35歳・110キロ。B2越谷のファンタジスタ、長谷川武に聞く超絶パスの秘密
パスは日本バスケの課題
日本バスケの弱みは何か?9月のワールドカップを受けて、色んな意見が出ていた。確かにフィジカルの弱さは見て取れたし、選手たちの経験不足も否めないだろう。
ただし筆者が強国の試合を見て強烈に感じたのは「パスのスキル」だ。特にリッキー・ルビオ(スペイン)、ファクンド・カンパッソ(アルゼンチン)は意外性あふれる、創造的なパスを連発し、しかもミスが少ない。
相手がパスを止めよう、悪い方向にボールを誘い込もうとしていても、ビハインドザバックパス(背中側から通すパス)のようなトリッキーなプレーで打開してしまう。日本の選手に比べてパスの「引き出し」が圧倒的に多かった。
とにかくパスがすごい長谷川
Bリーグで「パスの名手」を挙げるなら田臥勇太、富樫勇樹、並里成といった名前が挙がる。そしてもうひとり、ぜひ皆さんにそのプレーを見てほしい異能の持ち主がB2にいる。
それが越谷アルファーズの長谷川武。今季からB2に昇格したチームでプレーする35歳だ。195センチ・110キロの巨漢でパワーフォワード、スモールフォワードでプレーしている。
青野和人ヘッドコーチ(HC)も「長谷川は(体格的に)大きなアドバンテージを取れる」と説明するように、彼はサイズと幅を活かしてプレーする「フィジカル系」の選手だ。
もっとも体型を見れば筋肉質と程遠く、機敏さは持ち合わせていない。ドライブやダンクで魅せることもない。威勢よく語る「体育会系」のキャラクターでもない。バスケに限らず、プロスポーツの選手では皆無に近いタイプだ。
弟の長谷川技(川崎ブレイブサンダース)はB1の主力選手だが、兄は2010年から前身の大塚商会も含めてアルファーズに在籍している。その間のカテゴリーは関東実業団、NBDL、B3だ。つまり長く「日に当たらない場所」でプレーしてきた。
ただ彼はとにかくパスが上手く、創造的だ。ハンドリングが柔らかくスキップパス、バウンドパスと配球のバリエーションも多い。19年5月のB2・B3入れ替え戦では八王子ビートレインズを相手に圧巻のプレーを見せ、ファンに衝撃を与えた。
動いてくれる選手にしかパスは出さない
越谷は今季のB2開幕戦で強豪・熊本ヴォルターズから勝利を挙げた。29日の信州ブレイブウォリアーズ戦も、昨季のB2王者に敗れたものの1点差の接戦を演じている。筆者が取材した28日の信州戦は54-74の完敗だったが。長谷川選手のプレーは光っていた。
題2クォーターの残り8分10秒には長さ28メートルのコートを一気に横断するロングパスを通して、横塚蛍のイージーショットをお膳立てした。この日の長谷川は23分11秒のプレータイムで4アシストを記録した。
彼にトリッキーなパスの“秘訣”を尋ねると、こう説明してくれた。
「ノールックパスに見えると思うんですけれど、最初に見て、そのあと目を離しているのでノールックではない。あと動いてほしいなというところに動いてくれる選手にしか、パスを出していません。阿吽の呼吸、アイコンタクトのある選手しか(長谷川の)パスは取れないです」
「一番遠い人を見ています」
シンプルに説明をすれば彼は“視野が広い”タイプなのだろう。人間の視野角は平均して水平方向に90〜100度程度と言われるが、彼はおそらく180度に近いところまで視界に入れている。そして「奥行き」も取れている。
長谷川は第2クォーターのロングパスを例にあげながら、「視野の広さ」の秘訣も語ってくれた
「一番遠い人を見ています。自分がボールを持っていて一番遠い人を見ていると、間の8人が目に入る。リバウンドを取ってロングパスでワンドリブルからそのままというシーンがありましたけれど、それは最初に遠い人を見ているからです」
視野や発想は身体能力と同様に生まれ持った才能で差が出る部分だが、一方で育成年代からの取り組みも大切だ。パスの上手さには理由がある。正しい発想で正しい努力を積む選手が増えれば、日本バスケの創造性は上げられるはずだ。