ノルウェーの男女平等 若い政治家のフェミニズム勉強会では、このようなことが話し合われる
男女平等政策が進んでいるとされる北欧ノルウェー。その裏には声をあげて行動してきた女性たち、政策を推し進めてきた政治家らがいる。
ノルウェーの男女平等の同義語として頻繁に使用されるノルウェー語が「リーケスティーリング」(Likestilling)。男性と女性の平等だけではなく、移民・若者から多様な性に至る、あらゆる人の平等を意味している。
今回は最大政党である野党・労働党の青年部AUFを訪問した。10~20代の若者が集まるAUFで、若い党員向けにフェミニズムについての勉強会が開かれていた。
政治家の卵たちはフェミニズムをどう学ぶのだろうか?
アグネス・ナーラン・ヴィリュグラインさん(20)は、青年部オスロ支部の代表を務める。筆者が党の政策や若者の政治活動の取材でよく会うひとりだ。政策議論が得意な彼女は、将来の有望な首相・大臣候補だと周囲の人々は評価する。
批判すべきは個人ではなく社会システム
「まず心にとめておいて欲しいことが、私たちは社会システムを批判するのであり、一個人を批判するのではない、ということ。女性に非があるのではなく、女性の生き方を制限しているのは社会の枠組み」と党員たちに話す。
この「個人の生き方を責めるのではなく、そう生きることを強いる社会システムを批判する」という考え方は、ノルウェーの各政党が頻繁に主張することだ。この基本を忘れると、自分たちの生き方を政治家に非難されていると、人々は苛立ってしまうだろう。
平等政策に消極的な政党や政治家はノルウェーにはいないのではないだろうか。どこの政党も、環境や労働政策では互いの批判合戦をするが、平等政策においては全体的にみんなで頑張って改善していこうとする傾向が強い。
右派・左派の平等政策の違いは、「赤と青色のタイツ」
それでも、右派・左派には違いがあるとヴィリュグラインさんは説明する。
パワーポイントに現れたのは、青い色のタイツと、赤い色のタイツを履いた女性の脚だった。
「青色がシンボルカラーである右派は、『青色のタイツ』と例えられ、平等政策は個人から自然と達成されるという考えがベース。(一定数を女性や男性に割り当てる)クオーター制には反対の立場をとります」。
「赤色がシンボルカラーの左派は、『赤色のタイツ』と例えられ、平等推進はみんなの共通の闘いと考え、政策を重要視します。待っていても、平等は達成できません」。
「今の政権は首相・財務大臣・外務大臣とトップスリーが女性となったことから、すごそうにみえますが、これはシンボル政治。首相率いる保守党が、パパクオーターを14週から10週に減らした結果、父親の家庭での時間は減りました。平等推進にはアクティブな政策が必要。保守党のように、『自然と改善される』という姿勢ではだめ」とヴィリュグラインさんは批判した。
※「シンボル政治」はノルウェーでよく使われる用語で、外見はすごそうに見えるが、実際は中身に効果がないとされる政策。
「女性の日」のパレードは左派?
ノルウェーでは3月8日の「女性の日」に大規模なパレードがあり、改善が必要な政策や思想を人々が訴える。「左派のイベント」ともいわれており、首相率いる右派政党の姿はない。
これに関してヴィリュグラインさんの祖母は眉をひそめるそうだ。「私のおばあちゃんは、あまりにも政治的になりすぎると、一部の人々がパレードに参加しにくくなるとも言っています」。
ノルウェーの「フェミニズム第3の波」
ヴィリュグラインさんは、フェミニズムの歴史を振り返り、ノルウェーでの第1・第2の波から、「第3の波」を説明した。
「1990年から今における第3の波については、みなさん批判的でいてくださいね。この波があるかどうかは意見はわかれていますから」。
党員たちからは意見がだされる。今の第3の波として考えられるテーマはなにか?
広告などから受ける完璧な女性の理想像や身体に関するストレス、企業で増加しない女性リーダーの数、そして移民を背景とする女性たちが受ける社会や家族からのコントロールなどが挙げられた。
支配者による「5つの抑圧テクニック」を知ろう
ノルウェーには、支配する側による「5つの抑圧テクニック」(De fem hersketeknikker)という、平等推進において重要な役割をこなしてきた戦術がある。
これは、会議などで女性が他者からどのように抑圧されるかを分かりやすくしたものだ。
- 無視する
- からかう
- 情報を与えない
- 2重の罪。何をやってもダメ、うまくいかない
- 罪と恥の意識をあたえる
会議などで女性が発言した時、「私なんかがこんなところにいて、発言してすみません」と思わせる。女性に罪悪感を背負わせるテクニック。
一部の人だけが情報をもち、周囲に共有しない、情報へアクセスさせない。「おや、君にはこの書類が渡っていなかったんだね」と、女性に力となる情報を渡さない。
なにかしたとしても、しなかったとしても、非難される。
ヴィリュグラインさんは、若い党員たちに「5つの抑圧テクニック」を覚え、負けないようにと諭す。
このテクニックは、筆者が訪問する他の政党や団体でも、女性たちが集まる場で頻繁に話し合われるものだ。
テレビやラジオの討論で年上の男性などと議論していると、この「5つの抑圧テクニック」をかけられる人は多い。このことを知っているだけでも、「抑圧テクニックをされている」と身構えることができる。
発言ばかりする女性の私は、男性にからかわれる
ヴィリュグラインさんは、自身も抑圧テクニックをよく体験すると、勉強会後に筆者に話した。
「私はずっと話し続けて、意見をどんどん言う性格です。おとなしい元来の女性らしさからは、かけ離れているかもしれません。議論や会議の場で、男性などから『またしゃべっているね』と、からかわれます。実際はその男性ばかりが発言していることのほうが多いのですけれどね」。
それでも、自分たちが当たり前とされてきたカルチャーを変えていくことに意味はあるとする。自分たちはつらくとも、次の世代には生きやすい社会になると、ヴィリュグラインさんは話す。
政策が違うからといって、他の女性政治家を憎しみで個人攻撃することはやめよう
「他の女性のためにも」、自分たちから行動することが大事だと、ヴィリュグラインさんは党員たちに語る。
(右派ポピュリスト政党で、厳しい移民政策で知られる)リストハウグ移民・社会統合大臣(進歩党)は、労働党と対立する女性政治家だ。世論を分断させているとして、同大臣を毛嫌いする人も多い。
「リストハウグ大臣がどれだけ物議を醸すといっても、批判するべきは彼女個人ではなく、政策です。彼女に憎しみが集まったところで、何も解決には至りません。こういう目にあうのかと、他の女性が政治家になりにくくなるし、労働党の政治家にも悪影響を与えます」。
抑圧テクニックに対抗し、組織内や社会によりよいカルチャーを増やすこと。ロールモデル、女性政治家、与えられたチャンスに「イエス」と答える女性が増えること。このような変化が、平等推進につながると勉強会では話し合われた。
「私たちは戦い続けなければいけません。座って、待っていても、フェミニズムや平等が向こうからやってくることはありません」。
Photo&Text: Asaki Abumi