進みつつある、宗教2世問題。一刻も早い法整備を求める2世の声!救済のために、何が必要なのかを考える。
厚生労働省は、10月初めに宗教2世らの要望をうけて「保護者である親でも、信仰を理由にした行為は児童虐待にあたる」という通知を全国の自治体に出しました。しかし現場において「どのように対応するべきなのか」といった具体的なものが必要でした。11月には加藤勝信厚生労働大臣から「虐待の相談について児童相談所などで対応する際の留意点をまとめたQ&Aを作成する」との発言もあり、より実効性のある対応が全国でなされることが期待されています。
この流れは宗教2世が必死な思いで上げた声が、実を結びつつあることを示しています。
11月は「児童虐待防止推進月間」です。
本日(11日)立憲民主党の山井和則議員から、衆議院厚生労働委員会にて、旧統一教会やエホバの証人の「宗教的な児童虐待」の疑いについて、加藤厚労大臣との質疑応答がありました。
それを聞きながら思うのは、信者である親が児童虐待をしているのは、その裏に教義があるからです。つまり組織的に行われているから、これだけの虐待の被害報告が上がってきているわけです。
山井議員から「文化庁からは宗教団体への指導はできません。児童虐待の観点から(大臣・厚生労働省から)指導なりの対応をして頂くことはできませんでしょうか」の質問に対して、加藤大臣からは「児童福祉法の指導対象は保護者に向けたもので、団体に対しての指導はできず」と現行の法律では難しいとの見解でした。
大元の団体に対してのしっかりとした指導ができなければ、延々と児童虐待の被害が続くことになります。やはり今、起き続けている被害を止めるためには、一刻も早い様々な面からの法改正の必要性を感じます。
「宗教2世虐待・権利侵害救済のための法整備に関する要望書」記者会見から
先月27日、高橋みゆきさん・小川さゆりさん・団作さん(いずれも仮名)の宗教2世らによる「宗教2世虐待・権利侵害救済のための法整備に関する要望書」の記者会見がありました。そこから、2世救済のために何が必要かを考えます。
冒頭で小川さんは「今回は統一教会だけではなく、エホバの証人をはじめとした他の宗教団体における宗教2世問題についての会見になります」と話しました。宗教2世の問題は旧統一教会だけのことではありません。
筆者は、1987年に旧統一教会に入信しました。当時、街頭では他にも、オウム真理教など数多くの新興宗教が勧誘活動をしていました。2000年代にかけて何かしらの宗教団体に入った人は多いと思います。そうした人たちが40代、50代になり1世信者として今、家族を持って、信じ込んだ教義を中心に宗教2世を育ててきたわけです。そこに多くの問題が発生しています。
会見での3つの要望事項
(1)「超党派での今国会での宗教2世の虐待・権利侵害救済の法整備」
(2)「児童虐待防止法の改正」
(3)「宗教2世の相談支援体制の整備」
高橋さんは「これまで行政、国に対してさまざまな形で、宗教2世の被害の声を上げてきましたが『宗教問題に介入できない』『信教の自由を侵害できない』との理由で、今まで国から見捨てられてきたのが、宗教2世たちです」と救済措置の必要性を強く訴えます。
具体的な短期の要望について「児童虐待防止法の改正」を挙げ「今期、国会での法律整備を求めていきたい」とし、さらに「『親の思想信条に関わる虐待であっても一般の虐待と同様に被害児童を救済すること』『児童に対して恐怖を植え付ける行為、もしくは恐怖による行動の制限・強制は、心理的虐待である』と明確に定義付けをして頂きたい」とも話します。
その他「他者に対して虐待行為を行うよう誘導、指導する行為を刑事罰化すること」「児童自らが悩みを相談しやすい環境および相談期間の整備」など10項目を求めています。
宗教2世の具体的な被害事例が多数報告
小川さんからは、旧統一教会などの宗教2世の具体的な事例が数多く紹介されました。その一つを挙げておきます。
「幼少期に自由恋愛を禁止され『言うことを聞かなければ地獄に落ちる』と脅迫まがいにせめられた。毎週日曜日の朝5時からの祈祷会は、無理やり起こされ強制的に参加させられる。妹は現在統合失調症と診断され治療中。しかし自分が介入するまでは、親は病院に連れていくこともしなかった。妹の状態が悪いのは全て悪霊、先祖の霊など見えないもののせいとして、解決法が先祖解怨(先祖の悪因縁を解くこと)でした。現在も妹はずっと引きこもり状態となっている」(30代宗教2世)
非常に深刻な状況が今も数多く続いています。
子供に鞭を打つなど、身体的虐待行為の実態
記者会見のなかで、筆者が注目したのが「エホバの証人」の宗教2世である団作さんの話です。旧統一教会と他宗教との被害状況を比べてみることで、その共通性から今後、何が必要かがみえてくるからです。
「エホバの証人では、子供に鞭を打つなど、身体的虐待が推奨されていました。私も小学生の頃から電気コードなどで体をめった打ちにされるという身体的虐待を、日常的に受けて育ちました」(団作さん)
