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宇宙のあり得ない場所から来た「電波バースト」の謎が深すぎる…

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「予想外の所から来た高速電波バーストの正体」というテーマで記事をお送りしていきます。

高速電波バースト(FRB)

宇宙では多くの種類の超高エネルギー現象が観測されていますが、今回の主役となる「高速電波バースト(英語でfast radio burst, FRB)」もその一種です。

その名の通り、電波でしか検出できないという特徴を持っていますが、そのエネルギーは太陽が放つエネルギーの5億倍にも匹敵することもあるほど高エネルギーな現象です。

ESO/M. Kornmesser
ESO/M. Kornmesser

FRBは2007年に初めて観測されて以来、盛んに研究が行われてきた現象ですが、1000分の数秒という非常に短い期間しか続かない上、そのほとんどが繰り返し起こらないものなので、詳細を観測するのも、発生を予測するのも難しいのです。

さらに発生源の天体がどれも地球から数十億光年という極めて遠方に存在していることも観測を困難にしていて、あまりよく知られていない部分も多い、謎多き現象です。

そんなFRBですが、発生源の候補は存在しています。

中でも有力なのは、太陽の8倍以上重い大質量の恒星が一生を終えた後に形成される超高密度天体である中性子星の中でも、特に強い磁場を持つ「マグネター」と呼ばれる天体です。

マグネターは他の中性子星同様、20程度の直径に地球の50万倍以上の質量が詰まっている、超高密度天体です。

さらにほかの一般的な中性子星と比べて1000倍も強力な磁場を持っているとされています!

このように発生源の有力候補は存在していたものの、詳細を知られていない分確定は出来ず、地球外知的生命体の活動によるものであるという説も検討されていたほどでした。

FRBの起源が判明した実例

そんな中2020年4月には、これまでで最も強力な電波バーストが観測されました。

この電波バーストは本来のエネルギーの強さ自体は、他の電波バーストの数千分の1程度に過ぎなかったものの、

発生源が他の電波バーストと比べて異次元に近く、なんと史上初めて天の川銀河内で発生した電波バーストを検出できていたことが判明しました。

これだけ地球から近い場所で発生したために、最強のエネルギーとして検出できたわけです。

Credit:ESA
Credit:ESA

そしてその電波バーストの発生源にはちょうどSGR 1935+2154と呼ばれるマグネターが存在していたことから、その詳細な発生メカニズムは不明であるものの、少なくともその起源の一つがマグネターであることが確定しました!

この電波バーストでは初めて電波以外の波長の電磁波でもバーストを観測することができ、電波バーストへの理解が大いに深まった画期的な現象でした。

予想外の場所から来たFRBを観測

Credit:arXiv:2105.11445 [astro-ph.HE]
Credit:arXiv:2105.11445 [astro-ph.HE]

そして去年新たにFRB 20200120E(長いので以下今回のFRB)と呼ばれる電波バーストが観測されました。

この電波バーストは非常に奇妙な点が多く、その不可解な点について分析した研究の成果が、今年2021年の5月に発表されています。

先述の通り基本的にFRBは繰り返し起こらない場合が多いのですが、今回のFRBは例外的に繰り返し発生しているようです。

繰り返し発生するのは観測の都合上は幸運で、FRBの性質やその発生源など様々な情報がより詳細に調べられます。

分析の結果、今回のFRBの発生源は地球から1170万光年の距離にあると判明しました。

これは天の川銀河内で発生した物と比べると当然遠いですが、銀河系外で発生した中で次に近いものと比べ、約40分の1の距離しか離れていません!

さらに今回のFRBは、球状星団から発生していることも突き止められました。

これが今回のFRBの最も不可解な点とされています。

球状星団は銀河の周囲を取り囲むハローと呼ばれる構造にある、数十万個の恒星が重力的に引き合って集まった球状の星団です。

なぜ今回のFRBの発生源が球状星団であることが不可解かというと、一般的にFRBは、球状星団から発生することはないと考えられていたためです。

なぜなら球状星団内に、マグネターのような天体は非常に存在しにくいと考えられているためです。

球状星団に限らず、一つの星団では同時期に同規模の恒星がたくさん生まれる傾向があるので、星団内にある恒星の年齢や質量などのパラメータが近くなる傾向があります。

球状星団は100億歳と非常に古く、そして太陽よりも軽いような恒星がたくさん集っています。

一方で中性子星は、太陽の8倍以上重い大質量の恒星が一生を終えた際に形成される天体なので、球状星団にそのような大質量星が存在しにくい以上、中性子星も存在しにくいと考えられています。

さらに、中性子星の中でもFRBの発生源とされているマグネターは、ただでさえ磁場が強い中性子星が希少な上、時間が経つとマグネターは通常の中性子星へと変化します。

そのためマグネターは中性子星と比べてもずっと珍しく、球状星団の中に存在する可能性は極めて低い、というわけです。

謎を説明する2つの説

Credit:ESO/L. Calçada. Music Johan B. Monell
Credit:ESO/L. Calçada. Music Johan B. Monell

研究チームは、今回のFRBの発生源がマグネターが存在しない球状星団であるという謎について、2つの現実的な説明を提示しています。

1つ目は、今回のFRBを発生させたマグネターが、一般的な大質量星の最期に形成される以外のメカニズムで形成された、という説です。

重い星しか進化できないマグネターが存在しない球状星団の中でも、軽い星でも進化する白色矮星という天体であればたくさん存在していると考えられています。

この白色矮星同士が衝突したり、白色矮星が大量の物質を獲得し、自身の重力の限界に達することで、マグネターへと崩壊したという過程が考えられています。

そして2つ目の説明は、今回のFRBの発生源がマグネターではなく、白色矮星と中性子星の連星系や、ブラックホールの降着円盤など、マグネターよりは存在確率の高いまた別の発生源であるという説です。

これ以上の詳細についてはまだわからないことだらけですが、FRBの常識を大きく変える可能性があるほどの謎なので、今後も今回のFRBの謎解明に向けて研究が進められることでしょう!

https://www.sciencealert.com/the-closest-extragalactic-fast-radio-burst-yet-isn-t-from-where-we-expect
https://astrobites.org/2021/08/12/a-fast-radio-burst-in-a-rather-peculiar-location/
サムネイルクレジット:arXiv:2105.11445 [astro-ph.HE]

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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