シュレッダー係とされたAさん、アリさんマークの引越社・井ノ口副社長の反論に炎の再反論!!!
みなさん、こんにちは。弁護士の佐々木亮です。
師走のひと時、いかがお過ごしでしょうか。
今回はアリさんマークの引越社事件を取り上げたいと思います。
アリさんマークの引越社の事件はいろいろありますが、話題となっているのはAさんをシュレッダー係にした上、懲戒解雇し、その理由を「罪状」などと書いて全店舗に貼り出した事件ですね。
この事件では解雇はすぐに撤回されたものの、シュレッダー係のままで、なおかつ、抗議行動をする労働組合に対する同社役員のVシネマ的な対応が写った動画が話題となりました。
会社側の一方的な意見を垂れ流す記事が登場
そんなアリさんマークの引越社事件なのですが、先日、アリさんマークの引越社に関する次の記事が公開され、そこそこ話題となりました。
・「ブラック企業大賞はただの企業イジメ」…アリさんマークの引越社副社長が猛反論
この記事のブラック企業大賞批判のところは、すでに、下記記事で、実行委員の一人である河添誠さんを取材した反論記事が出ているので、そこに譲りますが、
・ブラック企業大賞に「アリさん引越社」副社長が「企業恐喝」とデマ攻撃! 超ブラック企業に丸乗り「SPA!」の責任は
この記事の最大の問題は、シュレッダー係にされたAさんの言い分が全く載っていない(取材すらされていない)ということです。
副社長の言い分をただただ垂れ流した「SPA!」の記事では、まるでAさんが問題社員かのように言われておりましたので、言論には言論を、ということで、あるフリーライターの方からAさんをインタビューしたという文章が提供されましたので、この場を借りてご紹介したいと思います。
11月29日、『週刊SPA!』(扶桑社)のウェブ版に、ブラック企業大賞にノミネートされ、「ウェブ投票賞」と「アリ得ないで賞」をダブル受賞したアリさんマークの引越社の井ノ口晃平副社長のインタビューが掲載された。井ノ口副社長は、「ブラック企業大賞をエサに企業恐喝まがいの行為をして、金銭を要求することが真の目的」などとしてブラック企業大賞を批判。アリさんマークの引越社のブラックな労務管理を改善しようと、プレカリアートユニオンに加入して交渉したことで、追い出し部屋であるシュレッダー業務に追いやられている社員Aさんに対しても、遅刻癖があり、社会人として問題があるかのように非難した。当のAさんは、井ノ口副社長のインタビューをどう読んだのか。
Aさんは遅刻の常習犯だった?
――井ノ口副社長は、「(Aさんは)度重なる遅刻から営業を外された」と言っています。
私が、営業専任として働いていたのは平成26年6月から平成27年5月までです。会社側は、労働組合(プレカリアートユニオン)に対し、計12回遅刻したと主張しているのですが、営業専任だった期間では9回遅刻したことになっています。
この9回の遅刻ですが、そのうち3回の遅刻については事実や根拠は説明されていませんので、遅刻したかどうか、定かでありません。
私は平成26年9月、10月は、羽田支店に勤務していました。
連日7時に出勤し、22時頃まで働いており、9月は営業を担当する約70人中8位、10月は12位の成績を上げていました。
支店の営業時間は8時から20時で、営業専任は仕事が終わるのが閉店後になるため、営業車での通勤を指示されていました。
車通勤ですから、余裕をもって家を出ても、事故や渋滞など道路状況によって、どうしても7時を過ぎてしまうことはありました。
その場合は、事前に道路状況の説明をし、少し遅れると会社に連絡をしていました。
営業車で通勤する際、道路の混雑などで多少遅刻をしても通常は遅刻として責任を問われることはありませんでした。
残り6回のうち5回の遅刻については、1月上旬に八王子支店に異動になった後、やはり営業車で通勤しているときのことです。
やはり道路状況によって、わずかに遅刻をしたけれども、遅刻として注意をされたり、責任を問われてもいませんし、始末書を書いてもいません。
なお、アリさんマークの引越社では、社員の妻の誕生日に祝い金を出すというのを売りにしています。
ただ、この祝い金をもらうには、その社員の妻の写真やその他書類を会社に送る必要があるのです。送った写真は、「アリさんファミリー」に掲載されることがあります。
重要なのは、祝い金の支給条件に、過去4ヶ月間遅刻していないこと、というのがあることです。
私は平成27年1月には自宅に妻の誕生日祝い金を満額支給する旨の書類が届いています。
ですので、平成27年1月から過去に遡って4か月間は、私は遅刻はしていないということです。
井ノ口副社長は、私に遅刻癖があるかのように言っていますが、営業担当者として働いていた期間の9回の遅刻のうち8回は、通常、社内で遅刻扱いにはされない、営業車での道路事情による遅れです。
残る1回の遅刻は、私の不徳の致すところで、目覚ましのアラームをかけ忘れ、2時間遅刻をしてしまいました。
ちょうど引越しシーズンで(3月、4月が引越社の繁忙期で年間の売り上げのほとんどをこの時期に売り上げています)、疲れが溜まっていました。
疲れていたとはいえ、1回は寝坊による遅刻ですから、始末書も書いており、記録に残っています。
一方で、営業を担当していた期間でこの日以外は遅刻で始末書を書いていませんので、問題視される遅刻は1回だけということになります。
ところが、会社は、私が労働組合に加入して、弁済金の返還などを求めて交渉を申し入れると、私を営業職から外し、まるで繰り返し遅刻をしていたかのように主張するようになったのです。
なるほど。これは副社長さんの指摘する事実とは、かなり違いますね。
Aさんが遅刻の常習犯ということにすれば、会社に対する批判が和らぎそうで、それを狙った印象操作の可能性があります。
Aさんは事故を起こしても謝罪しない人なの?
