大人の教養として知っておきたい「現代の名工」とは? 塩の名手と認められた料理人はいったい誰?
「現代の名工」とは
「現代の名工」は毎年11月に決定され、東京都内で表彰式が行われます。2021年は11月5日に決定し、8日に表彰式が行われたので、まだ記憶に新しい方が多いのではないでしょうか。
・令和3年度 卓越した技能者(現代の名工)を決定(厚生労働省)
「現代の名工」とは1967年に創設された「卓越した技能者」のことであり、優れた技術や能力を有し、その道の第一人者と目されています。
具体的な要件は次の通り。
「現代の名工」を表彰することによって、広く社会一般に技能尊重の気風を浸透させ、技能者の地位や技能水準の向上を図るとともに、青少年が誇りと希望を持って技能労働者となり、職業に精進する気運を高めることを目的としています。
食分野でも表彰
全部で20部門に分かれており、「金属材料製造の職業」や「電気機械器具組立・修理及び電気作業関係の職業」から「衣服の職業」や「広告美術工、製図工、包装工等の職業」と実に幅広いです。
この中にはもちろん食の関連もあり、「食料品製造の職業等」「飲食物調理及び接客サービスの職業」が該当します。前者は和菓子職人やパティシエなどが、後者は料理人からソムリエやバーテンダー、サービススタッフなどが対象です。
「現代の名工」として表彰されるのは全部で約150人しかいません。これだけ多くの部門があるので、食の分野で表彰されるのもごく一握りの方だけです。
2021年に「飲食物調理及び接客サービスの職業」で表彰されたのは17人でした。
日本料理調理人5人、天ぷら料理人1人、西洋料理調理人6人、中華料理調理人2人、支配人1人、バーテンダー1人、ソムリエ1人といった内訳となっています。
The Okura Tokyoの陳龍誠氏
偉大な17人の中でも、今回紹介したいのが、The Okura Tokyoの中国料理「桃花林」総料理長を務める陳龍誠氏。
以下のように技能と功績を高く評価された料理人です。
1983年に大成観光(現ホテルオークラ)へ入社し、海外でも活躍し、2009年からはホテルオークラ東京の中国調理総料理長を務めるなど、オークラにおける中国料理の伝統を守り、進化させてきました。
受賞歴も華々しく、2014年に調理師関係功労者厚生労働大臣表彰、2017年には東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞を受賞しています。
「現代の名工」となった陳氏の代表的な料理を紹介していきましょう。
広東風 鯛の刺し身
タイの刺し身を広東風に仕上げた冷菜。細切りしたニンジンやキュウリに揚げワンタン、カシューナッツと食味と食感も様々です。醤油、ピーナッツオイル、砂糖でつくられたタレが添えられているので、好みで付けます。
ふかひれの姿煮込み 白湯仕立て
立派なヨシキリザメの尾ビレの姿煮込み。白湯スープが濃厚で味わい深いです。ラディッシュ、白菜、キャビアを載せ、スダチを添えているのはモダンなところ。スダチを軽く絞ると、その酸味がスープの甘味を引き立てます。
鴨の丸揚げ
カモに塩を塗って一晩寝かせてから翌日に蒸し、冷やしてから揚げるという手間のかかる工程を経ています。水分を残して揚げてあるので、とてもやわらかいです。塩だけの味付けなので、カモの繊細な味わいも感じられます。
大海老の水晶煮
大きなクマエビを用いた水晶煮。煮てから強火で揚げているので、美しい透明の色合いに。醤油や砂糖は用いず、塩だけで味付けしました。エビの甘味と滋味が味わえます。
和牛の黒胡椒炒め
味付けは黒胡椒と塩だけ。お酢を入れて強火で酸味を飛ばしてあるので、香ばしい風味だけが残されています。和牛の脂には、黒胡椒と塩の相性が抜群。セロリと長ネギの香味もよいアクセントに。
鶏肉細切り 葱入りつゆそば
鶏の出汁と塩で、スープが繊細でとても上品。細切りの鶏肉と白髪ネギのコンビネーションです。
陳氏へのインタビュー
シンプルながらも奥深い塩味の世界を表現した陳氏の料理を紹介しました。このような素晴らしい料理を創造し、「現代の名工」とまでなった陳氏はどのような人物なのでしょうか。陳氏へのインタビューを紹介します。
Q:「現代の名工」に表彰されてどのようなお気持ちですか?
陳氏:よく努力の賜物という方がいらっしゃいますが、自分で選んだ道で毎日楽しく仕事をしてきました。その上でこのような賞をいただけて恐縮しています。
Q:どういった点が表彰に至ったとお考えですか?
陳氏:料理はひとりの力でできるものではありません。調理場に集ったチーム全員が力を合わせてできあがるものです。このチーム力が成せたものだと、手前味噌ながら感じており、スタッフには本当に感謝しています。
Q:受賞に関して、周りの方の反応はいかがですか?
陳氏:お会いする皆様にお祝いの言葉をかけていただきました。栄誉ある冠が付いたことで、今後より一層の努力をして、一生勉強しなければと身が引き締まる思いです。
Q:これから目指すものはありますか?
陳氏:古くから伝わる料理の原理・原則を大事にしながらも、伝統を守るために、新しいことにチャレンジして革新していきたいですね。
塩がベースの広東料理
「桃花林」は1962年にホテルオークラ東京が開業したのと同時にオープンした本格的な広東料理店。日本初のホテル直営による広東料理レストランとして、食通たちに愛されてきました。
400種類を超えるアラカルトを有しており、その食味のバリエーションは非常に豊か。多様な味わいがありますが、広東料理でベースとなるのは、あくまでも塩です。人類最古の調味料である塩は食味の中で最も重要な要素であり、使い方はどの料理においても非常に難しく、広東料理であればなおさらのこと。
それだけに「現代の名工」で「中国・広東料理における塩の調味技能に長け」ていると評された陳氏の広東料理を是非とも体験し、多くの方に未知なる塩の世界を体験していただきたいです。