言い回しで変わる積極性と保守性:促進焦点と防止焦点から
部下や技能者を育てるとき、育成者は目標を与えたり、自分で考えさせたりして、その達成を通して成長してほしいと願うことがあるかと思います。達成して欲しいことや避けて欲しいことを、言葉やデータなどを通して伝えます。
このとき何気なく使っている「して欲しい」とか「避けて欲しい」という言い回しが、実は部下や技能者の考えや行動に対して、違った効果を持つ可能性があります。
そうした効果を説明する理論の一つに、制御焦点というものがあります。
制御焦点には、促進焦点と防止焦点の2つがあります。
以下、外山・湯立・長峯・三和・相川(2019)で紹介されている、両焦点の特徴です。
冒頭の指導に照らし合わせると、例えば部下や技能者がやったことのない仕事の達成や製品の完成を一人で任され、どうやればよいかを自分で考えるような状況でしょうか。
こういった状況で、促進焦点に動機づけられている人と防止焦点に動機づけられている人では、違った考えや行動をとると考えられます。
前者は、前例にとらわれず積極的に色々な可能性を試し、そのかわり失敗も多くするかもしれません。
一方で後者は、前例を注意深く調べ、できるだけ失敗の可能性が低い選択をするかもしれません。
ところで、両焦点は、「動機づけられている」と表現されています。このことは、育成者が働きかけることで、部下や技能者を動機づけられる可能性も示しています。
実際、制御焦点の効果を検討する研究では、最低限の水準を示し、「水準以上になってください」や「水準以下にならないようにしてください」といった教示が用いられ、焦点を動機づけるそうです。
つまり、言い回しでどちらの焦点が動機づけられるかが変わるということです。
促進焦点と防止焦点、それぞれ適した場面があるように思います。
例えば、前例に囚われないような方法を考えてほしい、失敗してもいいから積極的に色々試してほしいような場合なら、「○○ができれば、内容は問わない」、「○○の基準を超えれば、あとは好きにしてもよい」のような、最低限の水準設定+促進的な声掛けが有効かもしれません。
反対に、前例を踏襲する、形を守るなど、現状を維持することが大事な場合なら、「○○は下回らないようにして欲しい」、「○○以下になってはいけない」のような最低限の水準設定+防止的な声掛けが有効かもしれません。
また、人はそれぞれクセをもっています。ですから自分がどちらの焦点の言葉を使う傾向があるか、振り返って確認すると良いかもしれません。積極的に色々試してほしいのに実は防止焦点的な言い回しが多かったり、ということはよくあることです。
期待と、その期待に働きかけやすい言い回しがマッチすると、言葉の効果は増すのではないでしょうか。
■引用文献
・Crowe, E., & Higgins, E. T. (1997). Regulatory focus and strategic inclinations: Promotion and prevention in decision-making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 69, 117-132.
・Hamstra, M. R., Bolderdijk, J. W., & Veldstra, J. L. (2011). Everyday risk taking as a function of regulatory focus. Journal of Research in Personality, 45, 134-137.
・外山美樹, 湯立, 長峯聖人, 三和秀平, & 相川充. (2019). 防止焦点は認知資源の温存効果に優れているのか?. 心理学研究, 90-17059.