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寝屋川事件・山田死刑囚の確定後の手記と、この1年間の死刑をめぐる状況について思う

篠田博之月刊『創』編集長
山田死刑囚からの前回の手紙(筆者撮影)

 2020年12月30日、寝屋川中学生殺害事件・山田浩二死刑囚が15日付で書いた手記が手元に届いた。11月26日、大阪高裁の決定により二度目の控訴取り下げが有効とされ、死刑が確定した、あの山田死刑囚だ。

 そこに書かれた本人の説明によると、12月1日に弁護士が接見、その時はまだ未決囚の処遇だという話をしたのだが、ちょうどその日の午後、拘置所側から説明を受け、死刑確定者の処遇になることを宣告されたという。その後、死刑確定者の居房に移されるなど、いろいろな変化もあったという。

 ちなみに前回ヤフーニュースに書いたように、彼は秋に獄中結婚をしたために姓が変わっている。しかし、ここではややこしくならないように当面、山田死刑囚と、これまでの呼び方を続けることにする。前回の記事は下記をご覧いただきたい。

寝屋川事件・山田浩二死刑囚の二度目の死刑確定と獄中結婚を伝える手紙

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20201202-00210660/

死刑確定により家族と弁護人以外接見が禁止に

 死刑が確定して一番大きな変化は、家族と弁護人以外は接見禁止となり、外部との関わりを遮断されることだ。死刑確定とは、法的には半年以内に死刑が執行されるということを意味する。実際にはそうすぐに執行とはならないのだが、控訴を取り下げて死刑を確定させた者の場合は、執行時期が早いから、山田死刑囚も、いつ執行されても不思議ではない立場に置かれたことになる。

 だから今回のように死刑確定者から近況を書いたものが外部に伝えられるのは、そう多いことではない。これまで月刊『創』(つくる)では、宮崎勤死刑囚の手記は、死刑確定後も掲載し続けたし、秋葉原事件の加藤智大死刑囚の手記も雑誌に掲載している。工夫をすれば死刑確定者の手記が掲載されることもないわけではないのだ。

 今回の山田死刑囚の近況手記も、なるべく早い時期に紹介しようと思う。『創』2月号はもう校了してしまったので、恐らくこのヤフーニュースでということになると思う。

2020年は9年ぶりに死刑執行がなかったという報道

 さて、その同じ日に、新聞が、2020年は死刑執行がなかった、これは9年ぶりだというニュースを報じている。民主党政権以来という。民主党政権下で法務大臣に就任したのは、もともと死刑制度に反対していた議員だったりしたから、そこでの執行停止は意味があったのだが、2020年はどうなのだろう。恐らくコロナ禍で手続き上執行ができなかったとか、そういう理由ではないだろうか。だから、死刑執行がなかったことにそう大きな意味はないように思える。

 それよりもこの1年、印象に残ったのは、当事者が控訴を取り下げて死刑を確定させた事例が続いたことだ。3月末に相模原障害者殺傷事件の植松聖死刑囚、そして同月、山田死刑囚も二度目の控訴取り下げを行い、年末には座間9人殺害事件の白石隆浩死刑囚も控訴を取り下げた。特に山田死刑囚の場合は、その控訴取り下げの有効性を争って、検察側と弁護側が激しい攻防戦を展開、死刑制度をめぐる大きな問題を提起した。

 私は植松死刑囚とも山田死刑囚とも密に関わっていたため、3月30日は、その日に控訴取り下げを行うという植松死刑囚(当時は被告)を朝一番で横浜で説得し、その足で大阪拘置所を訪れ、控訴取り下げを行ったばかりの山田死刑囚と話し合うという、大変な一日となった。

 こんなふうに社会的に知られる死刑事件で、被告人が相次いで控訴取り下げを行うというのは、考えるべき多くの問題を提起していると思う。

死刑確定者がブラックボックスに置かれる現実

 同時に、以前から多くの人が指摘している通り、死刑が確定すると同時に接見交通権がはく奪され、死刑囚が何を思い、どんなふうに生きているかが世の中に全く伝わらなくなり、死刑囚がブラックボックスに置かれてしまうという、この制度のあり方についても、もっと考えてみなければいけないと思う。

 日本は先進国では極めて例外的に世論調査で死刑制度に賛成する国民が8割を占めるというのも、よく言われることだが、これは死刑の実態がほとんど世の中に知られていないこととも関わっている。死刑の実態もよくわからないままアンケートが来たら、まあ現状で死刑制度があるのだから敢えて変える必要はないのではないかという意見が多数を占めることはおおいに考えられることだ。

 だから死刑のあり方について議論するには、まず死刑制度の実態について、少しでも現実が多くの人に知られることが必要だと思う。宮崎勤死刑囚にしろ、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚にしろ、多くの死刑囚の手記を公表することに『創』が努めてきた理由のひとつはそこにある(手記はそれぞれ宮﨑勤『夢のなか、いまも』、林眞須美『和歌山カレー事件 獄中からの手紙』に収録)。

 だから山田死刑囚の置かれた現実についても、工夫を重ねてできるだけ社会に明らかにしていきたいと思う。それは相模原事件の植松死刑囚についても同じで、彼の近況についても伝えるべきいろいろな努力を重ねている。

 ただ、死刑確定者を社会から遮断しようという力はますます強くなっている。植松死刑囚には弁護士も接見を拒否されたし、山田死刑囚についても、彼が獄中で養子縁組した家族が先日、拘置所を訪れたが接見が不許可となった。どうやら拘置所は運用を厳格化して、以前なら接見できたようなケースでも不許可にすることが増えているように思う。

 ちょうど私が宮崎死刑囚に死刑確定後に接見したのは、旧監獄法が改正され、弾力的運用が取り入れられた時期で、一時はあきらめた接見が再開した時には、あのいつも無表情な宮崎死刑囚が面会室で嬉しさを顔に出してみせた。

 常に死と隣り合わせなだけに、死刑囚の処遇をめぐっては重たい問題や現実がつきまとう。林眞須美死刑囚は、刑が確定して最後の接見をした時に、死刑への恐怖で朝、目が覚めると語っていた。

 どんなに社会的に凶悪犯と指弾されている者であっても、死は重たいものだ。死刑囚がどんな現実に置かれ、どんなふうに死と直面しているかについては、今後も機会あるごとに伝えていこうと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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