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「メメントモリ」の提供差止めを求めてセガが特許権侵害訴訟提起(特許内容解説付き)

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:特許第 5930111 号公報

「セガ、他社運営のゲーム”メメントモリ”に対し特許権侵害で提訴 10億円の損害賠償と差し止め請求」というニュースがありました。バンク・オブ・イノベーション(BOI社)が、セガによる特許権侵害訴訟の訴状を10月21日付けで受理したことをIR情報として公表したというお話です。セガは、BOI社のRPGゲーム「メメントモリ」の提供の差止め、および、「メメントモリ」と「幻獣契約クリプトラクト」での特許発明実施による損害賠償金10億円を求めています(「クリプトラクト」は既にサービス終了しているので差止めする意味はなく過去の侵害行為による損害賠償だけが問題になり得ます)。

訴えた側のセガからは特に発表はありませんが、訴えられた方のBOI社としては、10億円の損害賠償金は、万一全面敗訴となると(後述のようにその可能性は低いと思いますが)企業経営への影響が大きいので、適時開示せざるを得なかったのではないかと思います。

BOI社のリリースに「当該特許権についての実施権の許諾条件を提示され、協議を行ってまいりましたが、当社の見解が原告に受け入れられるには及ばず、訴訟の提起に至った」と書いてあることから、セガがライバルを排除するための訴訟ではなく、特許ライセンス契約を有利に進めるための訴訟(通常であれば水面下で進行するタイプの訴訟)であると思われます。おそらくは、比較的早期に和解で決着することになるのではないでしょうか?

親切にもBOI社のリリースには問題の特許番号が書かれていますので、以下に簡単に解説します。発明の名称については、すべてが「ゲームプログラムおよび情報処理装置」といった形式であり、書いても意味がないので省略しました。なお、実際にはクレームに様々な限定がかかっていますので、「大まかな権利内容」そのまんまで権利行使できるわけではない点にご注意ください。ところで、一般に侵害訴訟関連のリリースでは特許番号を書くパターンと書かないパターンがありますが、IR情報として投資家の判断材料とすることを考えると是非書いておいてほしいものだと思います。

特許第 5930111

出願日:2009年4月28日

大まかな権利内容:カードベースの対戦ゲームにおいて同一のキャラクターが複数存在する場合にパラメーターを対戦に有利になるように調整する。

※2016年に訂正審判が請求されていることから、当時何らかの権利行使に使われている可能性があります。

※ 出願継続中の分割出願が残っていますのでいわゆる「嵌め込み」が可能な状態になっています。原出願はタイトル画像の絵に示すように物理的なカードを使って、大型ディスプレイでサッカーなどのゲームを行う実施例が想定されていました。原出願日が2009年と古いことから現在では自明に近いアイデアが特許化される可能性があります。

特許第 6402953

出願日:2017年7月6日

大まかな権利内容:キャラクター獲得のガチャにおいてガチャプレイ回数が所定数に達する等の条件によりレアキャラクターをゲットできる。

特許第6891987

出願日:2020年2月10日

大まかな権利内容:複数のアイテムやキャラクターを合成する際のUI簡略化に関する発明。

特許第7297361

出願日:2020年2月10日

大まかな権利内容: 複数のアイテムやキャラクターを合成する際のUI簡略化に関する発明。

※前記6891987号の分割です(なお、このファミリーにも審査係属中の分割出願が残っています)。

特許第7411307

出願日:2016年3月9日

大まかな権利内容: キャラクター獲得のガチャにおいてガチャプレイ回数が所定数に達する等の条件によりレアキャラクターをゲットできる。

※前記6402953号の分割出願です(かなり限定が多くなっています)。

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BOI社のリリースには「また、たとえ本訴訟がどのような結果になったとしても、当社は、必要な対策を講じること等により、『メメントモリ』のサービスを継続していく方針です。」と書かれていることから、最悪のケースでも設計変更で(過去の実施に対する損害賠償は免れないとしても)差止めは免れると同社は踏んでいるのではと推測されます。

任天堂対コロプラ、コナミ対サイゲームス、任天堂対パルワールド等々、ゲーム業界の特許権侵害訴訟が続いているような印象がありますが、実際にはライセンス交渉の一環としてもっと多くの訴訟が水面下で進行しているものと思われます(弁理士の業務上知り得た知識をネットで無断公表することはできませんので、あくまでも知らない立場での憶測です)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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