――「営業者で起こした事故でも相手方に謝罪しないなど社会人としての配慮に欠けていた」という旨の説明もされています。
平成27年1月12日の早朝6時20分頃、営業者で通勤中に事故を起こしてしまいました。
当然、被害に遭われた方には、その場で「大変申し訳ございません。誠意を持って対応します」と謝罪しました。
その上で、事故の処理を終えて八王子支店に着くと、当時の八王子支店の副支店長から、「当事者同士の話し合いはもめることになるので、あとはこっちで対応するから直接連絡しなくていいよ」と、それ以上、私だけで謝罪に伺ったり、何らかの連絡を直接しないよう指示をされました。
これは、会社としての通常の対応で、私が支店の管理職だったときも、セールスドライバーは対人の事故を起こした時に、当人を直接謝りに行かせたりはしませんでした。
支店長または私が、当人に変わって責任を持って対応していました。
事故を起こした本人が謝罪をしていないととがめるのは、言いがかりにも程があります。
見せしめでシュレッダー係に任命された
――「見せしめ的にオレンジの服を着たシュレッダー係に任命したという。」というのですが、見せしめにさせたというのがそもそも問題ですね。
このあたりは、時系列的にも間違いがあります。
「社員Aの顔写真付きで名誉を傷つける文言の書かれたチラシが社内中に張り出されるといった処遇が問題視されるように」
「その後、社員Aは同社を懲戒解雇。」
とありますが、顔写真入りで、会社の主張する懲戒理由を「罪状」などと書いてさらし者にし、「一生を棒にふることになりますよ」などと脅すようなことを書いた「罪状ペーパー」を貼りだしたのは、懲戒解雇をされた後です。
恫喝動画事件は、私に対する懲戒解雇を会社自らが撤回して、復職させた10月1日の出来事です。
私は、社内でシュレッダー業務中だったので、現場を見ていたわけではありませんが、東京本社前での抗議行動は1時間も続いてはいません。
「恫喝動画」についての副社長の不合理な弁解
そうなのだ。SPA!の記事で、井ノ口副社長が言及する「恫喝」シーンについて弁解は妙なのである。
まず、井ノ口副社長の意見をまとめると、次のとおりです。
・会社の担当者が労働組合関係者に囲まれていたので駆けつけた。
・そうしたところ故意に足を踏まれた。
・故意に足を踏まれれば怒るのは当たり前。
・これは労働組合の挑発で、それに乗ってしまった結果、ああいう態度となってしまった。
というものです。
では、ここで問題となった動画を見てみましょう。
1分4秒くらいから井ノ口副社長が登場します。
直接見てみて、どうでしょうか?
まず、井ノ口副社長は、会社の担当者が囲まれていたので駆けつけたと主張していますが、映像を見る限り、宣伝カーの音声を聞きつけて、井ノ口副社長らが勢い込んで出てきているように見えます。
また、井ノ口副社長は、「すでに騒音と怒声が激しく、声がかき消されてしまう。大声で怒鳴り合うように声を出さなければ会話もできない状況だったんです」と言っていますが、映像では最初から最後までプレカリアートユニオンのアピールは同じような調子で続いています。
次に故意に足を踏んだかどうかですが、足を踏んでしまった土屋トカチさん(動画撮影者)は、こう述べています。
映像を見ても故意に足を踏まれたんだという副社長の言い分は、かなり苦しいと言えますね。
足を踏んでしまった撮影者は謝っているのですが、それに対し井ノ口副社長は「謝ったら何してもええんか」と凄んでいるわけです。
これが労働組合の挑発なのか、という点では、むしろ、井ノ口副社長らが大声を張り上げて凄んでいるのに対し、プレカリアートユニオンと一緒に争議行動に参加していた派遣ユニオンの関根秀一郎書記長が、冷静に「あなたたちの話し方は尋常ではない人のようですよ」と言ってなだめていたということが分かりますね。
井ノ口副社長は、うまく編集されたんだと言いますが、それほど編集の余地があるような映像には見えません。
さて、Aさんのインタビューに戻りましょう。
会社は悪いところは認めたのか?
