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いまの日本代表まだ「幼稚園児」。エディー・ジョーンズの真意は。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(筆者撮影)

 ラグビー日本代表は7月21日、戦前の世界ランクで6つ上回る8位のイタリア代表に14―42で敗れた。要所でのエラーに泣いた。

 6月に始まった就任最初のキャンペーンは、これで終了。非テストマッチを含めて5戦1勝4敗も、指揮官は若返りを図ったチームには収穫もあったと言いたげ。かねて大胆な感情表現で知られる世界的名将も、試合後の共同会見では冷静に映った。なぜか。

 会見にはキャプテンのリーチ マイケルと出席した。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「今回でサマーキャンペーンは終わり。イタリア代表の勝利を讃えたい。彼らは(目指す)試合をし続ける一貫性で何枚も上手。我々はうまくいったシーンもいくつかあったが、いくつかのハンドリングエラー、ラインアウトのミスでフィニッシュまで至らなかった。あいにくながらこれが現状です。正直、課題が多く積み重なっているが、毎試合、毎試合、前進できている。ここで一貫性を持つことが重要です。

 まずは選手がテストマッチに慣れること、様々起こりうるシチュエーションに慣れることが最重要課題です。選手は、スクラムではジョージア代表とまた違ったことを経験した。それらがひとつひとつの糧となっていく。ただいまは残念ながら、フィールド上での解決策を見出すことができなかった。イタリア代表は我々が思っていたのとは違うディフェンスをしてきましたが、それへの解決策を見出すのに時間がかかってしまったのも敗因のひとつ。

 とはいえ選手としてはスピリット、勇気を見せてくれました。後半だけで言えばテリトリー、ポゼッションは上回っていた。課題を見出しつつも、選手の尽力は讃えたい」

——前半のペナルティーキック獲得時、ペナルティーゴールを狙わずトライを狙いに行った判断について(リーチは「(その時点で)勢いがあった(と見た)」としながら「日本代表にとってはラスト20分で勝負するために点数を重ねていったほうがよかったかもしれないです」と述懐)。

「フィールド上での判断は主将の責任です。自分としてはリーチの決断は自信を持って支持している。ただ今回は、(ペナルティーキックで選んだ)ラインアウトで何度もハンドリングエラーを犯していて、そちらのほうが問題の根本。ペナルティーゴールか、そうしないかの判断は『後から振り返るとそうかもしれない』ということはあるかもしれませんが、根本的な問題はもっと別なところにあります」

——収穫は。

「後半はアタックでうまくアダプトできた。順目、順目のシンプルなアタックで調整できた。我々の手元にボールがある時は脅威となれた。トライライン近くになった時も流れに乗れた局面もあった。試合後にイタリア代表のコーチと話した時も『プレッシャーを感じていた』と。ただし、敵陣5メートルに入った後にスコアまで持って行けなかったことは様々な形でやり直さないといけない」

——相手が14人の時間帯に7得点しかできなかった。

「ラグビーは3つのパートにわけて考えられます。

 ひとつめは自陣から出る。ここにはランやキックを多用します。

 ふたつめは50メートル(ハーフ線)、10メートル線のゾーン。ボールを動かし、ディフェンスの間のスペースを狙うシーンです。

 みっつめはゴールライン際。相手のラックディフェンスを崩さないといけないシーンですが、ここが我々にとって足らなかった部分。変えなくてはいけない。我々にはゴール前でパワーで持っていくという実力が不足していますので、ボールの動きを激しくすることをPNC(8月に参加するパシフィックネーションズカップ)へ準備していきたい」

——かつてのジョーンズさんであれば、このような内容の試合には激怒していても不思議ではありません。いま穏やかなのは悔しさをかみ殺しているからなのか、手応えを感じているからなのか。

「現状の内容を理解しているのが一番の理由。(ワールドカップに4度出場の)リーチがいない場合のチームの現状を考えてください。テストラグビーを成長の過程とすると、まだまだ幼稚園児と言えるチームではないでしょうか。その現状を私は認識しています。

 皆様、どうしても結果を気にされると思います。ただ、我々はプロセスを経ないと(求める結果を)得ることができないと理解しています。

 5年前、イタリアはトレヴィゾのベネトンはURC(ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ=欧州など複数国のクラブによるリーグ戦)では勝てずにずっと最下位。いまはそのチームの選手の多くが代表でプレーしていて、チームとしての経験値、連携を深めた事実がある。ただ前回のワールドカップ後にイタリア代表がここまで手ごわいチームになるとは、誰も予想していなかったと思います。

 我々も同じです。

 いまのジャパンには才能に満ちた選手こそたくさんいるが、経験値はない。やり続けないといけない。エフォート、頑張ることで欠けている選手はいない。経験、知識、連携を深め、蓄積することが大事。最低でも20キャップ(代表出場数)はないとテストラグビーでプレーできる選手とは言えない。それぞれが20キャップを得ることがまず大事です。

 私としては冷静を装っているつもりはありません。悔しく思っていますが、選手の努力は讃えないといけない」

 今夏のツアーでは昨秋のワールドカップフランス大会に出たメンバーが相次ぎ辞退。若手の抜擢がなされていた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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