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シリア:アサド大統領が新型コロナウイルスから回復、閣議でシリア・ポンド下落を「敵の心理戦」と指摘

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2021年3月30日

大統領府発表

シリアの大統領府は、フェイスブックやツイッターの公式アカウントなどを通じて以下のような声明を出し、新型コロナウイルスに感染していたバッシャール・アサド大統領とアスマー・アフラス夫人が完治したと発表した。

隔離期間が終わり、COVID-19ウイルスの症状が消え、2人に行われたPCR検査で陰性結果が出た…。

これを受け、バッシャール・アサド大統領とアスマー・アサド夫人は、本日付で通常通り執務を始める。すべての患者の一刻も早い回復を願いつつ。

大統領府は3月8日、2人の新型コロナウイルスの感染が確認され、隔離期間に入ったと発表し、反体制活動家は、仮病説やロシア搬送説を吹聴、死への期待を(暗に)寄せた(「シリアのアサド大統領夫妻が新型コロナウイルスに感染…反体制派を貶める一部活動家の稚拙な反応」を参照)。

為替変動は敵の心理戦の結果

2人の完治が発表されてから数時間後、アサド大統領は、フサイン・アルヌース内閣の週例閣議に出席し、議長を務め、国民に対する公共サービスにかかる一連の問題に関して意見を述べた。

SANA、2021年3月30日
SANA、2021年3月30日

アサド大統領は冒頭、こう述べた。

市民の負担を軽減するため、最近になって実施、施行された措置、立法、法律は、不可能なものなどないという考えを明らかにした。たとえ、すべての問題を解決できないとしても、これらの問題の一部を解決することはできる。ある問題を今日解決できなくても、別の問題を解決し、市民の負担を軽減できる。

そのうえで、最近のシリア・ポンドの下落とそれに伴う物価高騰を踏まえて、その原因がシリア経済の悪化ではなく、敵、すなわち欧米諸国による「心理戦」の結果だとの見方を示した。

為替の変動への対応がこうした措置の一例である。これにより、我々はかつてないほどの成果を実現した…。こうした状況、あるいはこの手の為替の変動に際して、この問題が手順に関わる問題だと人々が考えてしまうのであれば、それは誤りだ。問題はより大きなものだ。投機家、受益者もいれば、外国からの操作もある。

我々には、こうした変動のなかで、敵の道具となっているものが何かが明らかになった。それが明らかになり、使用されている仕組みを知ることを通じて、我々はこれとは反対の仕組みを使用した。我々が取り組んできたこの変動によって、シリアの為替の大部分が心理戦(によるもの)であることが証明された。ほかのどの戦争と同じなのだ。この点の変動に立ち向かうには、今起きていることについての人々の意識を向上させねばならない。為替については、軍事的な戦いにも増して、国を安定させるうえで重要だ。戦争、食料安全保障などと同じなのだ。戦いに挑むようにして取り組みがなされねばならない。市民がこの戦争において国家機関に寄り添ってくれなければ、いかなる措置を講じようとも国家機関は破綻する。

閣僚に市民とのコミュニケーションを求める

一方、出席した閣僚に対して次のように述べ、市民とのコミュニケーションを求めた。

閣僚というのは、地位を得ている者であるだけではなく、政治家でもある。我々が政治家というとき、それは人々のなかに身を置き、彼らとコミュニケーションをとる人物だということだ。なぜなら、閣僚たちが監督するさまざまなセクターは、日々の政治的問題だからだ。市民の関心にかかわるすべての問題は政治とみなされるべきものだ。だから、この問題について話すこと、そして閣僚であるということは、非常に重要で、コミュニケーションなくしてはあり得ない。また、コミュニケーションは対話なくしてはあり得ない。

複数の高官らがいくつかの段階で行ってきた沈黙の政治は、彼らの役割と矛盾している。人々とコミュニケーションが行われなければ、労働の価値は失われる。コミュニケーションは、彼、つまりは高官が行うあらゆることと並行して行われるものだ。閣僚が(人々の前に)現れることは、本当の仕事をどの程度行っているかを表している。(人々の前に)現れることなく、対話もしなければ、どんな高官であれ、相応の仕事を行うことも、そして正しい評価を得ることもできない。(人々の前に)現れることで、我々は、人々が客観的なものとそうでないものを区別できるように手助けする。国家とともに心理戦で勝利するのを手助けする。なぜなら、どのような優れた決定を下しても、市民には不充分であり、説明と対話が必要だからだ。

