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藤本渚五段(18歳)王座戦本戦進出を決めフルシーズン参戦1年目を締める 勝率0.850は歴代4位

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月28日。大阪・関西将棋会館において王座戦二次予選決勝▲藤本渚五段(18歳)-△山崎隆之八段(43歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は21時23分、153手で藤本五段の勝ちとなりました。

 王座戦今期初参加の藤本五段は二次予選を突破し、挑戦者決定トーナメント(ベスト16)に進出。あと4勝で藤井聡太王座への挑戦権を獲得できます。

 藤本五段の今年度成績は51勝9敗(勝率0.850)となりました。

 現在発表されている全棋士中のランキング上では、勝数(51勝)は1位。対局数(60局)、勝率(0.850)は2位。連勝(12連勝)は3位タイです。

 勝率については、中原誠五段(現16世名人)が記録した史上最高記録0.855(47勝8敗)には届きませんでした。

 またおそろしいことに、藤井聡太八冠が勝率0.852(46勝8敗1持将棋)という歴代2位の成績をあげたため、年度1位に届きませんでした。

 しかしもちろん、歴代4位は大変な快挙です。フルシーズン参戦1年目の成績としては、藤井六段(2017年度当時)の0.836(61勝12敗)を抜いて、史上1位の記録となりました。

藤本五段、驚異の終盤力で本戦進出

 山崎八段は2009年、王座挑戦権を獲得。五番勝負で羽生善治王座(当時)に挑戦しています。今期は二次予選からの登場で、斎藤慎太郎八段に勝っています。

 藤本五段(C級1組昇級を決めて四段から昇段)は一次予選で平藤眞吾七段、矢倉規広七段、高田明浩四段、服部慎一郎六段を連破しています。

 藤本五段は二次予選では阿部隆九段に勝ち、本戦進出まであと1勝としていました。

 藤本五段先手で10時、対局開始。定跡形にとらわれない両者らしく相居飛車の手将棋となり、山崎八段は右玉に構えました。藤本五段は右端1筋から動いていきます。

 対して山崎八段は左辺で反発。盤面全体で本格的な戦いが始まりました。夕方頃には、早くも終盤戦に。99手目、藤本五段が銀を逃げたところで18時、夕食休憩に入りました。

 コンピュータ将棋(AI)の評価値上では藤本五段がやや苦しい場面が続きます。そこから、藤本五段は追い込みを見せ、形勢は好転しました。3図は136手目で、すでに最終盤の局面です。

 持ち時間5時間(チェスクロック方式)のうち、残りは藤本15分、山崎5分。ここで▲6三飛と打つのは△4四玉と上がられてつかまらなくなります。かといって▲4一飛などとしばるのでは、△6八角▲同金△5九飛という筋で、先手玉が詰まされてしまいます。

 この局面に至る少し前に、藤本五段は先を見通していたのでしょう。わずか13秒で▲6三と、と寄せました。玉をしばる要のと金を捨ててしまうようで、なんとも驚くべき一手。しかしこれが「盤上この一手」ともいうべき最善手でした。

 3図からは▲6三と△同玉▲8三飛△7三角合▲7六金(後手の要所の桂をはずしながら、後手玉は詰めろ)と進んで藤本五段が勝勢を築いています。

 153手目。山崎八段は王手をかけられ、以下は即詰みとなる局面で投了。21時23分、藤本五段の勝ちとなりました。

藤井-藤本戦はいつ実現するか?

 藤本五段は一次予選4連勝、二次予選2連勝で挑戦者決定トーナメントに進みました。

 現在までのところ、藤井王座と藤本五段の公式戦での対局は実現していません。両者の五番勝負が実現すれば、大いに盛り上がることでしょう。

 改めて、今年度の勝率1位争いは史上空前のレベルでした。勝率0.850で年度1位でないとは、もちろん史上初めてのことです。

 年度途中、藤本五段はRSK山陽放送の取材で、勝率について、また藤井王座について、次のように語っていました。

藤本「正直言ってしまうと、8割5分ぐらい、いま自分(の勝率)があるんですけど。例年だと、普通にけっこう離して1位でもおかしくないはずなんですけど。2位っていうのもなかなかつらいなという感じですね(苦笑)」「正直、いま自分はけっこう本当に、成績としては出来すぎてる部分はあるので。現状ではちょっと、棋力もそうですし、いまいる位置もあまりにも遠すぎるので。意識するにはちょっとあまりに大きい存在なんですけど。いずれは本当になんとか近いところまでいって。タイトル戦とかで勝つのは、もう正直、相当難しいと思うんですけど。1回勝つっていうのは、がんばって、はい。それは何とか達成しようと思っていますし。それは無理じゃないと思ってはいます」「普通に考えれば追いつけないような相手ではあるんですけど。実力が上だからといって、毎回負けるとはもちろん限らないわけなので。どこかで一発入れたいなあ、という感じですね」

 藤井現王座は王座戦、参加1期目で破竹の進撃を見せ、最終的にはベスト4にまで進んでいます。

 もし藤本五段が参加1期目で挑戦権を獲得すれば、王座戦史上初の記録となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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