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音楽しか作れない私だから、もっと大きな愛を届けられる存在になりたい(北川とわinterview)

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

「我が道を往く」というミュージシャンは(ジャズと呼ばれるジャンルにおいては)多いけれど、それが“独自の”の範疇にとどまり、“独特の”という、いわゆる個性として評価されるべき域に達する人は少ないのではないでしょうか。

Trussonic-towa kitagawa trio-を率いて自らが創り出した音楽世界を、卓越した演奏者の視点と表現力によって再構築させている北川とわは、(ジャズという既成概念に収まらないという意味においても)“独特の個性”を表出しているアーティストのひとりであると、ボクは認識しているのです。

その彼女から、「Trussonicの4枚目のアルバムができました!」という連絡を受け、取材の段取りを考えていたのですが、いかんせんコロナ自粛で身動きが取れず、ようやくプロの演奏活動も少しずつ再開されてきたタイミングで、Zoomによるテレ取材を実施することができました。

北川とわ(本人提供)
北川とわ(本人提供)

♪ 矢継ぎ早に制作されるアルバムのワケ

──最初に、新作『ECHOES FOREVER』制作のきっかけからうかがいます。Trussonicの1枚目が2016年だから、リリースの間隔が短いですよね。

そうですね。実は、次々と作りたいものがたくさんありすぎてていう状態で……。

今回の『ECHOES FOREVER』に入ってるメインの組曲、この曲を作り始めたのがもうだいぶ前で、前作『minduniverse』のレコ発ライヴの最終、六本木クラップスでのときに組曲の1曲目のプロローグを初演しているんですよ。つまり、そのときからもうすでにこのアルバムに収まるべき曲を作り始めていて、ライヴで少しずつ披露、という感じなんですよね。

楽曲は本当に、譜面に起こす前からもう、どんどんどんどん自分のなかで出来上がっていたので、それを演奏して録音するのが“後から付いてくる”みたいな(笑)、録音することが決まっててやっと作るというよりか、どんどんどんどん曲が自分のなかから湧き出てくるので。

──曲作りのテーマ性について、とても特殊な方法をとっているソングライターだと思っているのですが……。「外的な刺激に対して反射的に感じた音を出す」のではなくて、論理的なもの、楽理的なものに絡め合わせながら作品を作っていくような作曲家じゃないかな、と。

自分でも、感覚的な部分と理論的な部分と両方の要素があって曲を作ってると思いますね。

これは自分が曲を作り始めたときに考えていたことなんですが、パッとアイデアとかおもしろいリフなどが思い浮かんだりするじゃないですか。それを整理して出来上がった自分の曲と、世の中の凄い作曲家の作品と比べたときに、おもしろいことをただ並べるだけのものは“アイデア集”であって“曲”ではないな、と思ったことがあったんです。

これでは人を感動させるのはもちろん、自分の思想とか哲学とか思ってることを表現できないと思った。

なのでやっぱり、感情が伴った曲づくりや、景色とか風景とかそういうインスピレーションもとても大切なことなんですけど、それを楽曲として構築することによって、より自分の思っていることを人に伝えたりとか、人を感動させることができると思うので、そういう2つの要素をすごく大切にしたいと思っていて、そのうえで曲を作るようにしています。

──自分の作った曲を実際に音にする段階では、曲とその演奏ユニットの距離感をどう受け取めているのですか?

最初のころは、私がこれだけ考えて、こんなものを作りたいという想いを込めたものだから、それを一緒に表現して欲しいっていう気持ちが強かったんです。

でも、私が魅力的だと感じてメンバーになってもらったミュージシャンたちがあまりにも個性的だったので、なんだか自分が考えてることなんかちっぽけで、この人たちが考えてることとか、この人たちが私の曲を見た時のインスピレーションとか、その日そのときに感じたこととか、そういう“私が作ったもの”以外の要素のほうに私が付いていって、彼らと一緒に冒険したほうが、自分の考えたことよりもっとすごいもの、もっとすごい景色を見ることができるんじゃないか、って思うようになりました。

ライヴでは、もっとその相手のインスピレーションとかその人のアイディアとか、そういうものを優先したり信じたりして、一緒にまったく違うものというか、新しいものを探しに行くようなつもりで演奏するようにしています。

──演奏者ということでは、自分の作った曲をそのユニットの中でピアニスト、キーボーディストとして再現するときの曲との距離感みたいなものは変わるのかも教えていただけますか?

難しい質問ですね……。

自分で作ったものを自分で演奏するって“究極の自己表現”というか、隅々まで自分の思ったことを完璧に表現できることなんじゃないかと思うんですけど、もちろん、自分で演奏するからといって、自分が思ったとおりにすべてできるわけじゃないですけど。

確かに、どちらかといえば、自分の思想とか思考とか曲のイメージとか、作ったときのことを尊重して演奏していけるのは確かです。

でも、そこに、ピアノ・トリオという編成、ほかの共演者が入り、全然違う刺激というか、違う要素が入ってくることによって、自分が初めに思ってた曲のイメージとか世界観にプラスアルファ、また違ったものを取り入れて演奏しているというか、そういう感じになるときがあります。

──実際にお客さんの前で演奏しているとき、作曲者の自分とパフォーマーとしての自分の割合はどのぐらいだと思いますか?

