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北米の先住民族 ... 意外と知られていないNYとの繋がり。ネイティブアメリカンの足跡を辿る

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
レンダリングされたNYの昔と今(ネイティブニューヨーク展の展示写真を筆者が撮影)

先住民族を傷つける心ない言動や差別は、21世紀となった今も世界各地で起こっている。

日本では少し前、テレビの情報番組でお笑い芸人が先住民族のアイヌを茶化す表現をし、大問題になった。問題の表現は、先住民族の名前を動物に例えるというもので、以前からたびたびアイヌ民族に向けられてきた差別的なものだった。テレビ局は再発防止に向け、問題が起こった背景を検証しアイヌ民族や視聴者に対して謝罪した。

アメリカでも先ごろ、カリフォルニア州の高校で、教師が授業中にネイティブアメリカンの格好をし、トマホーク(斧)を振りかざすポーズをした動画が拡散され炎上した。問題の動画は、ネイティブアメリカンの生徒が撮影したものだった。生徒にとって教師の言動はネイティブアメリカンの文化に対しての攻撃的な描写として映ったという。教師はその後、休職処分となっている。

これらはほんの一例だが、いずれのケースも先住民族への配慮が足りず、知識や理解の欠如から起きたことだろう。

ネイティブアメリカン文化遺産月間を間近に控えた25日、先住民族の理解を深めるため、ニューヨークにあるスミソニアン協会の一つ、国立アメリカ・インディアン博物館(National Museum of the American Indian)では、企画展「ネイティブニューヨーク」が新設された。マンハッタンからナイアガラの滝まで12箇所において、テリトリーとして何らかのゆかりがあった秘話や、知られざる暮らしぶりなど、先住民族の歴史の足跡が展示されている。

例えば、今では高層ビルが立ち並ぶマンハッタン島も昔は緑が生い茂り、ネイティブアメリカンの人々の暮らしがあった。

17世紀になり、オランダの入植者が土地の所有や譲渡についての知識がなかった先住民族と、60ギルダー(24ドル相当)の価値の物品(ビーズや衣類など)で取引したのがマンハッタンだ(入植者側の解釈は「購入した」、先住民族側は今後もさらなるギフトがあると勘違いし、誤解が発生)。

オランダの植民地となってから、ここは新たなアムステルダム=ニューアムステルダムと呼ばれ、その後イギリス人の手に渡ることになり、新ヨーク=ニューヨークに改名された。

マンハッタンの北部インウッド周辺で見つかった、紀元前850〜1200年代のものとされる釜の一部。「ネイティブニューヨーク」展で展示中。(c) Kasumi Abe
マンハッタンの北部インウッド周辺で見つかった、紀元前850〜1200年代のものとされる釜の一部。「ネイティブニューヨーク」展で展示中。(c) Kasumi Abe

現在全米で、連邦政府が認めたネイティブアメリカンの部族の数は574とされている。そして多くの部族は、もともとの土地(ネイティブニューヨーク)から他の土地に強制的に追いやられた。

同博物館の学芸員で歴史家のガブリエル・タヤック(Gabrielle Tayac)氏によると、ニューヨーク州に現存するネイティブアメリカンは約10部族で、ニュージャージーエリアも含めるとそれ以上になると言う。

タヤック氏はこれまで、現存するすべての居留地を訪れ、ネイティブアメリカンの理解を深め、人々に啓蒙し、差別などの問題に積極的に取り組んできた。「正しい知識や理解をすることが、問題の解決に繋がる」と語る。

歴史家のガブリエル・タヤックさん。自身も父方がネイティブアメリカンのルーツを持つ。Photo: David Rico
歴史家のガブリエル・タヤックさん。自身も父方がネイティブアメリカンのルーツを持つ。Photo: David Rico

同博物館のアソシエイトディレクター、デビッド・ペニー(David Penney)氏も、「ネイティブアメリカンの歴史と文化は依然として不正確な情報とステレオタイプなイメージの影響を受け続けている」と言う。それでこの特別展では、単なる歴史紹介だけでなく、先住民族の歴史が現代生活や人々とどのようにリンクし影響をもたらしているか、身近なテーマと共に示すことにした。

展示を見て周ると、例えば現在のブロンクスやマンハッタン北部周辺でもともと暮らしていたレナペ(デラウェア)族は、オランダやイギリスからの入植者、後にアメリカ政府から次々に土地を収用され、ニュージャージーやペンシルベニア、北はカナダ、西はカンザス、オハイオ、オクラホマなど遠くへと追いやられたことがわかる。

展示品の一つに、西へ西へと追いやられ1850年代にはカンザスに居留していた時のショルダーポーチがある。自然を模した柄でカラフルな色合いが特徴だ。当時、その周辺で大陸横断鉄道の建設が予定されると、居留地を売り渡すように再び強要され、今度はオクラホマに移動を強いられた。ポーチに埋め込まれたビーズの葉っぱのデザインは、タヤックさんによると「もともとそれらの土地では見られないような植物の柄なんですよ」と言う。もちろんカメラも辞書もない時代のこと。

代々にわたって自分たちの意志に反して幾度となく移動を迫られ、未開の居留地に押し込まれる中、これまで自分たちのいたネイティブの土地や自然の記憶をいつまでも失わないようにと、子や孫の世代に語り継いでいったのだ。この柄1つにも、そんな琴線に触れるエピソードが秘められているのだった。

レナペ(デラウェア)族のショルダーポーチ。(c) Kasumi Abe
レナペ(デラウェア)族のショルダーポーチ。(c) Kasumi Abe

また、先住民族の人々は現代、強制移住を強いられた先の土地で、差別とはまた別の問題にも晒されている。

28日付のニューヨークタイムズによると、テリトリーの98.9%を奪われたネイティブアメリカンは移住した先々(例えばアリゾナ州など)で、気候変動の脅威に晒されているという。(近年、異常気象による熱波、干ばつ、大規模な山火事などは、アメリカで深刻化)

イェール大学の博士課程に在籍するポール・バーン・ブロウ氏は記事の中で、解決するための最善の方法として、「奪った土地を返還すること」と述べている。

「ネイティブニューヨーク」展での展示資料。ネイティブアメリカンの土地(オレンジ色)を1713年と現在で比較したもの。(筆者が撮影し、一部加工)
「ネイティブニューヨーク」展での展示資料。ネイティブアメリカンの土地(オレンジ色)を1713年と現在で比較したもの。(筆者が撮影し、一部加工)

いつの時代も、被害を受けやすいのは、社会的に脆弱な立場に置かれている人々だ。今すぐに大きな援助ができなくても、正しい歴史を一人一人が学んでいくことで、いずれ大きな前進に繋がっていくことになるかもしれない。

企画展「ネイティブニューヨーク」は、この先10年単位で続いていく。いつかニューヨークを訪れることがあれば、この展示に足を運んでニューヨークとネイティブアメリカンの繋がりについても考えてみてはどうだろうか。

「展示では、コミックの技法やインタラクティブな方法で、大人から子どもまで楽しく学べるように工夫しました。日本ならアイヌ民族と言うように、それぞれの国の先住民族についても考え、思いを馳せるきっかけになれば嬉しいです」(タヤック氏)

毎年11月は、ネイティブアメリカン文化遺産月間(National Native American Heritage Month)です。

参考資料

(Text and some photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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