も決まらないなか草刈場になるかも。

 逆に党内第4派閥ながら10人を数える岸田派は多い方です。総裁派閥ゆえ調整に有利とは限りません。首相の支持が高ければともかく低迷すると「あなたのところが遠慮しろ」と他派閥から圧力がかかりそう。

世襲が約半数で「東京育ちの世襲」が6人も

 世襲か非世襲(前職からの後継指名を含む)であえてわけると世襲21人(うち比例3人)で非世襲25人(同8人)。自民党全体より世襲割合が高く、選挙区選出に限れば非世襲を凌駕しているのです。さらに「東京育ちの世襲」が6人も。安倍元首相も岸田首相も含まれます。

 なぜ減員区に世襲が多いのでしょうか。減らされるのは純粋に人口減少が理由ですから殿様を戴いても地域は衰退するわけです。むろん国会議員は憲法で「全国民を代表する」存在だから地元利益に汲々とする方がおかしい、といえなくはない。とはいえ有権者が殿様を国会に送り込みたい動機として地元利益の還元がないといったらおかしいでしょう。

 つまり殿様は結局のところ地元を潤さない。「東京育ちの世襲」に至っては少年時代の同窓生すら選挙区にいないわけで、それで状況を把握できるとも思えません。

※注:本稿での世襲とは文字通りの国会議員2世・3世(祖父も含む)に加えて国会議員の養子や配偶者の縁続きも含む

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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