国連演説・もう一つのノーベル賞の16歳グレタさん、ソーシャル時代の手際―米EU右派の相次ぐ批判に反論
国連気候行動サミットでの演説で国際的な注目を集め、「もう一つのノーベル賞」と呼ばれるライト・ライブリフッド賞を受賞した16歳のスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん。
その一方で、ネット上などでは、グレタさんに対する右派などからの批判が根強く続いている。
今回のグレタさんの国連演説をめぐっては、これまでも気候変動への否定的な態度を明確にしてきたトランプ大統領が、皮肉めいたツイートを投稿。
保守派のコメンテーターやトランプ政権の元側近らも、「毛沢東主義」「洗脳」「ナチス」などの言葉を使って、ネットなどでグレタさんへの攻撃を行っている。
これらの批判は国連総会があった米国だけのことではない。
緑の党が躍進した5月の欧州議会選挙では、その立役者として「グレタ効果」という言葉もメディアで取り上げられるなど、グレタさんはすでに政治的な存在感も持っている。
そしてその存在感から、ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」やフランスの右派政党、マリーヌ・ルペン氏率いる「国民連合」、英国のEU離脱派などからも、攻撃の対象となってきた。
ただ、グレタさんは批判に自覚的で、「私への攻撃は、気候危機から目をそらすためのもの」との主張で一貫している。
国連演説で注目されたキーワード「HowDareYou(よくもそんなことを)」をすぐさまハッシュタグとしてツイートに取り込んだり、トランプ氏の皮肉も、「トランプ流」を逆手にとってツイッターで素早く反応。
国連演説をめぐる批判にも連続ツイートで反論するなど、ソーシャルメディア時代の活動家としての手際のよさも見せている。
●トランプ支持派の攻撃
グレタ・トゥンベリのこのパフォーマンスは、毛沢東主義者の“再教育”収容所の被害者のことを不気味なほど思い出させる。
トランプ政権で国家安全保障担当の大統領副補佐官を務めたセバスチャン・ゴルカ氏は23日、グレタさんの国連演説について、中国の文化大革命時代の「再教育収容所」になぞらえて、こんなツイートをしている。
ゴルカ氏は、これに続いてこうツイートしている。「この自閉症の子どもを洗脳した大人たちは児童虐待の罪に問われるべきだ」
グレタさんは、自身が広義の自閉症に含まれる「アスペルガー症候群」と診断されていることを明らかにしており、ツイッターの自己紹介も「アスペルガーの16歳の環境活動家」としていた。
ゴルカ氏が「自閉症の子ども」と述べているのは、そのことを指しているとみられる。
同じような攻撃は、保守派のコメンテーター、マイケル・ノウルズ氏も行っている。
ノウルズ氏はFOXニュースの番組に出演し、グレタさんについて「精神的に病んだスウェーデン人の子」と発言。
これに対してFOXニュースは「不見識」な発言だったとして謝罪。今後、同氏を出演させる予定はない、としている。
また、保守派の論客で映画監督のディネシュ・ドゥスーザ氏は、グレタさんの編み込んだお下げの髪型を指して、「ナチスのプロパガンダ」という言葉を使ってツイートした。
子ども、特に髪を編み込んだ赤い頬の北欧の白人少女は、ナチスのプロパガンダによく使われていた。(ナチスの宣伝相)ゲッペルスのいにしえの手法だ!
ドゥスーザ氏のツイートは、グレタさんとナチスのカギ十字の旗を持った少女の絵を並べて表示した。
FOXニュースのパーソナリティ、ローラ・イングラム氏はグレタさんら若者の気候変動に対する行動について、「左派の気候カルト」と題して取り上げた。
そして、国連気候行動サミットの会場に短時間だけ姿を見せたトランプ大統領も、各国首脳を厳しい表情で批判するグレタさんについて、皮肉めいたツイートをした。
輝かしく素晴らしい未来を心待ちにするとても幸せそうな少女だった。会えてよかった!
