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日本林業を救うか。家具輸出額が急伸した理由

田中淳夫森林ジャーナリスト
世界的なデザイン賞iFデザインアワードを受賞したFILの椅子(穴井俊輔氏提供)

 世界3大デザイン賞の一つ、iFデザインアワード。工業デザインに与えられるもっとも権威のある賞だが、2022年に日本の株式会社Forequeの木製家具「FIL」が受賞した。世界的なデザイン賞を日本の家具が受賞するのは珍しい。

 会社は熊本県南小国町にあり、立ち上げてまだ7年。空間デザイナーの木下陽介氏が手がけ、家具というより空間の一部としての椅子とテーブルのデザインをしたという。

 さっそく全国どころか海外からも問い合わせが寄せられているそうだが、生産が追いつかないという。

 広島の洋風家具会社のマルニ木工が手がける「HIROSHIMA」シリーズも、約30カ国で販売されて日本を代表する家具として知られるようになった。シンガポールのラッフルズホテルで使われ、アップルの本社にも数千脚の椅子が採用された。

 この会社は、創業から100年近くの老舗だが、輸出用の高級家具に挑戦し始めたのは2000年代に入ってから。苦心惨憺しつつ見事に成功させた。現在は海外販路を開拓するためのブランディング会社まで立ち上げている。

 佐賀県諸富町の2つの家具メーカー・レグナテックと平田椅子製作所も家具ブランド「ARIAKE」を発表して海外輸出に力を入れている。ヨーロッパ、北米、オーストラリアなどで広く販売されている。すでに日本よりも海外で多く流通しているという。

 このところ日本の家具が世界的に注目を浴び始めている。国内よりも海外輸出が伸びてきたのだ。

 具体的には、日本の林産物輸出額統計のグラフを見ていただきたい。右肩上がりに見えるが、これまで肝心の輸出産品のほとんどが丸太だった。それも安価なB材C材が多い。使い道は、土木資材や梱包材向きだ。いくら量は捌けても肝心の利益は小さく、山には還元されない。

 ところが2020年に家具が突然40億円カウントされるようになり、22年は69億円。輸出額全体の11%を占めるまでに急成長した。(19年までは木製家具を林産物に含めていなかったため統計に出ない。10年の家具輸出額は約15億円だったから、12年間で4.6倍になったことになる。)

 日本の木製家具と言われても、あまりイメージが浮かばない人も多いだろう。日本製と思っていたら中国やベトナムで生産されていたケースも少なくない。高級な木製家具となると、むしろ欧米からの輸入品のイメージがあるのではないか。

 だが、今後は高級木製家具が林産物輸出のメインアイテムとして、外貨を稼ぐようになるかもしれない。

 これまでの日本の林業・林産物需要の構造を見ると、もっとも利益率の高い住宅建材である製材需要が縮む一方で、合板やバイオマス燃料といった安価な需要ばかりが膨らんでいる。

 そこで政府は、新たな木材需要として木造のオフィスビルの建設を推すほか、輸出にも力を入れてきた。だが思うように非住宅木造建築物は増えず、輸出されるのも加工度が低く安い丸太中心。

 これでは山に利益が還元されず、林業はいよいよ疲弊していく。国産材を輸出するなら利益率の高い加工品を増やすべきだ。だが、製材輸出はなかなか伸びなかった。

 そんな状態から、なぜ高級木製家具の輸出が伸びたのか

 まず知っていただきたいのは、日本は伝統的に木工王国であったことだ。森林資源が豊富で、宮大工のような木材加工技術も発展し受け継がれていたからだ。また日本刀の生産で培った優秀な刃物もあった。(それを支えたのが、世界で類まれなる砥石なのだが、それはまた別の話。)

刀剣女子を縁の下で支え、日本を木工王国にしたのは世界でも稀なる砥石だった

 しかし、日本の家具は品質的には優れていても、欧米の高級家具のようなブランド力がない。デザインも認められてこなかった。そのため欧米の最上級ブランドの価格帯と比べると、一つ下のランク扱いだった。

 だが人口減や所得の減少で国内の高級家具市場が縮む中、海外に活路を見出すメーカーが現れた。それらが冒頭の事例だが、デザインも洗練されて欧米家具に見劣りしなくなった。そして海外のデザイン・コンペに出展し続けて受賞するなどの努力もあった。

 皮肉だが、行政が輸出産品としての高級家具に注目しない中で、民間独自の努力が実を結んだと言えるだろう。

 とはいえ、家具に消費される木材の量はわずか。しかも日本の木製家具だと言っても、肝心の素材が国産材とは限らない。家具によく使われるのは広葉樹材だが、日本の広葉樹材は「雑木」扱いされていて、安定供給が難しい。そのため外材に頼りがちである。

 しかし、近年は海外でも広葉樹材(ハードウッド)資源は枯渇しつつあり、ウォールナットやチークなど伐採禁止や輸出禁止の動きが広がっている。

 これからは国産広葉樹材の供給にも力を入れるとともに、スギやヒノキによる家具生産も課題となるだろう。家具の魅力で素材の価値も上げて行かねばならない。

 冒頭のFILの家具や木工品は、地元の小国杉を使っている。

 もともと「FIL」は、家具専門ブランドとして立ち上げたのではなく、南小国町をインテリア・ライフスタイルで盛り上げる戦略の一環なのだ。そのため小国杉を使わずに家具をつくるという選択肢はなかったという。

 だから家具のほかにスギやヒノキのエッセンシャルオイル、食器などの木工品も製造しているし、ファブラボ(ものづくりの貸し工房)まで開いている。なお穴井俊輔社長は、地元の穴井木材工場の3代目で、農業や林業も行ううえ、今年5月からカフェ「竹の熊」の経営も始めた。

喫茶「竹の熊」。小国杉がふんだんに使われた空間を演出している(筆者撮影)
喫茶「竹の熊」。小国杉がふんだんに使われた空間を演出している(筆者撮影)

 だから地元の資源・産品を活かして、町のブランド価値を上げていく戦略をとる。林業と一体とした家具・木工なのだという。

 こうした動きが日本の林業界にも希望のある話となることに期待したい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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