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文大統領「内はコロナ克服、外は朝鮮半島平和」…3.1記念演説で 日本には「共に危機に勝とう」と

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
3.1独立運動記念式典で演説する文在寅大統領。国政放送KTVよりキャプチャ。

1日、韓国政府はソウル市内で3.1独立運動記念式典を行った。文大統領は演説の中で、新型コロナウイルス対策や朝鮮半島情勢、日韓関係などに言及した。

●101周年も、コロナの影響で最小規模に

毎年恒例の記念式典は午前10時に培花(ペファ)女子高で行われた。韓国政府によると、1898年に米国人宣教師により設立された同校は「『3.1独立運動』から一周年を迎えた1920年に、生徒40名あまりが記念行事を開いた歴史的な場所」とのことだ。

一方、韓国では1日午前9時時点で3,526名と、中国に次ぐ新型コロナウイルス(COVID-19、韓国ではコロナ19と表記)感染者が出ている。そのため、式典は参加者100人に満たない最小の規模で開催された。100周年を記念し、盛大な規模だった昨年とは対照的だ。

また、式典の随所にコロナ19の影響が見られた。例えば愛国歌(国家)斉唱の際、背景に流れた映像には、懸命な対応を続けている韓国の医療陣の姿が数カットにわたり映し出された。さらに後述するように、文大統領の演説の少なくない部分をコロナ19への対策が占めた。

式典の冒頭部分で印象的だったのは、3.1独立運動当時の独立宣言文を日本、中国、ロシアなどの東アジア各国出身の人々が、出身地の言語で朗読した部分だった。東アジアの平和への願いを込めた同宣言文の趣旨を汲んだものと見られる。日本からは韓国国籍を取得している保坂祐二・世宗大教授が選ばれ、日本語で一部を朗読した。

殉国先烈への黙然辞は『太白山脈』や『アリラン』などの大河小説で知られる作家・趙廷來(チョ・ジョンレ)氏が直筆の原稿を読み上げた。
殉国先烈への黙然辞は『太白山脈』や『アリラン』などの大河小説で知られる作家・趙廷來(チョ・ジョンレ)氏が直筆の原稿を読み上げた。

●文大統領は演説で「困難克服」を呼びかけ

式典の目玉はやはり、文大統領の演説だった。この日の演説にキーワードは「困難の克服」だった。

演説はまず、「3.1独立運動」の意味を強調する部分から始まった。

「1919年、1年間で実に1,542回にわたり行われたデモで全国でおよそ7,600人が死亡、1万6,000人が怪我を負い、4万6,000人が逮捕・拘禁された」とし、「日帝の弾圧は厳しいものだったが、わが同胞の意気は決してくじけることがなかった」と評価した。

さらに、1920年に現在の中国吉林省・鳳梧洞(ポンオドン)で、抗日独立軍(大韓独立軍)と日本軍の間に行われ独立軍が勝利を収めた「鳳梧洞戦闘」を例に挙げ、それがもたらした「希望」を語った。この下りからは、36年に及ぶ植民地支配の間、負けっぱなしではなかったという意地が読み取れる。

文大統領は続いて「全国民が喜ぶお知らせ」としながら、同戦闘を率いた洪範図(ホン・ボムド)将軍の遺骨が今年、カザフスタンから韓国に戻ってくることを明かした。海外に埋葬された独立有功者の韓国「帰国」は、文政権が重点的に行う事業だ。

文大統領はまた、「数多くの困難を克服してきた」と直接的に語りもした。

この部分では「戦争の廃墟からわれわれは団結して力を育んだ。無償援助と借款に依存していた経済から始まって先端製造業の大国に成長し、ついには情報通信産業の大国へと上り詰めた」と韓国の現代史を総括した。

洪範図(ホン・ボムド、1868〜1943)将軍の写真。1890年代から義兵となり1910年以降は満州で独立軍を組織し闘った。スターリンの強制移住政策によりカザフスタンの地で病没。洪範図記念事業会より。
洪範図(ホン・ボムド、1868〜1943)将軍の写真。1890年代から義兵となり1910年以降は満州で独立軍を組織し闘った。スターリンの強制移住政策によりカザフスタンの地で病没。洪範図記念事業会より。

●「内はコロナ克服、外は朝鮮半島平和」

文大統領はさらに、韓国各地で行われているコロナ19対策にも言及した。

消費の冷え込みを受け、テナントの貸主が借主に対し賃料を下げる「賃料引き下げキャンペーン」の動きを紹介すると共に、大企業による義援金、さらには全国からコロナ感染者が多い大邱(テグ)市に対する医療ボランティアなどの実例を上げ、「大邱・慶尚北道は決して独りでない」と語った。

さらに、政府が2月23日に危機警報を最高段階の「深刻」に引き上げるなど「全力で対応している」と説明し、「『非常経済状況』という認識を持って経済の活力を取り戻すことにも全力を尽くしている」と、国民の最大懸念である経済面に触れた。

また、これに伴い「補正予算を速やかに編成して国会に提出する」とし、「国会でも与野党を問わず対局的に協力してくれることとなった」と、2月28日に文大統領が主要4党代表と面談し合意を取り付けた「成果」を強調した。

