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連ドラ初主演女優たちの「仕事ドラマ」が始まった!

碓井広義メディア文化評論家

“仕事ドラマ”の秀作「重版出来!」(TBS系)が終わったと思ったら、同じく20代の働く女性を主人公にした、2本のドラマがスタートしました。しかも、両方とも「連ドラ初主演」のトライアル。さらに、なぜか「水(みず)」という共通項もあります。果たして、夏ドラマへの“呼び水”となるか。

●NHKドラマ10「水族館ガール」

タイトルがストレートに仕事場を指す、「水族館ガール」(NHK)が始まりました。主人公の由香(松岡茉優)は商社に入って3年目のOL。上司(木下ほうか)から「使えないヤツ」の烙印を押され、傘下の水族館へと出向となります。

水族館といえば、「お魚好きにはたまらない職場なんだろうなあ」くらいに思っていた由香ですが、どっこい、24時間全力で生きものたちの命を守る、大変な仕事だとわかってくるんですね。とはいえ、担当することになったイルカとのコミュニケーションも難しく、厳しいチーフ(桐谷健太)や先輩(西田尚美)などから叱られ続ける毎日です。

商社を追われ、水族館にも簡単に溶け込めないヒロイン。このドラマ、いわば自分の「居場所」探しの物語だといえます。それは単に生活の糧を得る職場という意味ではなく、自分が自分であることを実感できるような「場」です。

もしかしたら主演の松岡さんにとっても、今回は、女優としての自分の「居場所」を確立するための試金石となるのではないでしょうか。松岡さんは、民放の深夜ドラマでは経験済みですが、NHKの連ドラ(しかもプライムタイム)では初主演。どんなドラマでも存在感を放つ女優から、本格的主演女優へのトライだと思います。

初回冒頭が、舛添家ご用達「龍宮城ホテル三日月」、じゃなくて「ホテル龍宮城」なるラブホテルの場面だったのが笑えました。しかもスマホのCMで浦島太郎を演じている桐谷さんまで出ているではありませんか。いやあ、NHKもやるもんだ。

●TBS系「OLですが、キャバ嬢はじめました」

「水族館ガール」からの“水つながり”ってわけじゃないのですが、深夜ドラマ「OLですが、キャバ嬢はじめました」(TBS系)もスタートしました。

主人公の菜奈子(倉持明日香)は25歳。中規模の広告代理店に勤務するOLさんです。彼氏はいますが、貯金はありません。料金滞納で電気を止められたことをきっかけに、いきなり夜はキャバ嬢として働くことにしちゃいます。

キャバクラが舞台のドラマといえば、過去には「嬢王」シリーズ(テレビ東京系)や「黒服物語」(テレビ朝日系)などがありました。そこでは、ヒロインの多くがナンバーワンのキャバ嬢を目指したものですが、このドラマでは、タイトル通りOLの副業というところがミソです。

いわば“なんちゃってキャバ嬢”ですから、どろどろの女同士の対決や深刻な恋愛問題もありません。笑って見られるキャバ嬢物語です。

元AKB48の倉持さんは、連ドラどころか、これがドラマ初主演。キャバ嬢としては「ダサくて、イモっぽい」菜奈子を好演しています。今後、菜奈子が、見た目も接客も磨かれていくプロセスこそが、このドラマの見所となります。

また視聴者は、新人である菜奈子の“学び”を通じて、キャバクラ(ニュークラブ)の基礎知識から内部事情まで、その世界を垣間見ることができます。キャバクラは、ママがいないことをはじめ、指名や給料のシステムもいわゆるクラブとは大違いなのですが、オトナの社会見学と考えて視聴してみるのも一興でしょう。

もうひとつ。このドラマには「神セブン」と呼ばれる、売上げ上位のキャバ嬢たちが登場します。ナンバーワン・キャバ嬢役の石川梨華さん(元モーニング娘。)や、グラビアでお馴染みの筧美和子さんなどの艶(あで)姿を堪能できるのも、“お水系”仕事ドラマならではの醍醐味です。

<追伸>

7月3日(日)放送の「TBSレビュー」で、ドラマ「重版出来!」について、話をさせていただく予定です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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