●欧州議会選挙で「グレタ効果」
グレタさんが環境保護の活動を始めるようになったのは2018年。気候変動への行動を求める学校ストライキ「#FridaysForFuture(未来のための金曜日)」がソーシャルメディアを通じて広がる。
そして、2018年12月の国連気候変動会議(COP24)や、2019年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)でスピーチを行ったことなどで、世界的な関心の的となる。
9月20日に行われた「未来のための金曜日」のストライキは、世界で若者ら400万人以上が参加したという。
影響は若者たちの行動にとどまらない。
5月の欧州議会選挙では、環境保護を掲げる緑の党を含む会派「欧州緑グループ/欧州自由同盟」が選挙前から23議席増の73議席へと躍進を見せ、議会内の第4勢力となった。
この躍進を後押ししたのが、グレタさんら若者の連携の広がりだったという。
そして、この「グレタ効果」は、他の政治勢力も無視できないものになっていたようだ。
●独仏保守派、英EU離脱派からの攻撃
ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、5月に行われた欧州議会選挙の期間中から、グレタさんらを標的に、フェイスブックページなどで「CO2カルト」「気候変動パニック」「気候洗脳」などの表現で批判を行っていた、という。
さらに欧州議会選挙後の7月、グレタさんがフランス議会で演説した際にも、右派勢力は批判を展開する。
マリーヌ・ルペン氏が率いる「国民連合」の議員らは、グレタさんを「気候変動のジャンヌ・ダルク」「エコロジーのジャスティン・ビーバー」「ショートパンツの預言者」などと批判していたという。
グレタさんは8月、今回の国連演説などのため、英国から米ニューヨークまで、2週間がかりの太西洋横断のヨット航海に出た。
この際、英国のEU離脱派の資金源で、ブレグジット党党首のナイジェル・ファラージ氏との関係でも知られるアーロン・バンクス氏は8月、「8月は不慮のヨット事故が起こったりする...」とグレタさんの大西洋横断についてツイートしている。
●ソーシャル時代の手際
グレタさんはインスタグラムで560万人、ツイッターで218万人、フェイスブックで200万人近いフォロワーを持つなど、ソーシャルメディアでの存在感が大きい。
そのメッセージも、「科学を支えるための団結を」などソーシャルメディアに広がりやすい、シンプルでわかりやすい内容だ。
そして、批判への対応も自覚的で明快だ。今年2月のフェイスブックへの投稿では、自身をめぐるうわさやヘイトスピーチについて、こう反論している。
多くの人々がうわさを拡散したがる。“私の後ろにいる”人々が存在するとか、私のやっていることに“金が出ている”とか“利用されている”とか。しかし、私以外、私の“後ろ”になど誰もいない。
(中略)
私の診断結果について、あざける人々もいる。しかし、アスペルガーは病気ではない、才能(ギフト)だ。
7月、フランス議会でのグレタさんの演説に、右派議員が欠席したことについては、こう述べている。
私たちはみな、ただの子どもだ。みなさんが耳を傾ける必要はない。だが、科学者たちの話には耳を傾ける必要がある。それが、私たちが言いたいことのすべてだ。
さらに、8月には批判勢力について、こうも述べている。
彼らは気候危機から私へと目をそらさせるために、できることはすべてやっているんです。
今回の国連演説では、「HowDareYou(よくもそんなことを)」というフレーズを4度も繰り返し、キーワードとして印象付けた。
それをハッシュタグ「#HowDareYou」にして、インスタグラム、ツイッター、フェイスブックなどで拡散させている。
さらに、トランプ大統領の皮肉まじりの「幸せな少女」ツイートにも、即座に対応。
「アスペルガーの16歳の気候活動家」としていた自身のツイッターのプロフィールを、トランプ大統領のツイートそのままに「輝かしく素晴らしい未来を心待ちにするとても幸せな少女」と書き換えている。
相手の批判の言葉を逆手にとって批判を打ち返す手法は、トランプ大統領こそが得意としてきたものだ。
トランプ支持派による虚偽情報の拡散に向けられた「フェイクニュース」という批判を、逆にメディア批判に流用したのがその典型だ。
まさにその「トランプ流」の手法を逆手にとって、トランプ氏本人にタイミングよく打ち返す。
今回の国連演説への批判にも、連続ツイートで反論している。
なぜ大人たちが、科学を広めている10代の子どもたちに対して、あざけったり、脅したりすることに時間を費やそうとするのか、本当に理解できない。もっとほかにいい時間の使い方があるのに。おそらく、私たちのことをとても脅威に感じている、というだけのことなのでしょう。
ソーシャル時代に合った、手際のよさだ。
追記:グレタさんは「幸せな少女」としたツイッターのプロフィールを、米国時間の9月25日夕までには改めて「アスペルガーの16歳の気候・環境活動家」としている。鉾の納め方も、やはり手際がいい。
(※2019年9月25日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)