匠の技に欺かれて「水無月」で魅せる引網香月堂さんの美味しいサプライズにときめく和菓子
京都発祥の和菓子である水無月は、今や関東のみならず比較的全国の和菓子屋さんでも販売されるように。
その味わいや見た目のバリエーションも豊かになり、その土地の特色を活かしたものや、フルーツをあわせたもの、更に一般的な外郎生地ではなく涼し気な葛を使用したものまで、実に興味深く毎日食べても飽きない多彩なラインナップがそろい踏み。
そんな数ある個性が光る水無月の中、今回はテレビ番組にも出演なさった経験をもつご当主がいらっしゃる、富山県は引網香月堂さんの水無月「玉兎・金鳥」をご紹介。
良い意味で、裏切られますよ。
「玉兎(ぎょくと)」は、いわゆる生成りの生地に小豆が散りばめられた水無月。
と、思いきや。
まずはその食感に驚き。確かにお米特有のふくよかな香りはほんのりするのですが、ほろほろともさらさらとも形容できるような不思議な食感。そこにしっとり仕上げられた立派な小豆の蜜煮が加わると、和洋の要素が複雑に絡み合い、次々に展開する味わいに思考回路がフル回転。
飲み込んだ後、答え合わせのように顔をのぞかせる胡麻の香ばしさとメープルシロップ特有の甘味に感服です。
「金鳥(きんう)」も見た目はお店で販売されることも多い、黒糖生地の水無月。ですが、こちらもまた良い意味でカジュアルに裏切ってきます。
なんと、黒糖の香りが皆無。その代わり、小豆といいますかあんこと小豆の素朴な香りの中に漂うのは、抹茶の芳しさ。
しかも、外郎というよりは、丁稚羊羹のような蒸し羊羹に近い食感と味わい。口の中には抹茶がふわふわと漂い、軽やかなアクセントのような役割を担っています。
見た目を裏切る、という評判を聞きつけておりまして、その予備知識はあったものの、いわば「王道」のような容姿からここまで欺かれるとは…
楚々とした容姿に秘められたサプライズに、和菓子の可能性を可視化したような水無月でした。
ちなみに、玉兎は月、金鳥は太陽を意味するとのこと。もう一年も折り返しだね、もう一年の半分も過ぎちゃったよ、なんて話題が昇る季節になりつつありますね。
本日、2023年6月21日は夏至。一年のうちでもっとも日が長くなるこの日を境に徐々に日は短くなり、つい月日の流れに思いを馳せてしまいそうです。