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日本アニメが海外で爆発的人気でテレビ各局の大きな取り組みに驚くばかりだ

篠田博之月刊『創』編集長
日本テレビ『ザ・ファブル』とテレビ東京『怪獣8号』

(冒頭写真のクレジットは『ザ・ファブル』がC:南勝久・講談社/アニメ「ザ・ファブル」製作委員会、『怪獣8号』ガC:防衛隊第3部隊 C:松本直也/・集英社)

『ニューズウィーク日本版』の日本アニメ特集

 4月23日発売の『ニューズウィーク日本版』4月30日・5月7日号の日本アニメの特集が充実していて面白い。アニメ特集は『AERA』4月8日号も掲載していたが、いずれも日本アニメがいかに海外で爆発的人気を博しているかという内容だ。その背景として世界的な映像配信プラットフォームの普及があるのだが、例えば『ニューズウィーク日本版』では宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』についてこう書いている。  

「昨年12月8日の北米公開後の興行収入は2月20日までに4674万ドルを超え、これまで北米で最もヒットした宮崎アニメ『崖の上のポニョ』の約3倍にも達した。今年4月に全国公開した中国本土の興行収入はそれを上回る」

『ニューズウィーク日本版』4月30日・5月7日号(筆者撮影)
『ニューズウィーク日本版』4月30日・5月7日号(筆者撮影)

 同誌特集で印象深かったのは、3月に『ドラゴンボール』作者の鳥山昭さんが亡くなった時、それがいかに世界中で話題になったかという話で、ペルーで鳥山さんを悼む巨大壁画が描かれたことを写真入りで報じていたことだ。ペルーの街中で巨大な壁面に鳥山さんの笑顔が描かれている。なかなか日本では想像しにくい光景だ。日本人が思っている以上に、いまや日本アニメは世界中を席巻しているわけだ。

 さて発売中の月刊『創』(つくる)5月号のマンガ・アニメ特集の取材で、3月は出版社のマンガ部門やテレビ局のアニメ担当者らのもとを連日回った。毎日、何人も取材して疲れはしたが、そこで聞く話があまりにもドラスティックで、思わず聞き入ってしまうことが多かった。マンガ・アニメのビジネスは今、大きく拡大しているとともに、大きく変貌しつつあるのだ。

23時台アニメ枠を主軸に日本テレビの大きな展開

 例えば日本テレビコンテンツ戦略本部グローバルビジネス局担当局次長の佐藤貴博スタジオセンター長のこんな話だ。昨年秋改編で同局は金曜23時台にアニメ枠を新設。そこで放送された『葬送のフリーレン』が大きな話題になった。

「『葬送のフリーレン』はもちろんですが、土曜深夜の『薬屋のひとりごと』も海外ですごく売れています。『薬屋のひとりごと』は、製作幹事社は東宝アニメですが、海外セールスは日本テレビが担当しています。

 それから火曜深夜のアニメ枠で放送してきた『Helck』というアニメが海外ですさまじい売り上げを示しています。小学館のデジタル連載コミックのアニメ化です。日本テレビの企画製作幹事作品で、火曜深夜枠としては過去最高の実績をたたき出しています。

 現在のアニメビジネスは、海外セールスおよび配信で成否が決まってしまうと言っても過言ではありません。逆に言えば、深夜枠での放送作品であっても海外セールスが好調であれば、十分ビジネスが成立するということでもあります。

 例えば、これも転生もので、『自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う』という日本テレビ企画製作幹事アニメは、日本テレビが放送はしていません。それでも海外セールスによって大きな利益を上げています。もうひとつ『月が導く異世界道中』という作品も日本テレビでの放送はありませんが、海外大ヒットを遂げています。

 コンテンツビジネスの主軸はインターネットになっており、そこに国境は存在しませんし、『海外』という言葉自体は日本特有のものなので、最近私は、海外戦略でなくグローバル戦略と言うべきだと社内でも言っています」