式典に参加した各党代表。左から3番目が政府との対立を強めている未来統合党の黄教安(ファン・ギョアン)代表だ。KTVよりキャプチャ。
式典に参加した各党代表。左から3番目が政府との対立を強めている未来統合党の黄教安(ファン・ギョアン)代表だ。KTVよりキャプチャ。

一方で、停滞を続ける朝鮮半島情勢も取り上げた。

「『三・一独立宣言書』でも『互いを理解して共感する統合の精神』を強調している。東アジアの平和と人道主義に向けた努力は、三・一独立運動と臨時政府の精神だ」とし、「北朝鮮はもちろん、隣接している中国と日本、近くの東南アジア諸国との協力を強化してこそ安全保障における非伝統的脅威に対応できる」とした。

なお、ここでの「非伝統的脅威」とは「災害・災難、気候変動、感染病の拡散、国際テロやサイバー犯罪」を指すと文大統領は述べている。

そして、北朝鮮にも二つの呼びかけを行った。

まず「保健分野における共同協力」分野では、「人間と家畜の感染症拡散に南北が共に対応し、接境地域の災害や朝鮮半島における気候変動に共同で対処するとき、われわれ同胞の暮らしはより安全になるはず」とした。

また、「2年前『9.19軍事合意』という歴史的成果を成し遂げた。その合意を順守して多様な分野へと協力を拡大していくとき、朝鮮半島の平和も強固なものになるだろう」との発言もあった。

こうした言及は、南北関係が全てストップしたまま、アフリカ豚コレラやコロナ19の伝染に弱い北朝鮮への人道支援もままならない現状への焦燥感から出ているものと見てよいだろう。

この困難を乗り越えた上で、朝鮮半島の非核化と平和体制への移行という「ビッグディール」についての文大統領の執念も滲ませたかたちだ。

●日本には「常に最も近い隣国」と

注目の日本への言及では「日本は常に最も近い隣国だ。安重根(アン・ジュングン)義士は日本の侵略行為に武力で立ち向かったが、日本に対する敵対を目指したものではなく、共に東洋の平和を実現することが本意であることをしっかり明かした」とし、「3.1独立運動の精神も同じ」と続けた。

さらに、「過去を直視してこそ傷を克服することができ、未来へと進むことができる。過去を忘れることはないが、われわれは過去に留まることもしない。日本もまた、そのような姿勢を見せてくれることを願う」とも語った。

その上で、「歴史を鑑として互いに手をつなぐことが東アジアの平和と繁栄への道だ。共に危機を克服をし、未来志向の協力関係に向けて共に努力していこう」と結んだ。

こうした一連の言及は、前述の「ビッグディール」とも重なる、文在寅政権が17年5月に発足以来一貫して主張し続けてきた「平和と繁栄に向けた東アジアの秩序再編」に発するものだ。朝鮮半島の平和体制への移行もここに位置づけられる。

そしてその際に、どこまでも日本は同じ未来を目指すパートナーであってほしいという、文政権の願いの表れと読める。

会場では過去の独立運動家3人がデジタル化され、発言する映像も写し出された。写真は「文化大国」を目指した民族指導者の金九(キム・グ)。
会場では過去の独立運動家3人がデジタル化され、発言する映像も写し出された。写真は「文化大国」を目指した民族指導者の金九(キム・グ)。

●良い機会の演説

見てきたように演説の論理は、「3.1」に想起される日本による植民地支配や、それに続く朝鮮戦争といった困難を、コロナ19や南北関係停滞をはじめとする現状に重ね合わせ、団結して乗り越えていこうというものだった。

韓国ではコロナ19が蔓延する中でも、4月の総選挙を控え左右両陣営が激しく争っている。

このためか、団結や和合をアピールするために、式典では李承晩、朴正熙といった保守派大統領が和合を呼びかける映像が流された。この場面を生中継で見た市民も多いだろう(なお、裁判が続く李明博・朴槿恵両大統領の映像はなかった)。

文大統領は演説の最後で、「抑圧をはねのけて希望として復活した三・一独立運動の精神が、この100年間、われわれに新しい時代を切り開く力になってきたように、われわれは必ず『新型コロナウイルス』に打ち勝ちわが国経済をより活気に満ちたものに回復させるだろう」と述べた。

この部分からは正直、少なくない「こじつけ感」を感じたが、コロナ19に連日悩まされる韓国社会にとっては、図らずも大統領の決意を聞くよい機会になったのではないだろうか。

1952年3月1日、朝鮮戦争のさなか、臨時首都の釜山で行われた3.1独立運動記念式典の様子。KTVをキャプチャ。
1952年3月1日、朝鮮戦争のさなか、臨時首都の釜山で行われた3.1独立運動記念式典の様子。KTVをキャプチャ。

【追記】なお今年より、韓国政府が演説翻訳文を配布しているため、筆者による翻訳はやめました。翻訳全文はこちらからどうぞ(聯合ニュース外部リンク)。

https://jp.yna.co.kr/view/AJP20200301000400882

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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