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明日開催…「2018南北首脳会談」における7つの注目ポイント

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
板門店「平和の家」に設けられた「2018南北首脳会談」の会談場。共同取材団提供。

11年ぶりとなる南北首脳会談が明日に迫った。「朝鮮半島の非核化」、「軍事的緊張の緩和を含む恒久的平和の定着」、「南北関係の改善」を論じるとされる会談の見どころをまとめた。

(1)終戦宣言?平和宣言?「軍事的緊張緩和措置」は?

米国のトランプ大統領は17日(現地時間)、米フロリダで行われた安倍首相との会談で「南北間で終戦問題を議論しており、この議論を祝福する」と発言した。戦争とは1950年6月から53年7月にかけて続き、今なお停戦中の朝鮮戦争のことだ。

これを受け南北首脳会談準備委員長を務める青瓦台の任鐘ソク(イム・ジョンソク)大統領秘書室長は「『4.27宣言』になるのか、『板門店宣言』になるのか分からないが、ここに込める内容をとても苦労しながら作っている」と明かした。

また、別の政府高官はこの「宣言」に含まれる内容について「必ず『終戦』という言葉を使うのかは分からないが、南北間で敵対行為を禁止する合意を含めるよう望んでいる」と踏み込んで話した。

これを受け、韓国では南北首脳会談で「終戦宣言」が出るのか、「平和宣言」が出るのかに注目が集まっている。

だが、朝鮮戦争の終戦を意味する「平和協定」には「停戦協定」の当事国である米中を含める必要があるため、南北で出す「終戦宣言」は象徴的なものに過ぎない。

さらに、韓国が終戦を安易に宣言することで今後、米国の交渉カードを潰すことにもなり兼ねない。このため、両国間での「平和宣言」となる可能性が高い。これは、「軍事的緊張の緩和を含む恒久的平和の定着」という議題とも一致する。

そしてその中に、「朝鮮戦争の当事国として」という一文が含まれる可能性がある。これは韓国が53年の「停戦協定」にサインしていない(当時の李承晩イ・スンマン大統領が反対)点をカバーする役割を果たし、南北米中が参加する「真の終戦」に向けた布石となる。

また、「平和宣言」とそれに伴う実質的な軍事緊張緩和措置として、どんな内容が入るのかにも注目される。韓国メディアの中には「DMZ(非武装地帯)からの両軍撤退」を観測する向きもある。

南北「国境」にまたがる「非武装地帯(DMZ)」。その長さは248キロに及ぶ。昨年12月に筆者作成。
南北「国境」にまたがる「非武装地帯(DMZ)」。その長さは248キロに及ぶ。昨年12月に筆者作成。

(2)金正恩氏が「核凍結」を宣言するか

北朝鮮の朝鮮労働党は20日、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会で「核実験、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の中止と北部(豊渓里プンゲリ)核実験場の廃棄」を決定した。

この決定を「核保有国宣言」と見るか、「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」のスタートと捉えるか専門家の中で見方が分かれている。

そうした中、韓国の文在寅大統領は23日、定例の首席秘書官・補佐官会議の席上で「北朝鮮の『核凍結』措置は朝鮮半島の完全な非核化のための重大な決定」と、踏み込んだ見解を示した。

これにより、北朝鮮が党総会で行った決定が「核凍結」、つまり現行の核開発プログラム停止の一部であるという位置付けが可能になる。

韓国はこれまで米朝会談を「セッティング」する役割を一部果たしてきた。その中心にいる文大統領の発言だけに注目される。文大統領はこれまで「核廃棄の入り口は核凍結」(今年3月)と主張してきた。

北朝鮮の「CVID」がどう行われるかが議題の中心となる米朝首脳会談成立の「条件」として「核凍結」があるのは不自然な話ではない。米朝会話を控える金正恩氏が、南北首脳会談で北朝鮮の「核凍結」を正式に宣言するか注目される。

