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SNSで「精子提供」、危険性は? 近年の状況や問題点

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:イメージマート)

近年、医療機関を介さない精子のやりとり(精子提供)が増加していることをご存知ですか?

今回は、SNSなどを通じた個人間での精子提供の現状や危険性について解説していきます。

精子提供を依頼する理由とは?

何らかの理由でパートナーの精子が入手できない場合、パートナーではない第三者の精子を使用して妊娠を希望する女性がいます。日本では、1948年に初めて慶應義塾大学病院で提供精子を用いた人工授精が行われ、これまでに1万人以上の子どもが提供精子によって誕生したと考えられています。(文献1)

日本産科婦人科学会は、男性が無精子症(射精した精液のなかに精子が全くいない疾患)かつ女性パートナーは妊娠可能な状況下において、第三者が提供した精子を用いた人工授精の実施を許容する見解を示しています。(文献2)

この第三者とは、心身ともに健康で、感染症や遺伝性疾患を認めず、精液所見が正常な男性であること、そして営利目的(営利目的での精子提供の斡旋、関与、類似行為を含む)でないことが条件です。

提供相手に対してはプライバシーが保護されますが、医療機関には個人情報が記録され、近親婚を防ぐために同一提供者からの出生児は10名以内になるように管理されています。精子提供を受けるカップルも事前にカウンセリングを受けることが必要です。

2023年1月現在、日本産科婦人科学会における精子提供に関する登録施設は15施設ありますが(文献3)、慶應義塾大学病院など現在は受け入れを中止している医療機関もあり、医療機関を介した精子提供のキャパシティは限られています。

一方、無精子症以外の理由での精子提供も近年増加していると言われています。LGBTQ+カップルや選択的シングルマザーが子どもをもつ手段として、第三者からの精子提供を依頼するケースが増えているのです。

このような理由での精子提供は現時点では学会の勧告に反するため、医療機関を介して精子提供を受けることはできません

病院を介さない精子提供の問題点は?

病院に登録されている精子提供者と違い、SNSなどのインターネットを通じて精子提供を行っている男性の健康状態については何も保証されていません。医療機関では、精液採取後に病気がみつかるリスクを考慮して、凍結保存した精液のみを人工授精に使用します。一方、個人間提供では採取した精液をそのまま使用するため、感染症などのリスクにさらされることとなります。

また、第三者の精子提供によって生まれた子どもの出自を知る権利についても問題があります。SNSなどを介した匿名での個人間精子提供では、提供者の個人情報を知る手段がありません。2021年12月に精子提供者の経歴詐称に対する訴訟が話題となりましたが、子どもの権利が保証されることは非常に重要であり、無視できないものでしょう。

そして、インターネットを通じた精子提供では、シリンジ法(採取した精液をシリンジで女性が自分の腟内に注入する)だけでなく、性交渉を通じて行われる場合もあります。見知らぬ人と性交渉を持つことは当事者の感染症のリスクをさらに高めるだけでなく、密室での暴力など深刻なトラブルの危険もあり、推奨できない方法です。

精子提供に関する今後の課題

内密出産の記事でも解説したように、海外では子どもの出自を知る権利を尊重する傾向にあり、精子提供者の完全匿名性が廃止されている国もあります(文献4)。日本においても精子提供者の非匿名性を求める動きが活発化しています。これに伴い、将来的に個人情報守秘が保証されない可能性があることを説明した結果、慶應義塾大学病院では精子提供者が減少し、2019年には初診外来を閉鎖することとなりました。医療機関での精子提供者が減ったことで、SNSなどを介した個人間精子提供の需要がさらに高まってしまっているのかもしれません(文献1)。

インターネット上で活動する精子提供者7名を対象としたアンケート調査(文献4)によると、身体的特徴など依頼者の要望に応えるための情報の開示には肯定的な傾向がみられた一方、名前や墓の場所などの個人特定につながる情報の開示には否定的な傾向をみとめました。個人情報を開示したくない理由として、認知や養育費の請求に応じられない、社会的地位を損なう恐れがある、依頼者が知ったらショックを受ける可能性があるなどの回答もありました。

国内初の民間精子バンク所長の岡田らによる研究では(文献5)、精子提供に関するキーワードで検索してヒットした140のウェブサイトの96.4%は安全ではないと判断されるものでした。基準をクリアした5つのウェブサイトのうち、3つは民間企業のものでしたが、精子提供は高額で海外渡航が必要でした。2つの個人のウェブサイトも、精子提供者の個人情報が不明瞭であり、安全とは言い切れないものでした。

今後、精子提供者の個人情報保護に関する法律や、精子提供者と生まれた子どもの親子関係を否定する法律などが整備されていかない限り、匿名での危険な精子提供は減らないと考えられます。同時に、子どもの出自を知る権利に関しても保障されなければなりません。

精子提供のニーズが高まっている今、安全で非営利目的に提供精子を扱える仕組みづくりと、それを支える速やかな法整備が求められているのかもしれません。

参考文献:

1. 吉政ら. 臨床婦人科産科. 2022;76(4):282-285.

2. 日本産科婦人科学会「提供精子を用いた人工授精に関する見解」(2021年8月)

3. 日本産科婦人科学会ウェブサイト. 施設検索.

4. 新田ら. 医学哲学 医学倫理. 2020(38):57-64.

5. Nakata K,et al. Reprod Med Biol. 2021 Jun 14;20(4):554-556.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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