ミシュランガイドで14年連続一つ星の名門フレンチが再始動! いったい何が新しくなったのか?
本格再開する飲食店
緊急事態宣言が全国で解除され、時短営業や酒類提供の禁止もようやくなくなりました。
期間中には、少なからぬ飲食店が通常営業できずにいたのは周知のところ。一等地にあったり、席数が多かったり、高級であったりする飲食店は、ランニングコストもかかるので、半端な営業では経営状況が悪くなるだけです。そのため、休業したり、営業日を厳選したりする飲食店は少なくありませんでした。
こういった苦境を耐えしのび、全ての飲食店が通常営業できるようになったのは非常に喜ばしいことです。本格再開することになった魅力的なファインダイニングをシリーズで紹介していきましょう。
フレンチファインダイニング「シグネチャー」(マンダリン オリエンタル 東京)
マンダリン オリエンタル 東京はミシュランガイドにおいて日本で最も多くのレストランの星を有するホテルです。フレンチファインダイニング「シグネチャー」、広東料理「センス」、「タパス モラキュラーバー」が一つ星を、「ピッツァバー on 38th」がビブグルマンとして掲載されています。
この中で、メインダイニングとなるのが「シグネチャー」。ミシュランガイドの日本上陸から14年連続で一つ星として掲載されている名店です。多くのゲストが訪れていましたが、コロナ禍の中で、2020年4月から休業を余儀なくされていました。それが2021年10月27日にようやく本格再開され、美食家の耳目を集めているのです。
料理長はニコラ ブジェマ氏
料理長を務めるのは、ホテルの副総料理長でもあるニコラ ブジェマ氏。2013年から6年間にわたって「シグネチャー」の料理長として活躍し、2019年に副総料理長に就任。料飲部長の内坂徹氏、シェフソムリエの野坂昭彦氏と共に素晴らしいチームを築いています。
再開するにあたり、ニコラ氏が提供するメニューはこちら。ランチでは3品(7,590円)、4品(9,130円)、5品(11,500円)、ディナーでは4品(15,400円)、5品(18,700円)、6品(22,000円)と、全部で6種類のコースが用意されています。
※いずれとも税込・サ別
ニコラ氏が手掛けたメニューの中からいくつかを紹介していきましょう。
アミューズ
最初は2つのスプーンに載せられたアミューズ。片方には14日熟成させたフォアグラがのせられており、その濃厚さが食欲をかきたてます。もう片方は脂がのったサンマです。塩、レモン塩、オリーブオイルでマリネされ、トップにはサワークリームとキャビア。メリハリのある2品でシャンパーニュと実によく合います。
冷たい前菜
ランチコースの冷たい前菜はワゴンで提供され、そこから選ぶことができます。
・フォアグラ リードヴォー 鶏 豚 4種類の肉のパテ 根セロリのレムラードと共に
・ブルゴーニュの伝統的なペルシェ コンテチーズのグジェールを添えて
・オマール海老 パリ風 カリフラワーのミモザ
・フォアグラブリオッシュ レッドポートのジュレ
・秋鮭のベルビュー 軽いディルのエミュルジョン
取材時には5種類が用意されており、どれもクラシックフレンチの醍醐味を堪能できるものばかり。幅広い料理が用意されているので、好みのものに出合えるでしょう。
「フォアグラブリオッシュ レッドポートのジュレ」は、ニコラ氏のスペシャリテのひとつ。ニコラ氏が4年間腕をふるったアルザスの名店「オーベルジュ・ド・リル」で培った技法を用いて、何十回も試作を重ねて完成させた一皿です。
ブリオッシュ生地でフランス産フォアグラのテリーヌを包み込んでおり、フォアグラの深いコクとブリオッシュの甘味がぴったりの相性。添えられたポートワインのジュレを合わせると、より上品で華やかな風味となります。
魚料理
甘鯛と手長海老の “アミラル風” ムール貝のグラタン リースリングソース
