尻を叩く文科省
ますます英語教育が学校の至上命題になってきている。2020年から小学校で全面実施される新学習指導要領で正式教科とするなど英語教育が強化されるが、その移行期である現在、外国語教育の授業にどれくらいの時数を割いているか、全公立小学校について調査した結果を文科省が5月8日に発表した。
それによれば、3~4学年で35時間以上、5~6学年で70時間以上という新学習指導要領が全面実施されたときと同じ授業時数を今年度(2018年度)から実施している学校は3割にのぼっている。来年度についても、5~6学年で新学習指導要領実施並の授業時数を確保すると答えた学校は4割を超えている。
全面実施までの移行期は、3~4学年で15時間、5~6学年では50時間を確保することになっている。その移行期の授業時数で実施している学校は、今年度では全体の5~6割である。
移行期なのだから、移行措置でやるのは当然である。その移行措置を無視して、早くも全面実施並の授業時数を確保している学校が3割もあることのほうが驚きでしかない。
さらに問題は、こうした調査をやる文科省の「意図」である。全面実施並を実施している3割の学校について、移行措置まで戻すように文科省が指導したという話は聞かない。
こういう調査が行われて、結果が発表されたとなると、刺激されるのは学校の「競争心」ではないだろうか。移行措置で実施している学校も、全面実施並にやっているところが3割もあると知れば、「遅れてはいけない」となるはずだ。
まさに、文科省の意図は、そこにあるのではないだろうか。早々に全面実施している学校の存在を知らしめることで、移行措置のままでいる学校の競争心を煽り、焦らせ、「負けてなるものか」とおもわせることこそ文科省の狙いである気がしてならない。つまり、文科省は小学校の尻を叩いているのだ。
心配なのは、尻を叩かれた小学校が、準備不足のまま授業時数だけを増やすことに躍起になってしまうことである。新学習指導要領が全面実施されても、増える英語授業を、いまでも窮屈な時間割に組み入れていくのは簡単ではないといわれている。そのため夏休みを短縮して授業時数を確保しようとしている学校も少なくない。そんな状態で、授業時数確保の前倒しがすすんでいけば、学校現場は混乱するばかりだ。
いま必要なのは、英語教育を強化するにしても、しっかりした準備をすることである。中途半端な状態で尻を叩くばかりでは、子どもたちにとって必要な英語力は身につかないだろう。