実は、一昨日まで3日間、ライヴがあったんですけど、毎日演奏してるなかで、自分が作曲者っていう感覚って、もしかしたらあんまりないのかな、という感じがしていたんです。

この曲はこういうイメージをもってるからというよりは、一緒にいる相手、一緒に演奏する共演者を信じて、共演者の音を聴いて、それで毎日新しいもの、新しい世界を探しに行くような感覚でしょうか。

もちろん、元々その曲がもっている世界観がありつつ、それに則ってみんなで新しいものを作りに行くわけですけれど、自分はこうしたいからみんなこうしてくれ、と言ったりすることはほとんどないですし、曲に託した自分が思ってること、初めに考えたことよりも、もっとすごい、わくわくしてドキドキするような感動的な新しいものを見せてもらえるんじゃないかなって思ってるので、そういう意味では、ライヴのときは作曲者としての自分はあまりないのかもしれないですね。

なにしろメンバーは、楽譜どおりに弾くだけでとても難しい私のオリジナルを、ただ楽譜どおりに弾くだけじゃなく、プラスアルファの新しいものを探しに行こうとアプローチしていくんです。だから本当に、「アルバムにこの曲入ってたっけ?」っていうぐらい、全然違うものを、毎日毎日、繰り広げるようなことがライブで起こっているので、やっぱり演奏者の技量があってこそと言うか、その演奏者が素晴らしいからそうなってるのかなって思いますね。

Trussonicのライヴのもよう(大津・bochi bochi、左から北川とわ、岡田治郎、岩瀬立飛、本人提供)
Trussonicのライヴのもよう(大津・bochi bochi、左から北川とわ、岡田治郎、岩瀬立飛、本人提供)

♪ 4作目で表面化してきた“組曲”という表現手段

──「曲が変わってくる」という話の次に、ぜひ聴いてみたいなと思っていたのが、今作では組曲という、非常に特徴的な、ボリューム的にも大きな位置を占めている要素がありますね。こういう方向性について、今回なにか意識されたことはあったんでしょうか?

そうですね、私、学生のころに組曲はよく書いていて、というのも曲を書くのがあまり上手にできなかったので、とにかく少ない要素を集中的に使って短い曲を書いて、それを組み合わせて組曲にするっていうのをよくやっていたんですね。

それが自分のなかで自然体でリラックスして書けるというか、すごく楽しかったし、自分としても得意だったということもあって、それでそういったものを作ってみたいということがあったことと、いままでのアルバムではあまりなかったと思うんですけど、ピアノ・トリオっていうとやっぱり、絶対にジャズ・フォーマット的なピアノ・ソロのパートとか、ベース・ソロのパートが、やっぱり必要と思われているじゃないですか。そういうのも組曲なら、曲によっては、もう全然、まったくなくできるんじゃないか、と。

本当にクラシックみたいな、アドリブがないような曲とかもあるんですけど、自分から湧き出たひとつのモチーフを様々なリズムやコードや作曲技法で彩りながら、自由に書けるのが組曲なんじゃないかと思ったんです。

あと、やっぱり、自分自身も(Trussonicで)3作作ってみて、もっとメッセージ性とか物語性が強いものを作りたいと思ったので、ひとつのテーマに沿って成立している、物語のような映画のようなものに仕立てやすいフォーマットとして組曲を選んでみました。

──アドリブがないということは、気分や環境要素に左右されやすい不確定要素を入れることをあまり優先させたくないという考え方ですか?

なんだろう……、実は、不確定要素は入れないといっても、楽譜、例えばドラムのパートとか、もちろんすべてを書いてるわけではなく、そういう意味ではアドリブ寄りの演奏になっていて、もちろんフーガになってる部分のパートはちゃんと書いてあったりするんですけど、でも、ほかの所は「ご自由に」で、演奏者が考えたベース・ラインを弾いてたりするので、アドリブ・ソロというパートこそないけど、でも実は即興演奏はいろんなところで発生しているんです。

そういう意味では、不確定要素はかなり入っていると思います。

それによって、もちろん、曲がもっとおもしろくて良いものになっていると思っています。

──とわさんのなかで“組曲”は、お手本があったりするのですか?