――井ノ口副社長は、「ユニオンに加入した社員Aの懲戒解雇処分も取り消しました。こちらが悪いところは全て認め、改善しました。」と言っています。
会社は、私の懲戒解雇処分は撤回したものの、10月1日付で復職させた先は、労働組合加入を理由にした労働組合法違反の不当労働行為(不利益取り扱い)である、追い出し部屋のシュレッダー業務でした。
しかも、懲戒解雇を撤回したのに、懲戒解雇をしたことを告知する「罪状ペーパー」を今まで貼っていなかったところにまで貼りだし、シュレッダー作業をする背後の壁に、ヘイトスピーチの貼り紙をしていました。
懲戒解雇を撤回しただけで、それについて何の説明も謝罪もなく、元の営業の仕事に戻したわけでもなく、今日も「見せしめとして」のシュレッダー業務をさせ続けています。
――Aさんについて、「社内の掲示板を外部に漏らすといったスパイ行為も実施しています。」と言っていますが、何のことを言っているのでしょうね。
シュレッダーの後ろにヘイトスピーチの貼り紙をしていたことを明らかにしたことを言っているのでしょうか。よく分かりません。
労働組合、代理人の弁護士の指摘を受けて、ヘイトスピーチの貼り紙は撤去しました。
どちらにしてもスパイ行為と言えるようなものではありませんね。
――「これまでも会社に不満のある従業員とは話し合いで解決できた。しかし今回、当事者である社員Aと弁護士との間でもたれた話し合いでは、平行線のまま。妥結案を話し合っているのに『生涯賃金を払えば許す』とか法外な要求をしてくる。まるで何かに洗脳されているかのような恐ろしさを感じましたね」と言っていることについては、どう感じますか。
まず、私以外にも勇気をもって会社に不満を伝えた人はいます。
話し合いでは解決できないので、アリさんマークの引越社グループ会社で弁済金の返還、残業代の請求など裁判で求めている人たちが数十人単位で集団訴訟を起こしています。
私以外の従業員とは話し合いで解決できたというのは、事実ではありません。
その上で、「生涯賃金を払えば許す」とか法外な要求などというものは、私も労働組合も代理人の弁護士もしたことがありません。
こちらは、労働組合に加入したことを理由に仕事を外されたのは不当だから、元の営業の仕事に戻すようずっと要求しているのです。
私は、普通に働くなかで起きてしまう事故の弁済金を給料から天引きされたり、借金として背負わされたりするのはおかしいからやめてください、という当たり前のことを求めているだけです。
労働組合に加入して、当たり前のことを求めたことをきっかけに仕事を外されたのもおかしいので、元の仕事に戻してくださいという、これも当たり前のことを求めているだけです。
それが洗脳されているというのは、理解ができません。
――井ノ口副社長も、「社員Aをシュレッダー係にして精神的に追い込んだ行為は、『確かにやりすぎた側面もある』」と認めているようですね。
だったら、まず謝ってください。そして、早く元の仕事に戻してほしいです。
――『SPA!』(2015年12月8日号)にも井ノ口副社長のインタビューが掲載されています。本誌では、労基署の調査で違反行為と認められた点については直ちに対応し、改善しましたと説明していますね。「こうした問題を放置するのが本当のブラック企業だと思うんです」とまで言っていますが。
千葉の労働基準監督署が、違法行為に対して是正勧告を出し、会社が改善報告をした際に、資料を改ざんしていたことも問題になっています。
【参考記事】ブラック企業大賞ノミネートの引越社、長時間労働隠蔽のため労基署提出書類を28ヵ所改ざん 副社長が指示
――SPA!本誌での厳しいルールや処分を課すことで、社員の飲酒運転や窃盗を防いで、雇用を守っていると言わんばかりの説明については、どうですか。
やってはいけないことを正当化しているように見えます。そもそも離職率が高いのはなぜかと考えてほしいです。
アリさんマークの引越社では、弁済金が給料から引かれたり、車両事故の損害賠償を借金として背負わされ、辞めるに辞められなかったり、弁済金で給料を減らされたために無理をして休日もなく長時間労働に追いやられ、疲れてまた事故を起こし借金が増えるという負のスパイラルがあり、これを社員や元社員は「アリ地獄」と呼んでいます。
また、支店の売り上げが前年度を下回ったなどの理由でたびたび基本給は数%カットされるということも行われています。
このような過酷な労働環境や本人の意思に反する給与カットが離職率を高くしている原因だと私は思います。
――ブラック企業であることが知れ渡りましたが、「ブラック企業と言われることで、社員が誇りを持って働けなくなる」「これ以上、社員の尊厳を傷つけないでほしい」と言っています。
ぜひ、これをきっかけに、ブラックなやり方を改めて誇りを持って働ける職場にしてほしいです。
私も、自信をもってお客様に営業したいですし、お客様に信頼していただけるような会社になってほしいです。
以上がAさんのインタビューの内容です。
Aさんをシュレッダー係にして精神的に追い込んだ行為は「確かにやりすぎた側面もある」と認めつつ、今もなおシュレッダー係のままにしている会社のやり方は、どう説明しても正当化できそうにありませんね。
今後も、この事件は世間の耳目を集めそうですね。
Aさん、頑張ってください!!(^o^)丿