自宅教育で育った少年が恋をして、世界と出会う。ポップな青春コメディ『リアム16歳、はじめての学校』
タイトルからなんとなく内容がわかった気になってしまうかもしれません。けれども、カイル・ライドアウト監督の『リアム16歳、はじめての学校』(原題:Adventures in Public School)は、予想を超える驚きとハッピーな高揚感をくれる快作です。
リアム(ダニエル・ドエニー)は、子供の頃から学校に通わず、シングルマザーのクレア(ジュディ・グリア)による自宅教育を受けて育った16歳。高卒認定試験を受けて、彼自身の憧れの存在でもあるホーキング博士の次に有名な存在になるべく、ケンブリッジ大学に進学するはずだったのですが…。
試験会場となった地元の公立高校で見かけた、義足の美少女アナスタシア(シオバーン・ウィリアムズ)に一目惚れしたことから、事態は激変。
これまで親友でもある母親の意見を素直に受けて入れてきたリアムは、はじめて母親の意向を無視。自身の母校でもある公立高校を嫌うクレアが猛反対するなか、通学することを決意。今まで知らなかった「世界」と出会います。
はたして、純粋培養の少年が公立高校でやっていけるのか? リアムがこれまで一度も学校に通ったことがなく、友達もいないだけに、彼の先行きが心配になるのはいうまでもありません。実際、リアムは悪ガキの洗礼も受けますし、めげそうにもなります。世界との出会いは甘くないのですが、それでも、恋する少年の高校生活には、誰もが共感できるときめきがいっぱい。
設定自体は、決して目新しいわけではないけれど、語り口がとにかく魅力的。
世間知らずの少年が、その世間知らずさゆえに騒動を巻き起こすのではなく、リアムは戸惑いながらも粛々と、持ち前の頭脳明晰さも発揮して、授業の課題やら部活やら、フツーの学校生活で提示されることに対応していきます。その姿はもちろん、本来の目的であるアナスタシアとの恋を実らせようと時には迷走もする姿も、なんともキュート。
そんなリアムの物語を綴るカナダの新鋭ライドアウトは、これが監督第2作ながらお手並み鮮やか。学校生活のみならず、恋のときめきもほろ苦さもひっくるめて、リアムが初めて知る世界を、ソフィア・コッポラやウェス・アンダーソンを彷彿させるスウィートな色彩でポップに描いて、とびきりキュートでありながらもオフビート。そもそも、リアムは休学中の女子生徒マリアの代わりに通学することを認められているので、教師も生徒たちも、リアムのことをマリアと呼ぶのです。リアムの学校生活は、このあまりにもシュールな状況のもと繰り広げられるのですから。
同時に、これはクレアの子離れの物語でもあります。なにしろ、クレアは、リアムと一緒にケンブリッジに行く気満々なほど、息子を愛しているのです。ただ、息子を愛しすぎる母親が怖ろしい存在として描かれる作品も多いなか、ライドアウトは、そうしたことは重々承知していることをウィットとともに指し示しながら、あくまでハートウォーミングなコメディに仕上げている。そこがまた新鮮で、この作品を愛すべきものにしている大きな要素。
この成功には、独自の教育方針を持ちながらも、息子の自主性も重んじるクレアを演じたジュディ・グリアのコメディエンヌとしての力量はもちろんのこと、母親と幼稚園や小学校低学年の友達同士のような“親友”ぶりを見せるリアムの純粋さの中に、知性と分別も感じさせるダニエル・ドエニーの魅力も大きいでしょう。
ライドアウトは、『JUNO/ジュノ』や『(500)日のサマー』をお手本に、明るくテンポのいい作品を目指したそうですが、それと知らずとも、ポップなビジュアルや、リアムと同じく自宅教育を受けている少女の名前から、そうした珠玉の青春映画の匂いを感じ取った人は、きっと好きになるはずの1本。
全編にわたって溢れるセンスの良さは、ずっと見守ってきたリアムの高校生活がいきるラストシーンでも光っています。
『リアム16歳、はじめての学校』
新宿シネマカリテほかにて公開中。全国順次公開。
配給:エスパース・サロウ
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