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GLP-1ダイエットで骨が脆弱に?骨新生に変化。骨の「溶け出す」割合が増加【最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

GLP-1ダイエットは果たして「健康的」か?

ウェブ上では「メディカル・ダイエット」や「GLP-1ダイエット」などの名前で提供されているGLP-1受容体作動薬。本来は「2型糖尿病」や「肥満症」という病気(単なる「肥満」とは別物)の治療に使われるはずの治療薬が、美容痩身目的で濫用されているのです(その結果、本当に必要な患者さんの手に渡らない事態も生じています)。

そのようなダイエットではGLP-1受容体作動薬を、苦労することなく食欲が抑えられ、簡単に体重が落ちる、まさに「夢」のような薬だと説明しているようです。

しかし法律上は「劇薬」に分類されるこの薬、良いところ尽くめのはずがありません。事実、専門家の間でもいくつか安全性に対する疑問が出ています。

その一つが「健康に痩せられるのか」という問いです。

痩せたは良いけど、それで「虚弱」になってしまっては寿命を縮めるだけ。

この薬を使った減量の結果、日常生活に必要な筋肉量は保たれるのかどうかなど、まだ結論は出ていない問題はいくつもあります(なお、虚弱になるという証拠もありません)。

そんな中、GLP-1受容体作動薬で骨の密度が下がる(骨スカスカに向かう)という驚きの論文が、5月3日、臨床医学では学術誌四天王の一つである「ランセット」の兄弟誌に載りました。

原因としては「骨の生まれ変わりサイクル」(骨代謝)に異常が生じるようなのです [文末文献1] 。

簡単にご紹介します。

GLP-1受容体作動薬を使うと「骨密度」が低下した。

この論文を書いたのは、オーデンセ大学病院(デンマーク)のモーテン・S.ハンセン氏たち。

骨折リスクの高い人たち64人をGLP-1受容体作動薬を使う群と偽薬(見た目は比較する薬と同一だが薬効成分は入っていない)を使う群に、くじ引きで分け、52週間観察しました。

すると体重は、GLP-1受容体を使った群でやはり、偽薬群に比べ減っていました。

偽薬群が試験前の77 kgからほどんど変わらなかったのに対し、GLP-1受容体作動薬群では6kgも減っていたのです。

でも、良いことばかりではありません。

「腰」と「股関節」の骨密度がGLP-1受容体作動薬群でだけ、減っていたのです。「骨が脆くなっていた」と言い換えても良いでしょう。

骨が溶け出る「再吸収」が増加

なぜ、そのようなことが起きたのでしょう?

ハンセン氏たちがさらに調べると興味深い事実が明らかになりました。

GLP-1受容体作動薬群では「骨の生まれ変わりサイクル」に変化が生じていたのです。簡単に説明させてください。

骨は新しさを保つため、常に生まれ変わっています(骨新生)。古くなった部分は血液中に溶け出し(体に戻るので「再吸収」と呼ばれています)、同時にそこにまた新たな骨が作られていくのです(骨形成)。

このバランスが取れていれば、溶け出した分だけ新たな骨が作られ、骨の密度は一定に保たれます。

  「イラストAC」 KOKEMOMO氏作成
「イラストAC」 KOKEMOMO氏作成

しかしハンセン氏たちが調べたところ、GLP-1受容体作動薬を使った人たちでは、骨が溶け出す「再吸収」が、偽薬の人たちに比べ増加していました。一方、「骨形成」は同等でした。

つまり骨が新たに作られる以上に溶け出し、その結果、骨の密度が低下したと考えられたのです。

運動すれば大丈夫

でもご安心ください。

GLP-1受容体作動薬使用に伴う骨密度低下は、45分間の有酸素運動を週2回すれば避けられることが、別の臨床試験で明らかになりました [文末文献2] 。

結局、「健康に痩せよう」と思ったら運動は欠かせないということでしょうか。

まとめ

いかがでしたか?

GLP-1ダイエットは楽に痩せられるかもしれませんが、運動をしないと骨が脆くなってしまうかもしれないという論文のご紹介でした。

「骨」については以下の論文研究記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. GLP-1受容体作動薬は体重を下げるが骨密度も減らす。背景に骨代謝の変化。
  2. GLP-1受容体作動薬による骨密度低下は週2回の45分間有酸素運動で防げる。

本記事は医学論文の紹介です。データの解釈は論者により異なる場合もあります。またこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性も皆無ではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(含筆名)。

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