魚料理はアマダイとテナガエビの共演。明石のアマダイとテナガエビを、身の繊細な質感を残しながら茹でました。アミラル風とあるように、付け合せは白身魚とホタテ、ムール貝のムースリーヌを包んだグラタン。リースリングのソースが魚介類の滋味を引き出しています。
肉料理
A5和牛テンダーロインのロースト ボルドレーズソース ポムアンナ
メインディッシュは宮城県のA5黒毛和牛フィレ肉。厚みもあって、90グラムとたっぷりのボリュームです。中は美しいロゼ色にローストされており、非常にやわらかく、和牛香も素晴らしいです。奥行きのあるボルドーワインのソースが、肉の旨味を引き出しています。
ポムアンナ(ジャガイモの薄切り重ね焼き)もクラシックな料理で、肉料理との相性は抜群。マッシュルームとニンジンのグラッセは、美しい飾り切りに。
デザート
温かくて冷たいフレーズドボワのバシュラン
メレンゲとアイスクリームに、フレーズドボワ(野イチゴ)のソースが一体化したアシェットデセール。甘酸っぱい味わいは、料理の後で口中をすっきりとさせます。
新しい「シグネチャー」の特長
どれも料理人の技が光る料理ばかりでした。クラシックフレンチを標榜していても、エレガントで重たくないのが特長です。フランス料理らしいフランス料理を食べられなくなった昨今において、とても貴重な機会ではないでしょうか。
ワインも充実しています。シェフソムリエの野坂氏は「料理に寄り添うペアリングを意識している。料理を試食して、しっかりと理解してから、相応しいものをセレクトしている」といいます。
魚料理にはフランス・ローヌ地方の名門「E ギガル コンドリュー ローヌ ヴァレー」と日本酒の「岩 ファイヴ アッサンブラージュ 2 富山県」が用意され、どちらかを選べるようになっていました。野坂氏らしい、サービス精神溢れる面白い試みです。
「非日常感を大切にしたいので、シャンパーニュはマグナムボトルでご提供している。地方の特徴ある伝統料理が多いので、白ワイン、赤ワイン、ロゼワインに加えてオレンジワインまでご用意したので、マリアージュを楽しんでいただけたら」
テーブルウェアも注目です。魚料理に用いられているカマチ陶舗の有田焼は波を思わせるような質感で、魚介類にぴったり。カトラリーはフランスの名門銀器であるエルキューイ。肉料理のナイフではフランスのペルスヴァルによる「888」。パリ随一の肉屋「ユーゴ・デノワイエ」と共創してつくられたナイフであり、切れ味は文句なしです。
フランス料理の伝統を伝えていく
リニューアルするにあたって、どのような経緯があったのでしょうか。
ニコラ氏は「休業している間に色々なことを考えてよく話し合った。営業できないからこそ、もう一度ホテルのメインダイニングとしてフレンチを復権させようとなり、いちから創り直すことにした」といいます。
ニコラ氏、内坂氏は8年間共に、3年前には野坂氏も加わって、一緒に働いてきた強い絆があります。改めてクラシックフレンチの素晴らしさを伝えたい、多くのゲストに伝統的なフランス料理を体験してもらうことが何よりの使命ではないか、3人でそのように考えたということです。
料飲部長の内坂氏は振り返ります。
「休業していた期間が長かったので、開業のつもりで臨んだ。オープンするにあたって、トレーニングや仕込みには短い時間しかなかったが、気心が知れたチームなので間に合わせることができた」
クラシックフレンチを標榜するだけあって、ワゴンサービスに力を入れており、これからはスタッフが目の前で取り分けたりするゲリドンサービスも考えています。
「メニューは2ヶ月半を目安に変わり、次は12月に新しくなる。年に1回ではなく、度々来ていただけるレストランになりたい。将来的には、伝統であるジビエにも力を入れ、フランス料理の素晴らしさをしっかりとお伝えしていければと考えている」
よりたくさんのゲストに、より多くの伝統的なフランス料理を体験してもらうことは、数少ない星付きのホテルフレンチとして、「シグネチャー」に課せられた使命であるかもしれません。