宗教団体の集会中に居眠りをしたり、親の機嫌をそこなうと、罰として体を何発も叩かれたといいます。しかし「暴行による傷害なのですが、私たち子供からすれば、日常的に行われており、それが虐待という犯罪の認識はありませんでした」と話します。まさにここが大事な点です。
信教の自由があり、親からそれが教育方針だと言われれば、行政などからの救いの手はストップしてしまいます。そこで「子供からの被害を訴える積極的な声」がほしいところですが、当の本人が教義をすりこまれた状況では「虐待」などとは思っていませんので、被害の声を上げられるはずはありません
このような虐待被害を防ぐためには、やはり体に受けた傷の変化を周りの人たちが見逃さないことしかありません。またお尻という外からは見えない部分であっても、傷などの痛みからの行動の異変に気づくことも大切です。そのためにも、社会の関心と監視の目が必要です。
今、肉親や親族の誰かがカルト系の団体に入ることで、その信者家庭とは反目した状態になっているかもしれません。しかし「児童に対して虐待が行われている」ことを知って頂き、身近に信者がいる方には、より注意の目を向けて、気づいたことがあれば、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」に通報をして頂きたいと思います。
厄介な「恐怖心」を利用したマインドコントロール
恐怖心を利用した信仰や宗教活動の強制もあったとも話します。
「幼児期から教義と称して『信仰を持って宗教活動を行わなければ死にます』と親から教えられて育ちました。当然のように宗教活動への強制参加を求められ、子供の頃から家々を突然訪問して、家人に怒鳴られながらの布教活動にも参加させられました。はっきり言います。これは間違いなく児童労働です」(団作さん)
筆者が統一教会の信者時代、「エホバの証人」の布教活動とは、伝道活動中よく鉢合わせすることがありました。確かに、子供を連れて訪問しているのをよくみかけました。本当に、辛い気持ちでその子供たちが同行していたことを思うと、胸が痛くなります。
こうした心理的虐待は、表にはみえてきません。それだけに厄介だといえます。ここは旧統一教会の宗教2世にも通じるところですが、基本的に、心理的虐待は教義に基づいて行われます。つまり「恐怖心」を心に植え付けられているということを、児童からの相談を受けたり、保護する側が事前に知っておくが何より必要です。
周りとの交流を阻む実態も
また「武道、柔道や剣道、国歌・校歌の斉唱、国旗の掲揚、運動会の応援団への参加も禁止でした。友人と誕生日を祝うことや、逆に祝われることも禁止です」とも話します。
これは、他者との人間関係を絶つように仕向けるという、マインドコントロールにおけるポイントにもなっています。旧統一教会でも、周りに相談できない環境を作り、組織以外の人たちと交流する道を閉ざして、信者への道を強固なものにします。
児童の周りの人との交流を阻むような実態にいち早く気づけるのは、教育現場になるかと思います。教職員の宗教2世問題への意識の向上も必要です。教職員の方は大変だと思いますが、宗教2世にこうした問題があることを知って、救済のアプローチへの手助けをして頂くことを願います。
最後に、小川さんは「宗教2世の問題は統一教会だけではなく、エホバの証人をはじめ、多くのカルト宗教で類似の問題があります。一刻も早く今期の国会で二度と同じ宗教被害者が生まれないような法整備をして頂きたいです」と強く訴えます。
会見後、要望書の提出に同行して
会見後、子供政策を精力的に進めている、各政党の議員の方に要望書の提出を行うとのことで同行させて頂きました。その際、挨拶を兼ねて、筆者も1世元信者の立場から、お話をさせて頂きました。
「1980年代~2000年代にかけて、正体を隠した伝道などにより、拒否できないような環境下に引き入れられて、教義を信じ込まされた信徒らが、今親となって、子供を育てています。自分たちがすりこまれた教義を今度は、同じように拒否できない環境下にいる子供たちに押し付けています。長年の悪循環が今も続き、宗教2世の虐待問題などにつながっていると考えています。しかも、彼らは教義に基づいて、良きことをしていると思い込んでいるだけに、社会の目が届かないなかで、事態は深刻化しています。早急な法整備を行い、1980年代から続くこの悪循環に終止符を打つことをお願いしたいと思います」
小川さんや高橋さんらが議員らに必死なお願いをする姿を見ながら、それに引きずられるように、自らも率直な思いをいつの間にか口にしていました。
今、宗教2世の上げた一つひとつの小さな声が、しだいに多く寄せられて、今や大きなうねりになって、国を動かすまでにきています。あともう少しです。子供を守りたいと願う人たちの知恵と力が必要な時を迎えています。