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おばあちゃんが天国へ。愛犬のぷー太くんに悲しみのために起きた体の変化とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

愛犬や愛猫が天国へ逝って、飼い主の悲しみが長期にわたるいわゆる「ペットロス」は、最近では知られるようになりました。

悲しみが癒えることがなく、肉体や精神に不調をきたすこともあります。そのような症状が複合的に出るので「死別後シンドローム」という呼ばれ方もあります。

これは、人間の病気ですが、トイプードルのぷー太くんにもそのような症状が現れたのです。今日は、ペットが愛する飼い主が天国に逝ったときに、どのように悲しみがわかるのかお話しします。

ぷー太くんの悲しみが体によって起こった変化とは?

撮影は筆者 ぷー太くん
撮影は筆者 ぷー太くん

雨の降る日、13歳でシニアのぷー太くんは、下痢をするということで来院しました。いまの飼い主であるOさんにしっかり抱っこされていました。

一般的に雨が降ると犬や猫が、濡れたりして来院しづらいのです。雨脚の強い日に、動物病院に来る子は、状態が悪い子が多いです。ぷー太くんも水のような激しい下痢ということでした。

筆者は、Oさんからぷー太くんを預かりました。そのとき、ぷー太くんは、服を着ていたし、雨に濡れていたので、被毛がずいぶん薄いなという感じがしました。血液検査などの身体検査をするので、服を脱がすとぷー太くんは、上の写真のように顔は被毛があるけれど他の部分は、ほとんど生えていない状態でした。

飼い主のおばあちゃんが亡くなって、被毛がごっそり抜けた

Oさんは「ぷー太の元の飼い主のおばあちゃんが、亡くなって、ごっそり毛が抜けたんです。プードルってあまり毛が抜けない犬種でしょう。それなのに、こんなに抜けてしまって」と教えてくれました。

そのようにOさんに聞いても筆者は、ぷー太くんは、シニアになるので下痢以外に、他に体になにか大きな病気があるのかと推測しました。そのため、詳細な血液検査をしました。低栄養や貧血だと被毛が生えないからです。

しかし、ぷー太くんは、炎症反応も正常でした。栄養面である総合たんぱく質やアルブミン値も正常でした。もちろん貧血もしていませんでした。

ぷー太くんのおばあちゃんが亡くなって3年が経っていますが、そのショックで被毛がもう生えてこなくなったのです。

人間は、ペットに癒やしをもらっているので、死別後シンドロームとも呼ばれているペットロスになる人がいることは、理解できます。

大切にしてくれた飼い主が亡くなったペットが、食欲がなくなる、下痢が続くなどの症状はよく見ます。

しかし、このぷー太くんのように、被毛が悲しみのために脱毛した子を見るのは初めてでした。

飼い主だけではなく、ペットも飼い主が亡くなったりすると悲しみでこのような変化が訪れるのです。

ぷー太くんは、飼い主のおばあちゃんが亡くなりどうなったか?

撮影は筆者 ぷー太くん
撮影は筆者 ぷー太くん

ぷー太くんは、おばあちゃんが亡くなってすぐに親戚の人に引き取られたそうです。そこでも大切にされていたのですが、親戚の人は仕事で留守がちだったので、Oさんが次の飼い主になりました。

ぷー太くんは、診察中も採血や注射をしても嫌がることもなく穏やかでした。筆者が、治療を終えてぷー太くんをOさんの元に連れていきました。Oさんは、ぷー太くんの症状が、細菌性の下痢だけでほっとした様子でした。翌日にぷー太くんの下痢はすっかり治っていました。

Oさんは安堵したのか「散歩中に、お年寄りの人を見るとぷー太は、おばあちゃんかなと探しに行くんですよ」とぷー太くんの様子を話していました。

そういえば、診察中にOさんが車に忘れ物をして取りに行っているときもぷー太くんは、ずっとOさんが出て行った玄関の方を見ていて動きたくない様子だったことを思い出しました。

飼い主がペットより早く亡くなったとき「飼い主ロス」に

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

愛するペットが亡くなったときに、悲しみにくれる「ペットロス」は、世の中に認知されています。

その一方で、ペットが愛する飼い主と死別したときにどうなるかは、あまり知られていません。ペットはいまや家族の一員です。そのため自分を大切にしてくれた人がいなくなるとこのぷー太くんのように「飼い主ロス」になる子もいるのです。

ずっと傍らにいた飼い主が急に姿を消すと、ペットからすればどこかに行ったのか、隠れているのかと思って、飼い主によく似た人を散歩中に見かけると飼い主かもと考え後追いしたりするのでしょう。ぷー太くんは、おばあちゃんに慕い、会いたいと思い焦がれているのかもしれません。

いまや猫は30年生きるかもしれない時代に突入しています。猫も犬も長寿になっています。終身飼育ができることを考えて飼うことは大切です。ぷー太くんは、飼い主のおばあちゃんが亡くなっても大切に飼われていますが、それでもまだ、散歩中におばあちゃんとよく似た人を探します。被毛は年齢的なこともありますが、もう生えてこない状態になっています。

2020年のペットフード協会の調査では、日本で飼育されている犬と猫の数は1800万匹に上ります。個人的には、飼い主がこの子たちの最期をみとってあげてほしいと考えています。

シニアの世代の人は、ペットを飼うと元気になり社会性が高くなるなどいいこともありますが、ペットのこともよく考えてから飼い始めてくださいね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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