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新型コロナと『川崎病類似の重症の病気』を、現状でどのように理解すればいいか?小児科医が解説

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス(SARS-Cov2)により、川崎病が起こっているのではないかという報道が目立つようになっています(※1)(※2)。

(※1)コロナ感染歴ある子どもに「川崎病」症状 欧米で相次ぐ

(※2)コロナ関連の奇病で男児死亡 米NY、川崎病似の症状73人

そして5月9日にTwitterでは、『川崎病似の症状73人』というフレーズがトレンド入りしており、前線の小児科医としても、心配しています。一方で、川崎病という言葉が独り歩きし、心配を増幅させているようにも見えます。

この『川崎病似の症状』を、どのように考えていけばいいのでしょうか

現時点で、小児科医の目線で情報を整理し、内容を共有したいと思います。

川崎病とはなにか、前回の記事からおさらいしましょう

イラストAC
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5月1日の記事でお話しした内容を再度まとめます。

川崎病は、1967年に日本人の川崎富作先生により初めて報告された、乳幼児によく診られ発熱を伴って全身の血管炎が起こる『原因不明の』病気です。

診断は確立しており、症状から確認していきます(症状がはっきりせず、診断が難しい場合もあります)。

つまり、(1)発熱、(2)眼球結膜(目の白い箇所)の充血、(3)くちびるや口の中が赤くなる、(4)発疹、(5)手足の先の変化(赤くなったり腫れたりする)、(6)首のリンパ節が腫れる、といった症状でみていきます(※3)。

(※3)川崎病診断の手引き 改訂第 6 版 - 日本川崎病学会

そして2018年には、『新型コロナ関係なく』日本だけでも17364人の発生があります。決して珍しくはありませんし、奇病でもありません。そして確立した治療法はあります。

『原因不明の』病気ではあるものの、ウイルス感染が『きっかけ』で川崎病を発症することがあります

つまり、新型コロナではない、『従来の』コロナウイルスも川崎病を発症する『きっかけ』になるということは、新型コロナも川崎病を発症するきっかけになりうるということです。

ここまでが、前回お話しした内容でした。

新型コロナが川崎病発症のきっかけになったかもという報告はあるでしょうか?

写真AC
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新型コロナと『(典型的な)川崎病』に関しては、すでに4月7日に生後6ヶ月のお子さんの報告があります。

症状は典型的で、一般的な治療であるガンマグロブリンとアスピリンで改善されています(※4)。

(※4)Hosp Pediatr 2020.[Epub ahead of print]

ここまでは十分予想される範囲といえましょう。

新型コロナに限らず、感染症が大規模に流行すると川崎病が増えることがありますし、従来のコロナウイルスも、『きっかけになる人がいる』ことはわかっていましたから。

新型コロナと川崎病に関連した記事を読む際に、どのあたりに気をつけて読む必要があるのでしょうか?

写真AC
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今回の報道でみられる症状をみていると、『新型コロナが関係(しているかもしれない)重症の川崎病(のような)』病気は、『川崎病ショック症候群(に似た状態)』を指しているようです。

『川崎病ショック症候群』とは、川崎病のなかでの重症型です。

2009年に初めて報告された比較的新しい型で、『血圧が大きく下がったり』、『胃腸症状が出やすい』という特徴をもっている症候群になります(※5)。

(※5)Pediatrics 2009; 123:e783-e9.

この報告では、川崎病187人中13人(7%)が川崎病ショック症候群とされていましたが、日本での川崎病ショック症候群がどれくらいあるかは、現状でははっきりしていないようです。

5月7日、有名な医学雑誌に『新型コロナと(関係しているかもしれない)川崎病ショック症候群(類似の)8人』が報告されました

写真AC
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そして5月7日、医学雑誌として有名な『ランセット』に、新型コロナウイルス感染(COVID-19)の関連が“疑われる”『川崎病ショック症候群(類似の病態)』という内容が報告されました(※6)。

(※6)Riphagen S, et al. Hyperinflammatory shock in children during COVID-19 pandemic. Lancet. 2020(日本語訳)

2020年4月中旬、英国の病院で川崎病に似た症状があったり、川崎病ショック症候群の定義を満たしたり、中毒性ショック症候群に類似した特徴があるお子さんが8人入院したという内容でした。

そして、7人は4~6日で集中治療を終え退院されましたが、ひとりは血圧が大きく下がりショック症状から不整脈を発症し、脳血管梗塞で亡くなったそうです。

現在海外で報道され伝え聞かれる『川崎病に似た重症の子ども達』に一致する内容です。

その子ども達8人中4人は、家族の中に新型コロナウイルス(SARS-Cov2)に感染している方がおり、濃厚接触していたことがわかっています。注意点は、最終的に5人はSARS-Cov2のPCR検査陰性であったにもかかわらず、濃厚接触者であることから新型コロナ感染を疑われているという点です(確定診断といえるかどうか議論が残る)。

現状では、『このランセットに報告された川崎病ショック症候群』と、『これまでの川崎病の重症型である川崎病ショック症候群』が(少なくとも私には)同じ病態かよくわかりません

たとえば、川崎病はよく起こる年齢は1歳をピークになだらかに下がっていくのですが、この報告は6歳から14歳とあきらかに年齢が高いことがひとつ挙げられます(川崎病ショック症候群が、一般的な川崎病よりも年齢がやや高めという報告はありますがはっきりしていないのです)。

新型コロナは、川崎病の症状を強く出しやすいのでしょうか?

pixabay
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川崎病は、大元に『血管の炎症』がある病気です。

そして、細い血管の炎症が原因(かもしれない)皮膚症状が、新型コロナにかかった方(特に若い患者)で出現するかもしれないという報告があります(※7)。

(※7)JAAD Case Rep 2020.

また、心臓の筋肉のダメージを示す血液の中のトロポニンという値が高くなると新型コロナで亡くなる方が多くなるかもしれないことを示す報告もあります(※8)。

(※8)J Card Fail 2020.

そういった意味では、新型コロナのほうが、川崎病ショック症候群をおこしやすい『可能性』はあるかもしれません。しかし、まだまだ状況証拠のみともいえます。

現状では、以下のように私は理解しています。

(1) 新型コロナウイルス感染症でも川崎病は起こりうる(従来のコロナウイルスより起こしやすいかどうかわからない)

(2) 川崎病は、一部が川崎病ショック症候群になりうる(従来のコロナウイルスより新型コロナが川崎病ショック症候群を起こしやすいかはまだわからない)

そう、現在のところの情報では、まだまだ確定しがたい点が多いということです。

5月7日に、日本川崎病学会から声明がでています

写真AC
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このような報道を受け、日本川崎病学会から『川崎病とCOVID-19に関する報道について』という声明が出されました。一部を抜粋させていただきます。

川崎病患者数、重症患者数共に平年並みか減少したと回答する委員が多く、増加しているとの回答はありませんでした。一方、報告された小児の COVID-19 患者はいずれも軽症で、欧米で報告されているような川崎病類似の重症例、川崎病と COVID-19 との合併例共に確認されませんでした。

出典:川崎病とCOVID-19に関する報道について

すなわち、すくなくとも日本の医療の前線では、(新型コロナ関係なく)川崎病が大幅に増えているとは感じていませんし、海外で報道されているような、『川崎病ショック症候群に似た重症な子ども』は多くなっているとはいえないと思われます。

冷静な対応が必要だろうと思います。

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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