「鬼滅の刃」炭治郎の衣装の柄の商標登録出願に拒絶査定
先日書いた「”鬼滅の刃”便乗グッズ販売会社社長、不正競争防止法違反で起訴、商標権侵害はどうなのか」という記事で触れた、炭治郎の衣装の柄の市松模様の商標登録出願(商願2020-078058)ですが、集英社側の主張が認められず、9月24日付けで拒絶査定が出ていました。
昨年書いた記事「”鬼滅の刃”由来の地模様は商標登録されるか?」でも書いたように、一般に、地模様と認識される商標登録出願に対しては、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(商標法3条1項6号)の拒絶理由が通知されることが、特許庁の審査基準に明記されています。
この昨年の記事でも書いたように、アパレル・ブランドのポール・スチュアートは、自社のスーツ等で使用されている地模様について、十分な周知性を獲得しているので消費者は単なる地模様として認識することはないと不服審判で主張し、無事登録にこぎつけました。
しかし、今回の炭治郎柄については、出願人の集英社は、この柄の周知性を主張するのではなく、「これは連続する地模様ではなく、正方形の図形商標なのだ」という主張を行うことで登録査定を得ようとしました。鬼滅の刃、そして、炭治郎柄が全国的に有名であることには異論がないでしょうが、商標(商品やサービスの標識)として著名かというと何とも言えないので、そういう戦術は取らなかったということかもしれません。しかし、結果的には、特許庁は、常識的に考えて消費者は地模様と認識すると考えられるということで集英社側の主張を一蹴しました。
ここで、仮に(地模様としてではなく)正方形の図形商標として登録できたとしても、侵害訴訟の時に権利範囲がかなり限定的に解釈されたしまわないかと思います。なお、集英社はこの拒絶査定に対して不服審判を請求できますが、審判は審査の続審なので、この問題は残ります。
仮に、この拒絶が確定しても、冒頭の記事に書いたように、「鬼滅の刃」と紛らわしい形でこの市松模様を使った商品を製造・販売すれば、不正競争防止法違反として刑事罰や民事訴訟の対象になり得ますので、悪質な便乗グッズ商売が許されない点に変わりはありません。一方、「鬼滅の刃」とはまったく関係がない文脈で、この伝統的な柄を使う分には自由にできますので、結果的には特に問題が生じることはないと思われます。