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フリック・バルサはどう生まれ変わるのか?ヤマル、クバルシだけではない

小宮良之スポーツライター・小説家
ラミン・ヤマル(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 FCバルセロナ(以下バルサ)は、2年半にわたってチームを率いたシャビ・エルナンデス監督と決別し、新たにハンジ・フリック監督を招聘した。

 シャビはバルサ下部組織であるラ・マシア出身で、数々のタイトルをプレーヤーとしてもたらしたレジェンド監督で、「新生バルサ」を託されていた。一度は留任が発表されていただけに、ショッキングな決定だった。しかし、シャビ自身がチームの補強にたびたび不満を洩らし、それをジョアン・ラポルタ会長が嫌っていただけに、起こるべくして起こった別れだったと言えるかもしれない。

「クレ(バルサファン)は今のバルサが25年前と違うことを理解しなくてはならない」

「クレは、バルサが経済的にレアル・マドリーやヨーロッパのトップクラブと競争するのが難しい状況であることを理解すべき」

「今の監督は『この選手も、あの選手も欲しい』とは言えない」

 シャビが次々と発した言葉は、責任転嫁やエクスキューズにも受け取ることができて、ラ・マシア(バルサ下部組織)中心に生まれ変わろうとするチーム方針と決定的に袂を分かっていた。

 では、フリック・バルサはどう生まれ変わるのか?

開幕のバレンシア戦は勝利

 ラ・リーガ開幕戦、フリック・バルサは上々のスタートを切っている。敵地でバレンシアに1-2と勝利。EURO2024、パリ五輪優勝メンバーも多かっただけに、まだ完全にフィットしているわけではないが、それでも随所に攻撃力の高さを見せていた。

 何よりフリックがシャビと違うのは、「ラ・マシア中心で未来を切り拓く」という強い意思表示だ。

 それぞれ17歳のラミン・ヤマル、パウ・クバルシは新しい顔だった。17歳のマルク・ベルナル、20歳のマルク・カサドも先発で大抜擢。22歳のパウ・ビクトール、ジェラール・マルティンという二人も交代で送り出していた。

 シャビもヤマル、クバルシ、フェルミン・ロペスを覚醒させているが、キャリアのある外国人選手を好んでいたことも確かだった。フリックは昨シーズン、チームMVPに近かったドイツ代表イルカイ・ギュンドアンを構想外(マンチェスター・シティ移籍が決定的)にし、ラ・マシアの若いMFたちを起用した。高額年俸の問題もあったが、賭けに出たのだ。

 もともとバルサは、中盤の人材が豊富なクラブである。外国人選手を獲得することに抵抗はあった(フレンキー・デ・ヨングも放出リストに入っているという)。バルサのレジェンドMFシャビが去り、皮肉にもラ・マシア色が強くなったと言える。

フリックの戦い方の方向性

 フリックは手持ちの戦力でバルサの戦いを取り戻そうと、明確な姿勢を打ち出している。

 例えば、ロベルト・レバンドフスキの得点力を生かすため、プレッシングは相手のボランチをつかまえるだけで、極力、足を使わせず、ゴール前でエネルギーを放出させる形にした。おかげで開幕のバレンシア戦は2得点。体力的な衰えは隠せないが、ゴール感覚という代えがたい能力を引き出している。

 主要フォーメーションは4-2-3-1になるだろう。2019-20シーズン、バイエルン・ミュンヘンで欧州を制覇した戦い方で、攻守のバランスを取りながらプレーにダイナミズムを与える。ゴールに向けて強い矢印を出すのが特徴だ。

 シャビ監督時代よりも、はっきりと長いボールを蹴ったり、サイドチェンジを使ったり、大きな展開でゴールを狙うことになるだろう。実際にプレシーズンのレアル・マドリード戦では、右サイドからのサイドチェンジにファーサイドでレバンドフスキが折り返し、パウ・ビクトールが得点。バレンシア戦も、アレックス・バルデのサイドチェンジに大外にいたヤマルが反応して折り返し、レバンドフスキが決めている。

「ダイナミズム」

 それも一つのキーワードになるかもしれない。

バルサのスタイルを革新できるか

 フリックは、選手の特徴やキャラクターを見抜き、起用する術に長ける。その点、ジョゼップ・グアルディオラにも匹敵するだろう。チーム戦術は、ポゼッションorカウンターのような話になりがちだが、局面によって使い分けられる。

 おそらく、バレンシア戦の布陣と先発メンバーにも固執していない。

 例えばライプツィヒから獲得した(ラ・マシア育ちの)ダニ・オルモのコンディションがフィット次第(選手登録がギュンドアンのマンチェスター・シティ移籍で完了か?)、ゼロトップも考えられるだろう。また、ペドリがトップフォームを取り戻したら、フォーメーションすら変わるかもしれない。守備の要であるロナウド・アラウホのケガによる長期離脱はマイナスだが、パウ・クバルシは存在感を増すばかりだ。

 フリックはラ・マシアの人材が最大限に力を発揮できるように、組み合わせようとしている。

 ただ、例外もある。

懸案の左サイドアタッカー

 フリックは、左サイドのウィング的アタッカーの獲得は強く求めている。EURO2024でブレイクしたニコ・ウィリアムスの獲得交渉を進めていたが、あえなく決裂。その後は、ACミランに所属するラファエウ・レオンとの契約を目指しているという。ラフィーニャ、フェラン・トーレスはオプションだが、突破だけでなくゴールも狙えるか、となると、帯に短したすきに長し。ただ、レオンの移籍金は1億2000万ユーロで現実的ではない。

 そこでプレシーズン、台頭したパウ・ビクトールは候補の一人だろう。昨シーズン、バルサBで20得点したゴール感覚は伊達ではない。彼もサイドより、セカンドストライカータイプだが…。

 ネイマール以後、確立できていないポジションでフリックがどんな答えを出すか。ニコは最適解だったはずだが、そうはうまくいかない。かつてのアンドレス・イニエスタのように、ガビ、もしくはペドリを左サイドで起用するのもオプションで、MF的な性格の選手が入った方がショートパスをつないで崩す伝統を革新する気もするが…。

 チームは大きな変革期にある。

 オリオル・ロメウはジローナ、ジョアン・カンセロはマンチェスター・シティに返却し、セルジ・ロベルト、マルコス・アロンソは契約満了。ジョアン・フェリックスはアトレティコ・マドリードにレンタルバックでチェルシーへ。同じくマルク・ギウもチェルシーへ売却。鳴り物入りで入団したブラジル代表ヴィトール・ロッキはベティス移籍が濃厚で、アンドレアス・クリステンセン、デ・ヨングも放出リストに入った。

 どのようなチーム編成になるのか――。ともあれ、フリック・バルサはラ・マシア中心でスタートを切った。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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