もし実現する場合、「核凍結」の項目は、次に説明する「包括的平和体制構築」への合意に含まれるだろう。

(3)「包括的平和体制」にどこまで言及するか

今回の南北首脳会談の最大のテーマは言うまでもなく「朝鮮半島の非核化」だ。そしてそれを可能にするのが、北朝鮮の「体制保障」を含む「平和体制」との交換だ。

先日、韓国・高麗大のキム・ソンハン国際大学院長は韓国紙「文化日報」に寄稿したコラムの中で、以下のような提案を行った。

私達は終戦宣言ではない、包括的平和体制の構築を押し出し、「北朝鮮の核凍結=米朝、日朝関係正常化交渉」、「核廃棄=平和協定(終戦宣言)締結」、「核廃棄検証完了=北朝鮮制裁解除、(米朝、日朝)関係正常化、在韓米軍の役割調整」など、類似した迅速な履行方案を貫徹してこそ、戦略的な優位に立つことができる。

出典:終戦ショーを押し出すと核廃棄にまた失敗する

あくまで個人の意見であるが非常に説得力がある。

今後待ち受けている米朝首脳会談では、大筋で上記のような「措置対措置」がトップダウンで決定し、そのタイムスケジュール(2020年11月まで完了との声もある)と、履行をどう担保するかが語られることになるだろう。

前述した「平和宣言」と「核凍結(宣言)」は、このような米中を含む包括的な流れの中の一部に位置付けられる。この枠組みをどのように名付け、どんな表現でその重要度を表現するのかに注目したい。

首脳会談が行われる板門店から数十分の「KINTEX」に設置されたプレスセンター。内外から3000人の報道陣が首脳会談を伝える。「コリアン・ポリティクス」撮影。
首脳会談が行われる板門店から数十分の「KINTEX」に設置されたプレスセンター。内外から3000人の報道陣が首脳会談を伝える。「コリアン・ポリティクス」撮影。

(4)過去の南北合意へ時間を巻き戻すか

これは当然といえば当然だ。韓国の文在寅大統領は17年5月に就任後から欠かさず、以下の表にあるような「過去の南北合意の尊重」を主張し続けてきた。

北朝鮮側も同じ立場だ。朝鮮中央通信は3月28日の論評で「民族共同の貴重な合意を乱暴に踏みにじって北南関係を破局へ追い込んだ」として、過去の李(李明博)・朴(朴槿恵)両政権を「逆徒」と称した。

こうした点から、過去の合意を踏まえることが南北対話の前提であると見られる。この点を11年の歳月を経て再確認するものと見られる。

過去の主な南北合意をまとめた表。内容は筆者、作成はイミダス編集部(引用を許可していただいたイミダス編集部に感謝いたします)。
過去の主な南北合意をまとめた表。内容は筆者、作成はイミダス編集部(引用を許可していただいたイミダス編集部に感謝いたします)。

この中で今回、南北が立ち返るとみられるのは、▲互いの内部問題に干渉しない、▲将来的な統一を志向する、▲経済的な交流を活性化させる、▲軍事的な敵対関係を終息させるといった内容を含んだ、92年の「南北基本合意書」、00年の「6.15南北宣言」、そして07年の「10.4南北首脳宣言」だ。

南北の関係性については、過去、語られ尽くされてきた。このため、今回の首脳会談では南北関係の規定において、過去をきちんと踏襲するにとどまると見られる。

(5)南北連絡事務所が作られ、当局間会議が再開されるか

南北間には現在、08年2月に改編・設立された「南北交流協力協議事務所」が北朝鮮の開城(ケソン)市に存在するが、朴槿恵政権後半期の南北関係断絶や、それに続く国連制裁により、その役割を果たしていない。

北朝鮮の外貨獲得を厳しく制限する現行の国連制裁は、北朝鮮が完全な核廃棄(CVID)を行うまで解除されない見通しだ。さらに、これはあくまで南北交流のための協議体だ。

このため、朝鮮半島の恒久的な平和化、すなわち前述したような終戦協定、米朝国交正常化を経た平和体制への転換に向け、南北間で議論し協力する政治的な機構が必要となる。これが「南北連絡事務所」となる。これが設置されるかどうか注目したい。

