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米ビバリーヒルズ市 タバコの販売をほぼ全面禁止か シュワちゃんが会員の高級シガー・ラウンジは適用外

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
タバコ販売規制が厳格化するアメリカ。写真:federalnewsnetwork

 喫煙者の割合が減少を続けるアメリカ。

 遂に、ビバリーヒルズではタバコが買えなくなるかもしれない。

 米国時間5月21日夜、ビバリーヒルズ市議会にタバコの販売をほぼ全面禁止する条例案が提出された。この条例案は、アメリカでは最も厳格なタバコ販売規制といえる。通常のタバコ、巻きタバコ、パイプ・タバコ、噛みタバコ、電子タバコなど全てのタバコの販売を禁止しているからだ。

 米国時間6月4日に、この条例案に対する最終投票が行われる予定だが、可決される可能性が高く、その場合、ビバリーヒルズ市は、タバコの販売を禁止する全米最初の市となる。条例が施行されるのは2021年1月1日からだ。

アメリカでは、成人喫煙者の割合が減少を続けている。出典:Gallup
アメリカでは、成人喫煙者の割合が減少を続けている。出典:Gallup

企業利益より健康を重視

 条例案提出に先立つ5月7日、ビバリーヒルズ市議会は条例の草案に、全会一致で支持を表明していた。そのため、同市でタバコを販売しているガソリン・スタンドやコンビニ、薬局、スーパーなどの小売店は、タバコ販売禁止により客足が遠のき、他の商品も売れなくなると言って反対していた。タバコを買いに来た客は、そのついでに、他の商品も一緒に購入するからだ。

 ナショナル・タバコ・アウトレット協会は、タバコの販売禁止により、小売店の月商が25〜45%落ちると予測している。

 しかし、ビバリーヒルズ市の市長ジョン・ミリッシュ氏は「公衆衛生は利益や短期的経営判断よりも重要」として、企業利益よりも市民の健康を優先した。

 アメリカ疾病管理予防センター(CDC)によると、カリフォルニア州では毎年約4万人が喫煙関連の病気で死亡しており、喫煙関連の病気の治療にかかる医療コストは13ビリオンドルを超えている。

 また、ビバリーヒルズ市は、タバコの規制については、アメリカでは先陣を切ってきた。

 1987年には、アメリカでは初めて、レストランや小売店での喫煙を禁止した。2014年に市議会は「ビバリーヒルズ・ヘルシー・シティー」イニシアティブを開始、2017年10月には、公道やレストランのアウトドア席から約6メートル以内、アパートやマンションなど集合住宅のロビーや廊下など共通エリアでの禁煙条例が成立。今年1月からはメンソール・タバコなどのフレーバー・タバコや電子タバコの販売が禁止された。

ホテルは販売できる

 ビバリーヒルズ市のタバコ販売禁止条例案は物議も醸している。

 この条例案は、ガソリン・スタンドや小売店でのタバコ販売を禁止する一方で、ホテルや高級シガー・ラウンジ3店でのタバコ販売は認めているからだ。ビバリーヒルズのホテルの宿泊者は、コンシェルジュを通じて、タバコが購入可能なのである。

 ホテルでの販売を認めているのは、ビバリーヒルズの商工会議所が「ビバリーヒルズのホテルの約80%の宿泊客はアメリカ以外の、喫煙者が多い国から来ている。タバコの販売が禁止されたら宿泊客が減るためホテルの収益が落ち、ひいては市の税収も減ることになる」と言って反対したからだ。

 日本を含めて、アジアでは喫煙文化が根づいており、喫煙人口が多い。ビバリーヒルズに多くのお金を落とす観光客を配慮し、市はホテルでの販売は認めているのだ。

 また、高級シガー・ラウンジについては、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏が「市は、シガー・ラウンジは電子タバコを販売するガソリン・スタンドとは違うことを認識すべきだ」と言って、シガー・ラウンジでの販売は認めるよう市に訴えていた。ちなみに、同氏は、高級シガー・ラウンジの一つ、「グランド・ハバナ・ルーム」の会員である。

 しかし、ホテルや高級シガー・ラウンジでの販売は認める市の方針に、タバコを販売する小売店からは「アンフェアだ、差別だ」と不満の声が上がっている。

 ビバリーヒルズには高級ホテルが多く、宿泊料も高い。高級シガー・ラウンジのメンバーもセレブや富裕層が中心だ。一方、タバコを販売する小売店はパパママ・ストアが多く、客単価も安い。そのため、あるガソリン・スタンド経営者は「ビバリーヒルズ市は、一泊4000ドルもするようなホテルがタバコの売上げを維持することは許可するのか」と怒りの声を上げている。また、タバコを販売する小売店からは、売上げが激減するため「従業員を解雇しなければならなくなる」、「倒産する」という声も上がっている。

 タバコの販売を禁止している市は他にはないことから、ビバリーヒルズ市を相手どった訴訟へと発展するのではないかと予測するアナリストもいる。

大手ドラッグストアも販売禁止

 アメリカでは、大手小売チェーンもタバコ販売を厳格化する方向へと移行している。

 2015年、CVSはドラッグストアチェーンとしては初めてタバコの販売を禁止した。その影響は大きかった。同チェーンの市場シェアが15%以上の州では、市場シェアが15%以下の州と比べて、禁止後8ヶ月で、タバコ販売数が1%減少したからだ。これは、9500万箱分の減少、喫煙者1人当たり5箱分の減少に相当するという。

 アメリカの連邦法はタバコが購入可能になる年齢を18歳と規定しているが、14の州とワシントンDCのあるコロンビア特別区は21歳と定めており、近年、21歳へと引き上げる州が増えている。

 米国時間5月8日には、米国最大の小売チェーン・ウォルマートも、タバコを販売する対象を、これまでの18歳以上から21歳以上へと引き上げると発表した。

 連邦議会も、米国時間5月20日、タバコが購入可能になる年齢を現行の18歳から21歳へと引き上げる法案を提出。タバコに対する規制は厳格化している。

 進歩的なカリフォルニア州で承認された法令はじょじょに全米に広がっていくことが多い。タバコの販売禁止は、今後、他の市へも波及するかもしれない。

参考記事:cvs health research institute

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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