「鬼滅の刃」便乗グッズ販売会社社長、不正競争防止法違反で起訴、商標権侵害はどうなのか?
「”鬼滅の刃”偽グッズ244点販売 …販売会社代表の男を不正競争防止法違反の罪で起訴」というニュースがありました。ニュース動画を見ると、炭治郎の羽織の地模様(緑と黒の市松)に「滅」という漢字1文字が書かれたタオル等の商品を販売していたようです。さすがに、「鬼滅の刃」という商標をそのまま使うのはまずいと考えて、合法ギリギリの線を狙ったつもりだったのでしょう。しかし、パクリネタが周知(著名)な場合には、そう簡単に回避はできません。
上記記事によると、この事件については、7月28日に、今回起訴された販売会社代表を含む4名が不正競争防止法違反と商標法違反の疑いで逮捕されているようですが、「十分な証拠がなかった」として、不正競争防止法については他の3人が不起訴、商標法違反については4人全員が不起訴になっています。
まず、不正競争防止法から検討してみましょう。周知表示混同惹起行為と書いてある記事もありますので、2条1項1号と思われます。
「商品等表示」は商標よりも広い概念であり商品の形状等も含まれます、また、商標権侵害とは異なり、商標登録されている必要はありません。ただし、周知であること、消費者に混同が生じていることが要件になります。「鬼滅の刃」の周知性には疑いはないでしょう。なお、混同とは単に公式グッズと間違えて買ってしまったというようなケースだけではなく、本家の知名度にフリーライド(ただ乗り)しているような場合にも当てはまり得ます。
また、今回は刑事事件なので、「不正の目的をもって」という主観的要件も必要です。逮捕者4人中1人しか起訴されなかったのは、他の3人についてはこの点の立証が困難であると検察が判断したからかもしれません。
商標権についてはどうでしょうか?炭治郎をはじめとする鬼滅の刃のキャラクターの羽織の地模様)については、集英社により商標登録出願(下図参照)がされていることは過去に書きました。しかし、炭治郎の柄の出願については、「地模様に過ぎず識別性がない」との拒絶理由が通知され、まだ、登録には至っていません(禰豆子の柄についても同様)。したがって、現時点では、これらの柄についての商標権侵害は起こり得ません。
しかし、漢字1文字の「滅」は、集英社により、タオル類等を指定商品として商標登録が行われています。故意の商標権侵害は刑事罰対象なので、「滅」の文字の入ったタオルの販売が商標権侵害に当たる可能性はかなり高いと思いますが、商標権侵害について不起訴になった理由はよくわかりません。
追記:実は、アクセサリ類、かばん・財布類、被服・靴類については集英社より先に個人が「滅」を商標登録してしまっています。そして、冒頭記事の動画では、よく見ると「滅」の文字が書かれているのはタオルではなく財布のようなので、この会社は集英社の商標権を意図的に回避しているのかと一瞬思いましたが、別のニュース動画ではタオルに「滅」の文字を付した商品も販売していたようですので、そういうことではありませんでした。
なお、これらはすべて刑事の話なので、集英社による民事的な権利行使の話はまた別です。
余談ですが、炭治郎(および、禰豆子)の柄の商標登録出願の審査において、出願人は周知性を主張するのではなく、これは連続する地模様ではなく、こういう四角形の図形商標なのであるという主張を行って拒絶理由を回避しようとしています。これが認められれば登録されるかもしれませんが、将来の権利行使の時にどう扱われるのかがちょっと気になります。