「すしざんまい」事件地裁判決の解説(知財高裁判決文公開時の予習として)
「すしざんまい側、逆転敗訴 類似の店名使用で知財高裁」というニュースがありました。例の社長さんで有名な「すしざんまい」の運営会社(株式会社喜代村)が、マレーシアで"Sushi Zanmai"という寿司チェーンを展開している企業(スーパースシ)のグループ会社の日本法人であるダイショージャパン株式会社(日本の調味料メーカーの株式会社ダイショーとは関係ありません)を訴えた事件です。
報道記事では「マレーシアなどでの"Sushi Zanmai"という店名の使用差し止めを求めた訴訟」といった書き方がしてあるので、誤解している方がいるかもしれませんが、この裁判は、マレーシアでの類似店名の使用に関するものではありません。そもそも、マレーシアでの商標権侵害を日本の裁判所で裁けるはずもありませんし、スーパースシ社は"Sushi Zanmai"をマレーシアで商標登録しているので、マレーシアにおける店名使用は商標権の侵害にはなり得ません。
この裁判で争点になっているのは、被告のダイショージャパン社がマレーシアのSushi Zanmaiの店舗について日本向けの企業ウェブサイトで紹介することが、原告(日本の「すしざんまい」運営会社)の日本国内の商標権の侵害になるかです。
今年(2024年)の3月にあった地裁判決では侵害と認定され、被告に差し止めと約600万円の損害賠償支払いが命じられましたが、今回、それが覆されたことになります。知財高裁判決は現時点ではまだ公開されていません。公開されしだい解説記事を書くとして、以下では、その"予習"としてこの地裁判決の解説を書くことにします。
原告は商標権侵害と不正競争の両方を主張していますが、商標権侵害が認定されたため、不正競争については判断されていません。
商標の重要な機能として出所表示機能と品質保持機能があります。これが害される場合には商標権侵害とされるのが一般的な考え方です。日本の消費者に向けたウェブサイトにおいてマレーシアのSushi Zanmai店舗を紹介することで、日本の消費者が飲食店サービスの出所を誤認混同するか、つまり、このSushi Zanmaiなる店が日本のすしざんまいと同じ事業者(または、正規ライセンスを受けた事業者)により運営されていると誤解するかという点が商標権の侵害があるかを決することになります。
地裁判決では、商標の類似等の検討をした後で、特にさしたる説明もなく、出所表示機能と品質保持機能が害されていると結論づけていますが、冒頭の共同通信記事によれば、知財高裁では「サイトは日本国内の消費者に"Sushi Zanmai"を広告する目的ではないと指摘。閲覧者が"すしざんまい"の広告と誤認する可能性は低いとした」とされたようです。日本の消費者が誤認混同するかがポイントという点には変わりはなく、被告のウェブ表示を具体的に検討すれば誤認混同は生じていないと判断したものと思われます。
この問題とされたウェブ表示が地裁判決文に引用されているのですが、画像の解像度が低くて読めないので、同じ部分をInternet Archiveから引っ張ってきたのがタイトル画像です(なお、Sushi Zanmaiのリンクをクリックするとマレーシア国内の消費者向けと思われる店舗サイトに遷移します)。確かに、広告ではなく、企業の事業内容を説明しているだけのページであると認定されてもおかしくないようにも思えますが、考察は知財高裁判決文の公表を待ちたいと思います。