 日本テレビは、この4月からは金曜23時台のアニメ枠で『転生したらスライムだった件』を2クールにわたって放送している。同局はアニメ事業については後発で、この間、人気作品を次々ととりに行っているのだが、昨年来の大きな取り組みがこの作品だった。これまではキー局以外で放送されており、アニメとしては第3期になるが、日本テレビが良い時間帯で放送していることで、このコンテンツは新たなステージを獲得したといえよう。

 この4月期の目玉といえば、土曜深夜枠の『ザ・ファブル』もそうだ。『ヤングマガジン』連載コミックが原作で、日本テレビも製作に入った、岡田准一さん主演の実写映画もシリーズ化される大ヒットを記録。アニメ化は今回が初めてだ。

 今年はこの後、『僕のヒーローアカデミア』の劇場版も公開予定だ。テレビアニメと配信、また劇場映画を連動させていくというコンテンツ戦略は、いま各局が力を入れているところだ。

TBSの系列あげてのアニメ事業への取り組み

 2023年秋の番組改編で日曜の16時30分枠に新たなアニメ枠を設け、『七つの大罪 黙示録の四騎士』を放送してきたTBSのアニメへの取り組みも注目されている。7月にアニメ映画イベント事業局が新設され、アニメ事業部という単独の部署ができて、かなりの勢いで体制づくりを進めている。2024年1月には木曜23時56分にも全国同時放送のアニメ枠を新設。日本テレビに続く23時台アニメ枠への挑戦だ。

 この木曜23時56分枠の最初のタイトルとなったオリジナルTVアニメ『勇気爆発バーンブレイバーン』はSNSを中心に大きな人気を獲得した。

 アニメ映画イベント事業局の渡辺信也アニメ事業部長に話を聞いた。

「『勇気爆発バーンブレイバーン』は、ロボットアニメ界の名匠・大張正己監督×CygamesPicturesによるオリジナル作品ですが、従来のアニメファンのみならず幅広い層の視聴者から反響をいただいています。放送スタート前に出す情報をあえて制限しまして、1話のクライマックスで初めて、人型ロボットであるブレイバーンの登場が明かされるというPR戦略も功を奏し、毎週木曜深夜はSNSでの盛り上がりが大変なことになっています。『news23』のすぐ後に新設した枠の一発目のタイトルだったので、新枠の認知度を上げるという意味でも成果が出て良かったです。これから長く続くレギュラー枠ですので、少しずつ新しい視聴者を呼び込めたらと思います。

 またこの枠は全国同時放送なので、系列局にも宣伝を働きかけたところ、大張監督がSBSラジオ(静岡)にゲスト出演したり、4月には高知で行われるアニメイベントにお招きいただくなど、良い連携ができました」

 この枠では4月クールに『花野井くんと恋の病』、7月クールに『ラーメン赤猫』、10月クールに『アオのハコ』と話題作がラインナップされている。

「TBS系列は4月から全国同時放送のアニメ枠が5つに増えます。現行の日曜16時30分、日曜17時(MBS枠)、木曜23時56分に加えて、木曜24時26分と日曜23時30分が新設されます。木曜24時26分はMBSの新枠、日曜23時半は名古屋のCBCが新設したアニメ枠です。この面の大きさも武器にして、3局で連携したプロモーションなども積極的に行っていきたいと考えております。

 また木曜日の深夜は、前述の全国放送枠2つの下に、関東ローカルの枠が2つ繋がり、トータル2時間のアニメゾーンになります」(渡辺アニメ事業部長)

フジテレビはキッズと深夜枠、そして…

 フジテレビのアニメ番組は、日曜放送の『ワンピース』『ちびまる子ちゃん』『サザエさん』などのファミリーアニメと、深夜アニメとがあり、担当部署が異なる。深夜アニメを統括する高瀬透子アニメ事業部長に話を聞いた。

「深夜アニメについて言うと、今年19年目の『ノイタミナ』と2018年に創設された『+Ultra』の2つの枠がありますが、昨年10月、新たに『B8Station』という、中国のプラットフォームのbilibiliと一緒にやっていく新しい枠を設けました。レギュラー枠が3枠に増えたわけです。

