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毎日50段超階段を昇るだけで血管が健康に。46万人を10年以上観察【最新医学論文】  

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

血管の健康を守る「血管内皮」

「人は血管とともに老いる」という言葉を聞いたことはありませんか?これは米国医学教育の祖であり偉大な内科医でもあったウィリアム・オスカー先生の言葉です。血管は体内の隅々まで血液を介して栄養と酸素を運び、同時に二酸化炭素のような不要物を回収しています。そんな大切な役割を担っている血管も歳をとると機能が落ちて不健康になる、オスラー先生はそれを一言で説明されたわけです。

さて血管が健康でいるためのキープレーヤーが、「血管内皮」と呼ばれる一番内側(血液と触れる)の層です。血液が血管の中で固まらずにサラサラと流れるのは血管内皮が一酸化窒素という物質を分泌してくれているおかげ。また血管の壁の中にコレステロールなどが侵入しないよう身体を張ってバリアになってくれているのも血管内皮なのです。健気でしょ。

体内の血管内皮を広げるとテニスコート6面分の面積に

そして広島大学の東 幸仁教授によれば、全身の血管を取り出して切り広げるとテニスコート6面分もの面積になるそうです。驚くほどの広さではありませんか?この巨大臓器の働きが、何も手を打たなければ加齢ともに低下するのです。さらに高血圧や高コレステロール血症、糖尿病を放置したりタバコを吸ったりするとさらに、この血管内皮が痛めつけられるのです。想像してみてください、自分の体の「テニスコート6面分」が体内で傷害されているところを。痛みこそありませんが、ゾッとしませんか。

万国著作権条約に則り引用
万国著作権条約に則り引用

適度な血流で血管内皮は回復

逆に「適度な血流の増加」はこの「血管内皮」を健康にします。「血液にやさしく撫でられて癒されている」というイメージでしょうか?「生活習慣病に運動が良い」と言われるのはこれが一つの理由です。高血圧などで傷んだ内皮を運動による血流の増加で回復させてあげるのです。

さて前振りが長くなりました。ここからが本題です。「1日に階段を50段を超えて昇るだけで血管が健康になる」可能性が明らかになりました。「動脈硬化」という欧州動脈硬化学会が出している学術誌に9月15日、中国・北京大学のジミン・ソン氏たちが報告した論文で明らかになりました [文末文献1] 。簡単にご紹介しましょう。

1日50段超の階段昇りで心筋梗塞・脳梗塞を減らせる

今回ソン氏たちが解析したのは英国のデータです。血管の病気を認めない(血管が健康な)46万人弱の「1日に階段を使う回数」とその後およそ12年間にわたる血管が詰まって引き起こされる病気(心筋梗塞と脳梗塞)を起こす危険性との関係を調べました。

心筋梗塞:ポンプとしての心臓の壁に酸素と栄養を供給している血管(冠動脈)が健康を損ね、その結果、血液が血管内で凝固。その先で血液を受け取れなくなった心臓の壁(の細胞)は死んでしまう。これが心筋梗塞。同じことが脳で起これば「脳梗塞」。なお「脳卒中」は「脳梗塞」に脳の血管が破れる「脳出血」を加えたもの。


すると1日階段を「6〜10回昇る」と「まったく昇らない」に比べ「心筋梗塞・脳梗塞」が起きるリスクは相対的に7〜14%減少していました。ただ残念ながら「1〜5回は昇る」だけでは、リスクは減っていませんでした。一方、1日に「11〜15回昇る」とリスク減少率はさらに「10〜22%」まで大きくなっていました。

この結果は「階段」以外の要因(年齢や喫煙、身体活動の活発性、高血圧などの疾患による影響など)を統計学的に取り除いた数字です。したがって「階段を昇る回数」そのものが「心筋梗塞・脳梗塞」のリスクに与える影響を見ているとソン氏たちは考えています。

その上で同氏たちは英国の階段1階分がおよそ10段と見積もり、「1日に50段を超える階段を昇れば心筋梗塞や脳梗塞の危険性を減らせる」と結論しています。

決して不可能な数字ではない

いかがでしたか?「1日50段超は無理」と思うかもしれません。でも駅の階段や街の歩道橋をうまく使えば想像以上に簡単に達成できる歩数です。最初はつらいかもしれませんがすぐに慣れます(体験談)。その結果、体内の「テニスコート6面分」が健康になると考えれば楽勝でしょう。ぜひ今日から試してみてください!

運動と健康については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、お読みください。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 1日5回を超す階段昇りで心筋梗塞・脳梗塞のリスクが低下 [英語、全文無料]

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【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(いずれも筆名)。

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