また、過去に行われていたがいずれも現在ストップしている「南北赤十字会談」、「南北総理会談」、「南北将星級会談」、「南北軍事実務会談」、「南北長官級会談」などが復活するかも注目だ。

(6)南北首脳会談が定例化されるか

韓国政府や文大統領は、南北首脳会談の定例化をこれまで何度も言及してきた。過去2度(00年、07年)の南北首脳会談でも、次の南北首脳会談について言及があったことから、今回も同様の内容が含まれるものと見られる。

筆者は今回の南北首脳会談が「実務的な性格を帯びるもの」とする場合、例えば、文大統領が8月15日に合わせ訪朝するなど、4度目の南北首脳会談の日時を明記することもあると見る。

これはもし、5月または6月に予定される米朝首脳会談でうまく合意に至らない場合、再度、ドライブをかける役割を果たす「保険」として作用する。うまくいく場合にはより深い議論を行うことができる。

筆者はまた、今後、南北首脳会談が定例化される場合、それは将来的な「統一」を議論する朝鮮半島の最高決定機構へと自然に発展していくものと考える。

もちろん、韓国の「2体制2政府=連合制」北朝鮮の「1体制2政府=低い段階の連邦制」には「中央政府」の存在を認めるか否かのネックがある。

こうした点のすり合わせなども含め、今後の南北関係を安定化させる機構としての南北首脳会談の位置付けを行うか注目したい。

4月20日、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会に出席した金正恩委員長。朝鮮中央通信より引用。
4月20日、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会に出席した金正恩委員長。朝鮮中央通信より引用。

(7)北朝鮮に抑留中の韓国人6人の釈放なるか

南北関係を主管する韓国の統一部によると、現在、北朝鮮には6人の韓国国民が抑留されている。そうした中、韓国の国家人権委員会は昨年12月、抑留した6人の調査を行うように求める陳情書を、国連に提出した。

陳情書では「北朝鮮は抑留者3人が国家転覆の陰謀を企てたと主張しているが、証拠を提示しておらず、残りの抑留者たちに対しては、抑留の理由すら公開していない。(中略)抑留者は拷問、過酷行為、強制労働を課せられている」としている。

この6人について、今回の南北首脳会談を通じ、電撃的な釈放が行われる(通告される)か、その健康状態などについて言及が行われるのか注目したい。

会談後にも6人の状態が変わらない場合、韓国メディアの風当たりが強まり、韓国世論から批判的な声が出ることが予想される。「何のための会談なのか」という韓国社会の問いに、南北政府は答える必要がある。

なお13年10月、北朝鮮は当時抑留中であった6人を板門店を通じ、韓国に送還した過去がある。

まとめ:3つの議題とその内容

長々と見てきたが、明日の南北首脳会談では、3つの議題について以下のような枠組みで話がされるものと見る。

・朝鮮半島の非核化:北朝鮮の「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」と平和体制の構築(包括的平和体制)が段階的に進むことに合意。その前段階としての「核凍結」。

・軍事的緊張の緩和を含む恒久的平和の定着:「平和宣言」とそれに基づく、具体的かつ不可逆的な南北間の軍事的緊張の緩和措置。

・南北関係の改善:過去の南北合意の再確認。連絡事務所、南北首脳会談定例化、当局者会談の復活など

26日、「2018南北首脳会談」の南側準備委員長を務める任鐘ソク(イム・ジョンソク)大統領秘書室長は会見で、「27日の午前9時半、板門店の軍事境界線で歴史的な初めての出会いを始める」と明かした。

11年ぶりの南北首脳会談が朝鮮半島の明るい未来をもたらす第一歩になるのだろうか。即断は禁物だが、注意深く見守っていきたいところだ。

今年2月、青瓦台(韓国大統領府)で北朝鮮の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長と握手する文在寅大統領。これも歴史的な瞬間だった。写真は青瓦台提供。
今年2月、青瓦台(韓国大統領府)で北朝鮮の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長と握手する文在寅大統領。これも歴史的な瞬間だった。写真は青瓦台提供。
ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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