そうですね、いろんな時代のいろんな要素を取り入れてるっていう感じがありますね。

例えばフーガだとバロックの要素だったりするかもしれないし、不協和音でぶつけてみるようなところやリフについては、近現代以降の作曲家だったりするかもしれないし……。

実は、古典的に作ってるようなところに関しては、私、曲が複雑に見えるかもしれないんですけど、意外と主題・提示部・展開部・再現部みたいな、そういう“普通の形式”が好きなところもあるので、そういう意味では普通に本当に古典的な作曲形式を尊重して作ってたりもするので、いろんな時代のいろんなものがまぜこぜになって自分のなかにあるんでしょうね。

──曲を聴いていて、ライヴも拝見していて、印象派じゃないっていうイメージがすごくあるんです。

そうですね、自分にとって心に残ったり感動したり、グッとくるとか耳に残るメロディっていうのが、オシャレな感じや都会的なものよりも、牧歌的なものなんです。そういう意味でも、テンション・コードがたっぷり入ったコード進行よりも、3和音だけみたいなものが好きなので、印象派的楽曲じゃないのかな(笑)。

テレワーク中のTrussonic(左から岡田治郎、岩瀬立飛、北川とわ、本人提供)
テレワーク中のTrussonic(左から岡田治郎、岩瀬立飛、北川とわ、本人提供)

♪ コロナ禍のもとで感じた“音楽”と“愛”の必要性

──アルバムの話題から離れて、コロナの時期はどうお過ごしでしたか?

実は、緊急事態宣言が出る直前に予定されていたピアノ・トリオ+ピアノ・トリオの企画、4月に実施する予定だったものがキャンセルになってしまったので、そのメンバーでテレワークによる作品を作ったりしていました。

あと、ミニアルバムを作ったり、テレワークで動画を作ったり。ミニアルバムは7月7日に完成しました(笑)。

──演奏家として外に出る仕事だったものが籠もらなければいけないような状況になり、意識的にも、音楽に対する向き合い方に変化があったのではないかな、と。

緊急事態宣言が出て、いまだにいろいろ不安な世の中が続いていますけど、あのときにすごく思ったのは、周りの人の存在がどれだけ自分にとってとても心強くて大切なものだったのか、ということでした。

自分がちょっとでも困ったときには、助けてくれる人が絶対にいて、不安なことがあったらその不安を解決してくれる人がいる。

緊急事態宣言のなかで、以前のような活動ができないあいだも、自分にとってすごく大切な音楽について、そういう状況下でもいろんなやり方で一緒にやってくれる人がいたことは、本当にありがたいことでした。

いままで自分は、どちらかというと周りのことにあまり興味がなくて、自分のことばかり考えている人だったんですけど(笑)、どれだけ温かい人に囲まれて、人に助けられて、それで勇気づけられたり元気づけられたりして生きてるのか、ということをすごく強く感じたんです。

いままでなら、自分がこういうものを作りたくてこういう表現者でこういうことを発信していきたい、という気持ちが強かったんですけど、なんか、その、本当に人の温かさに触れることができたからというか……。

やっぱり自分ひとりじゃなにもできなくて、人が支えてくれることによって成り立っていたのかというの感じて、逆にもっと、自分が周りの人に大きな愛を与えられるような人になっていきたいたい、という心境に変わりました。

──人間的な変化の部分に加えて、音楽的な北川とわの「新しい生活様式」ならぬ「新しい音楽様式」というか、なにか今、考えていることがあったらうかがいたいのですが。

答えになっているどうかかわからないですけど、いま実は、新しい次のアルバムのための楽曲がほとんど完成していて、そのテーマというのが“海”と“賛美歌”、コラールなんです。

そのテーマになった理由というのが、いまこの状況下で自分が感じたことが大きく影響していると思います。

ちょっと話が脱線しますけど、コロナの期間中にチャップリンの映画を見ていて、そのときにすごく心に残った話があって、それが「地球には全ての人を包み込む豊かさがある」「知識より大切なことは思いやりだ」というセリフなんです。

地球には全ての人を包む豊かさがある

人生は自由で楽しいはずなのに

貪欲が心を支配し…

増悪をもたらし…

悲劇と流血を招いた

スピードも役に立たず…

機械は貧富の差を広げた

知識を得た人間は優しさをなくし…

心の通わない思想で人間性が失われた

知識より大切なのは 思いやりと優しさ

それがなければ機械と同じだ

出典:映画「独裁者」

すごくそれに感動して、心が動かされて、なんとなく、やっぱり、疑ったりとか、憎しみ合ったりとか、批判することが正義みたいになっていたりとか、そういういまの世の中の状況を、自分が感じてしまっていたところがあるんですけど、もっと自分は、すごく単純なことかもしれないんですけど、周りの大切な人を思いやって、周りの人に大きな愛を与えられるような人になりたいと思って。

私は音楽作ることしかできないので、そういうものを音楽をとおして表現していきたいな、と。

──そんな想いの詰まった次のプレゼントになるアルバムについて、もうリリースの予定は立っているんでしょうか?

実はぜんぜん立ってないですけれど(笑)。ライヴでは1曲だけ、もうすでに演奏はしていて、このあと9月まで、かなりライヴの予定は入っているので、そこでちょっとずつ露わになっていくというか、発表していこうと思っています。

今回のZoomインタヴューのようす(筆者撮影)
今回のZoomインタヴューのようす(筆者撮影)

Trussonic-towa kitagawa trio- 4th album

Echoes forever

『Echoes forever』ジャケット写真(筆者撮影)
『Echoes forever』ジャケット写真(筆者撮影)

【あまびえジャズ祭参加作品】「Into the silent echoes」by Trussonic - towa kitagawa trio -

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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