東京大学が地盤沈下、ほんとうなのか
「東京大学は東北大学より下」と聞けば、「えっ!」とおもってしまう。東京大学は日本では揺るぎないトップ大学という思い込みが強いせいかもしれない。
しかし、現実である。英国の高等教育専門誌『Times Higher Education(THE)』が、毎年実施している「世界大学ランキング日本版」(以下、ランキング日本版)の2021年版を、3月25日に公表している。そこで総合トップにランキングされているのは、東京大学ではなく、東北大学なのだ。しかも、前年に続く2年連続でのトップだという。
東京大学はといえば、2位でもない、3位である。前年には同じく3位で肩を並べていた東京工業大学が、東京大学を抜いて2位の座を占めている。
東京大学の地位が下がりつつあるのか。そうおもわざるをえないようなランキングである。
「THE」のランキング日本版は、「教育リソース」「教育充実度」「教育成果」「国際性」の4分野で評価して順位付けを行っている。そのなかで東京大学が東北大学に勝っているのは、教育リソースだけである。
そして特に劣っているのが、国際性だ。東北大学のポイントは86.8だが、東京大学は69.7でしかない。この分野で東京大学が負けてしまっいるのは、東北大学にだけではない。国際性だけのランキングをみてみると、東京大学は、なんと51位である。国際比較ではない。国際性だけでは、東京大学の前に50校もの日本の大学が名前をつらねているのだ。
揺るぎないトップという東京大学のイメージからすれば、これは危機的状況にしかおもえなくなる。しかし、そうそう結論を急ぐわけにもいかない。
「THE」のホームページで、国際性の「ランキング指標」を確認してみる。ランキングするときの目じるしである。評価の重点は「どれだけ国際的な教育環境になっているか」に置かれ、次の4つの指標で判断されている。
①外国人学生比率
②外国人教員比率
③日本人学生の留学比率
④外国語で行われている講座の比率
これを見て、「そうか」とおもった。いまは、「グローバル」の言葉が肩を張ってのしあるいている時代である。大学も、そこに巻き込まれている。グローバルに活躍する人材の育成が使命にもされているようで、留学生を受け入れたり、外国語での授業を増やすことが奨励されてもいる。
それを頭に、「THE」の国際性のランキングを見直してみると納得がいく。1位にランキングされているのは秋田の国際教養大学で、ほとんどの授業が英語で行われている。2位はキャンパスの公用語が日本語と英語になっている立命館アジア太平洋大学で、3位は国際基督教大学で英語力をつける教育では有名すぎる大学である。以下、英語力をつけさせる教育を特色としている大学がずらりと並んでいる。
これらの大学に比べれば、東京大学の評価が低くなるのも当然かもしれない。東京大学でも英語は重視されてきているようだが、英語が中心というわけではない。
東京大学が東北大学にランキングで上になっている教育リソースは「どれだけ充実した教育が行われている可能性があるか」が判断されており、「学生1人あたりの資金」とか「学生1人あたりの教員比率」といった指標で評価されている。この分野で東京大学は4位だが、その上の3位までが医科大学である。ちなみに、東北大学は4位だ。
医科大学に比べれば、学生1人あたりにかけられている資金や教員数で東京大学や東北大学が劣っていたとしても不思議ではない。そもそも、医科大学の学生数は少ない。
「THE」がランキング日本版で求めている大学像と東京大学がマッチしているとは言いにくい。講義のほとんどを英語でやることが東京大学に求められているかどうかなどもふくめて、東京大学がランキング日本版のトップにランキングされることが望ましいことかどうかにも疑問がある。大事なことは、ひとつのランキングだけで「東京大学は東北大学より下」と決めつけるわけにはいかない、ということだ。