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シリアでイスラーム国と思われる集団とイスラエル軍と思われる戦闘機の攻撃がにわかに頻発?

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2020年4月6日

ダイル・ザウル県で米軍士官1人が死亡か?

シリア南東部のダイル・ザウル県では、国営のシリア・アラブ通信(SANA)やロシア・トゥデイ(RT)によると、イスラーム国に対する有志連合(正式名「生来の決戦作戦」統合任務部隊、CJTF-OIR)を主導する米軍とシリア民主軍の合同パトロール部隊が4月6日、スワル町近郊のワスィーア村付近で何者かの要撃を受け、米軍士官1人とシリア民主軍兵士2人が死亡した。

シリア民主軍は、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が創設した民兵の人民防衛隊(YPG)を主体とする武装組織。

スワル町は、ユーフラテス川の東、ハーブール川河畔に位置し、PYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局(ダイル・ザウル民政評議会)の支配下にある。

死亡した米軍士官の遺体は、同じく北・東シリア自治局(ジャズーラ地方)の支配下にあるハサカ県シャッダーディー市に違法に設置されている米軍基地に搬送されたという。

なお、合同パトロール部隊を要撃した武装集団がイスラーム国なのかは不明。

イスラーム国は2019年3月にユーフラテス川以東の支配地を完全に喪失している。

SANA、2020年4月6日
SANA、2020年4月6日

シリア民主軍の救急車輌も要撃を受ける

一方、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、米軍が油田を守るとして違法に占拠するダイル・ザウル県のウマル油田に至る街道で、シリア民主軍の戦闘員が乗った救急車輌が6日、イスラーム国と思われる武装集団の要撃を受け、運転手1人が負傷した。

この要撃がSANAの報道した米軍・シリア民主軍の合同パトロール部隊と同一のものなのかは不明。

シリア人権監視団、2020年4月6日
シリア人権監視団、2020年4月6日

シリア政府支配下のユーフラテス川西岸でも戦闘

ダイル・ザウル県ではさらに、イスラーム国が6日、シリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸のブーカマール市近郊に位置するジャラー町、スィヤール村、アッバース村にあるシリア軍と「イランの民兵」の拠点を襲撃し、戦闘に発展した。

シリア人権監視団によると、この戦闘で双方に複数の死傷者が出たという。

「イランの民兵」とは、シリア政府側が「同盟部隊」(あるいは「同盟者部隊」)と呼ぶ勢力で、イラン・イスラーム革命防衛隊(そしてその精鋭部隊であるゴドス軍団)、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガン人の民兵組織ファーティミーユーン旅団、パキスタン人の民兵組織ザイナビーユーン旅団などを指す。「シーア派民兵」と称されることもある(詳細については拙稿「シリアの親政権民兵」『中東研究』第530号、2017年、pp. 22-44を参照)。

所属不明の戦闘機による爆撃

このほかにも、反体制系のアイン・フラートが複数の地元筋の話として伝えたところによると、所属不明の戦闘機が5日、ブーカマール市に近いイラク国境地帯を爆撃した。

爆撃を受けたのは、マイーズィーラ村、サーリヒーヤ村近郊の砂漠地帯、マヤーディーン市近郊の砂漠地帯にある「イランの民兵」の拠点で、民兵数十人が死亡したという。

ダイル・ザウル県南東部では2019年以降、「イランの民兵」の拠点を狙った所属不明の戦闘機による爆撃が散発しているが、そのほとんどがイスラエル軍によるものだとされている。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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