便乗値上げ阻止を指示

そのうえで、シリア・ポンドの下落に便乗した値上げを阻止するため具体的な対策を講じるよう指示した。

SANA、2021年3月30日
SANA、2021年3月30日

問題は物価高騰のなかにある。為替レートが朝に急騰したとしても、それは夕方に物価が高騰することの正当な理由とはならない。この点は、正当化することも、受け入れることもできない基本だ。こうした盗みにも似た行為には、断固として対処しなければならない。国内通商(消費者保護)省が力をもって介入し、早急に抑止効果のある処罰を含む新法を制定すべきだ。

また、物資の効率的配分を通じた生産性の向上の必要を強調した。

生産するという考えを優先しなければならない。なぜなら現在、物資が限られているからだ。物資が限られていても、有効に利用・分配すべきだ。我々国家にとって、最初の分配は、生産に向けられるべきだ。このことは、我々が県レベルでの制裁に応じて地理的に分配することを意味している。県には、より多くを支援できる大規模な生産力がある。より多くの生産を達成する地域、組織、活動に対して、より多くの支援がなされなければならない。合理的且つ賢明な物資の分配と利用は、生産の車輪を動かすうえで非常に重要だ。なぜなら、経済や生活の状況は生産の車輪が回らなければ改善し得ないからだ。生産の車輪を回すことは、これらの物資を有効に利用することにかかっている。

市民が直接手にするべき物資の分配をめぐる汚職、混乱、混乱は、すべてをオートメーションすることなくして阻止できない。サービスのオートメーション…、分配のオートメーション…。こうしたなかで、電子決済は、市民の負担を軽減する電子サービスの一つだ。それは汚職を撲滅することにもつながる。関連省庁とこうした問題のすべてに取り組むチームがあり、これらのチームを支援し、一連成果を実現し、早急にこうしたサービスを実現しなければならない。

新型コロナウイルス対策

自身も感染した新型コロナウイルスへの対策については、国家による対策を高く評価したうえで、市民の意識を向上させ、感染対策を行うべきだと述べた。

昨年実施された(新型コロナウイルス)対策は、シリアが経験した状況を踏まえると優れたものだった。だが、我々には現在、人工呼吸装置が不足している。我々は管轄機関としてさらなる機器の入手を試みている。だが、より発展した国で、機器を増やしても…、対応できない状態になってしまっている。国家がその義務を果たしているなか、市民により多くの責任を担わせる意識を引き続き持ってもらうようにしなければならない。なぜなら、国民の意識、そして予防対策が行わなければ、こうした分野における深刻な危機を回避できないからだ。

アスマー夫人の動向

一方、アサド大統領とともに公務を再開したアスマー夫人は、いまだ公の場に姿を現していないが、回復が発表される9日前の3月21日(シリアでは「母の日」)に大統領府を通じて次のような声明を出してる。

母なるシリアへ…

私たちが共に戦ってきた戦争から10年が経ちました。あなたは、力強く誠実な不屈の存在で、過酷な戦争を乗り越え、敗北を知らない心でこれを打ち砕きました。

敵の圧力や包囲にもめげず、その腕で未来の柱を建て、苦痛から喜びを作り出し、困難から成功と栄光をもたらす子らを産み、育てる母なるシリアへ。

子らに全力で行動させ、生活の糧、生産、そして祝福のための新たな機会を常に生み出してくれる母。

正しいことと過ち、正義と不正、信頼と裏切り、怠慢と責任を区別する光を投げかけてくれる母。

最北から最南の地の一粒一粒の土のなかにシリアを見出し、すべての家、村、都市のなかに、そしてすべての傷、涙、微笑みのなかに祖国を見出す母。

家族を築き、守り、祖国と社会全体を守る母へ。

私たちは今日、10年目を迎え、その間、新たな子らの世代が成長しました。それは母が最大限の努力を払って、その両親に最善で最高の価値観を育まねばならない戦争の世代です。

私たちは戦いに勝利しましたが、戦争は終わっていません。私たちの純粋は意志を勝ち取りましたが、対立は終息していません。母なるシリアよ、あなたは勝利の鍵、勝利の扉です…。あなたは祖国の翼です。祖国は挫けることなく、それによって力を得るのです。

最後に…。

母にできる最大のことは、祖国に帰属し、これを子らに伝え、祖国のために行動させ、献身させ、防衛させることです。

あなたの祝日に

今年もおめでとうございます。あなたは祖国です。

アスマー・アサド

2021年3月21日

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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