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藤井聡太竜王(20)大ピンチをしのぎ、逆転で阿久津主税八段(40)に勝利 朝日杯1回戦

松本博文将棋ライター

 1月15日午前。愛知県名古屋市・名古屋国際会議場において、第16回朝日杯将棋オープン戦本戦1回戦の2局がおこなわれました。

 結果は以下の通りです。

藤井聡太竜王○-●阿久津主税八段

増田康宏六段○-●永瀬拓矢王座

 勝ち上がった藤井竜王と増田六段は14時からの2回戦で対戦します。

 藤井竜王はこれで先手番19連勝となりました。

 藤井竜王は本日放映されたNHK杯3回戦では、佐藤天彦九段を相手に、途中はかなり苦しい形勢に追い込まれながらも、最後は勝利を収めています。

 公式記録上、現在の藤井竜王の今年度成績は38勝7敗(勝率0.844)となりました。

 藤井竜王の勝率は史上最高成績に迫る勢いです。

藤井竜王、苦戦から逆転

 本棋戦、藤井竜王は3回、阿久津八段は1回の優勝実績があります。

 10時、藤井竜王先手で対局開始。後手の阿久津八段は横歩取りに誘導しました。藤井竜王は飛車で横歩を取ったあと、飛車を引かずに指し進める「青野流」を選びます。

 大駒が交換され、互いに駒台に持ち駒の飛角を乗せての中盤戦。阿久津八段は事前の研究が功を奏し、巧みな指し回しでリードを奪いました。

藤井「ちょっと序盤で失敗してしまって。途中はかなり苦しい展開にしてしまったと思って指していました」

阿久津「藤井さん相手に後手番でこんなにうまくいくことは相当ないんじゃないかなと」

 51手目。藤井竜王は中段に飛車を打ちます。いかにも苦しそうな一手。53手目には持ち時間40分を使い切り、一手60秒未満で指す一分将棋に先に入ります。阿久津八段は8分を残しており、盤上の形勢でも時間でも優位に立っていました。

 56手目。阿久津八段は藤井陣一段目に気持ちよく飛車を打ち込みます。

阿久津「『あ、これ、優勢なんじゃないかな』と思ったんですけど」

 藤井竜王がじっと飛車を端に寄って辛抱した手に対して、阿久津八段はその筋の歩を突き上げていきます。いかにも筋のよい手。ほかには三段目に飛を成り返る順もあり、局後に藤井竜王が指摘していました。どちらであっても、阿久津八段よしに変わりはなかったようです。

 68手目。阿久津八段は龍取りを受けながら、自陣の桂を跳ねます。これもまた筋のよい一手ですが、阿久津八段は局後にこの手を悔やんでいました。藤井竜王はその桂を目標に、じっと歩を突き出していきます。

阿久津「急になんか。少し前まで指せたと思うのが、逆にどう見ても一手負けだなという将棋にしてしまって」

 コンピュータ将棋ソフトが示す評価値の上では、70手目、阿久津八段が角を成り込んで藤井竜王の飛車と交換した手で形勢が逆転したようです。

藤井「なんとか攻め合いの形に持ち込むことができて、本当に最後の最後に形勢が好転したのかなと思います」

 藤井竜王は一息つけば阿久津八段から攻めを間に合わされてしまうところ、その余裕を与えず、一気に寄せていきます。

 93手目、藤井竜王はタダで取られるところに王手で馬を引きます。これが最後の決め手。取っても取らなくても、阿久津玉はぴったりと詰んでいます。

 11時50分、阿久津八段は投了。美しい終局図が残りました。

阿久津「いや、めちゃくちゃ悔しいですね」

 終局直後のコメントで、阿久津八段はそう苦笑していました。それほどの逆転劇だったということでしょう。

 両者の対戦成績はこれで藤井4連勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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