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「ハリケーンの虚偽情報、過去最悪」と米FEMA長官、大統領選の渦中に広がる情報汚染とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
被災した自宅から家財を運び出す=9月29日、米フロリダ州スタインハッチー(写真:ロイター/アフロ)

「ハリケーンの虚偽情報、過去最悪」と米連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官が訴える、大統領選の渦中の情報汚染――。

大型ハリケーンが相次いで襲う米国で、虚偽情報の氾濫が、救援活動を混乱させている。

「FEMAが救援資金を移民に流用」などの虚偽情報拡散の当事者が、11月に米大統領選の投開票を控えたドナルド・トランプ前大統領や、同氏を支持するXオーナーのイーロン・マスク氏らだ。

FEMA長官は、ハリケーンの虚偽情報拡散が「過去最悪」と会見。救援活動を妨げている、と訴えた。

選挙戦が最終盤を迎える中で、「ハリケーンの虚偽情報」もその標的となっている。

●「これほどの規模になるとは」

(虚偽情報の氾濫は)これまで目にした中で間違いなく最悪だ。(中略)ある程度は予想していたが、これほどの規模になるとは思っていなかった。

FEMA長官、ディアンヌ・クリスウェル氏は10月8日の記者会見で、ハリケーン「ヘリーン」を巡る空前の虚偽情報の氾濫について、そう訴えという

FEMAは、200人以上が死亡した9月末のハリケーン「ヘリーン」の救援活動と、やはり大きな被害が予想されるハリケーン「ミルトン」への対応のさなかにある。

クリスウェル氏は、虚偽情報の氾濫が、現地のスタッフやボランティアの士気を低下させ、被災者の支援申請をためらわせるなど、救援活動の障害になっているという。

それ(虚偽情報の氾濫)によって、連邦政府ばかりでなく、州政府への不信感も生み出している。

英シンクタンク「戦略対話研究所」が10月8日に公開した「ヘリーン」を巡る虚偽情報についての調査結果の中でこう指摘している。

アナリストらは、X(旧ツイッター)上で、FEMA、ホワイトハウス、米国政府によって否定された主張を含む33件の投稿が、10月7日時点で合計1億6,000万回以上閲覧されていることを発見した。

●偽情報拡散の"台風の目"

偽情報拡散の"台風の目"の1人が、共和党の大統領候補であるトランプ氏だ。10月3日、ミシガン州の選挙集会でこう述べたという。

(バイデン政権は)銀行から金を盗むようにFEMAの金を盗み、それを不法移民に渡した。これはハリケーン史上最悪の対応だ。(2005年の)カトリーナの対応よりひどい。私に投票すれば、アメリカ国民を第一に考える。

さらに、トランプ氏を支持するXオーナーのマスク氏も、10月4日、Xにこう投稿している。

FEMAは、米国人の命を救う代わりに、不法移民の輸送に予算を使い果たした。反逆行為だ。

だが、ワシントン・ポストCNNなどのファクトチェックによると、移民対応とは別予算の災害救援基金として200億ドルの増額が承認されており、トランプ氏やマスク氏が主張するような事実はないという。

むしろトランプ政権が2019年、ハリケーンの時期にFEMAの災害救援基金から移民対策費への支出を行っていた、と指摘している。

●ハリス氏に矛先

「ヘリコプターも救助隊もない」「連邦政府と民主党の州知事が共和党支持地域の人々を助けようとしない」「ジョージア州知事が大統領に電話をかけても、連絡が取れない」

ニューヨーク・タイムズなどのファクトチェックによると、トランプ氏は「ヘリーン」の救援活動を巡り、相次いでこのような根拠のない主張を繰り返している、という。

その矛先が向けられているのは、11月5日に投開票を控えた米大統領選の民主党候補、カマラ・ハリス副大統領だ。

深刻なハリケーン被害が、大統領選最終盤のキャンペーンに取り込まれた形だ。

拡散のキーパーソンはトランプ氏やマスク氏だけではない。

共和党下院議員のマジョリー・テイラー・グリーン氏が10月3日にXへの投稿で、「彼らは天候を操作できる」との陰謀論を主張しているという。

前述の「戦略対話研究所」の調査によると、「ヘリーン」をめぐる虚偽情報は幅広い発信者によって投稿され、「反移民」「選挙不正」など様々な要素が混ざり合っているという。

●虚偽情報の否定

メディアのファクトチェックに加えて、渦中のFEMA自らも、ホームページの中で主な虚偽情報を否定するコーナーを開設。英語以外にもアラビア語や中国語など、計13カ国語に対応している。

この中で、「FEMAはフロリダの人々の避難を阻止している」「FEMAは被災者の財産を没収する」「FEMAは救援のための十分な資金がない」などの虚偽情報を否定し、それぞれの事実を説明している。

米国赤十字も10月3日、Xの公式アカウントで、「赤十字はここにいない」「赤十字は寄付された品物を没収、廃棄している」といった偽情報を否定する長文の投稿をしている。

大規模災害における虚偽情報の氾濫とその影響は、日本でも1月の能登半島地震などで、多くの人々が目にした。

災害時には、確かな事実の迅速な周知が、何より求められる。

(※2024年10月9日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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