 もともと『B8Station』を始める前から、いくつかの作品では、bilibiliに製作委員会のメンバーに入っていただいて、共同事業を行ってはいたんです。中国では近年、すごい勢いで国産のアニメ制作が増えていて、一作品で何億回も再生されているような巨大なコンテンツが多く生まれているのです。その中で日本のアニメを観ていただく環境を整備したいと思っていたこともあって、bilibiliさんと一緒にアニメを作っていく枠、同時に中国のアニメを日本のマーケットでも観ていただくレギュラー枠を作りたいなと、数年前からお話していました。それがようやく整ったのが昨年でした」

「ノイタミナ」と「+Ultra」の現状についても聞いた。

「『ノイタミナ』では6月まで『うる星やつら』を放送しています。『うる星やつら』は昨年2クール放送して、今年1月からまた2クール。非常に好評です。原作の魅力を最大限に引き出す作り方をしていまして、ビデオグラムの販売を見ていても、昔からのファンも観てくれているのが見受けられます。

 7月からは『先輩はおとこのこ』という、ノイタミナとしては初めてウェブトゥーン発の作品を放送します。『第5回アニメ化してほしいマンガ』の第1位になるなど、人気の高い作品でした。10月からは、『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』の第2期『京都動乱』を連続2クールで放送する予定です。

『+Ultra』に関しては、3月まで放送の『メタリックルージュ』の後、4月からは『喧嘩独学』というウェブトゥーン原作の作品を放送します。『喧嘩独学』は世界的に人気が高い作品で、日本では2021年、22年とLINEマンガ年間ランキング男性部門で1位を獲得しています。ウェブトゥーン原作のアニメも増えてきており、海外での視聴も伸びています。今後、全世界展開を考えると、ウェブトゥーン原作のアニメ化はより広がっていくのではないかと思います」(高瀬事業部長)

 そのほかフジテレビでは『ちいかわ』をはじめとしたキャラクターアニメにも取り組んでいる。深夜以外のファミリーアニメについては、『ドラゴンボール』の新作『ドラゴンボールDAIMA』を、この秋に放送することが発表されている。

テレビ朝日ヌマニメーションとグループの体制づくり

『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』を放送し、毎年映画も公開しているのがテレビ朝日だ。その意味ではアニメ事業の歴史は長い。現況についてアニメ・ゲーム事業部の小野仁部長に聞いた。

「テレビ朝日のアニメ事業の大きな柱は『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』の2つのタイトルだと思っています。『ドラえもん』は3月から映画が公開されていますが、興収も好調に推移しております。映画『クレヨンしんちゃん』については、以前はゴールデンウィークに公開していましたが、昨年から夏公開にチャレンジしております。夏は激戦区ですけれども、その中で過去最高の興収を得られました。3DCGで今までとは違う映像表現で力の入った作品でしたが、昨年11月から中国でも公開して国内に負けない興収になっています。今年の作品も夏休みに観るのにふさわしい内容になっているので期待しています。

 これらキッズコンテンツはテレビ朝日ならではの戦略をとっており、海外では、特にインドなどを重点的に取り組んでいこうと考えています。『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』ともに、インドでは15年以上前から展開をはじめ、キッズアニメとして圧倒的な視聴シェアを持っています。ただ、これまでは映像を観ることのもう一歩先のマーチャンダイジングとかライセンス事業にまでなかなか進みづらかったところがありました。しかしながら昨今、インドでも配信視聴など、様々な視聴接触が増えたことに伴い、コンテンツやIPへの認知や理解が進み、いよいよアニメビジネスができる環境になっていると感じています。海外のキャラクターも攻勢を強めていますが、人気や認知度でリードしている部分がありますのでこれを現地や国内の玩具メーカーやライセンス企業と一緒になってしっかり育てていこうと思っています。

 さらに、インドでは現在、小林よしのり先生の『おぼっちゃまくん』の新作アニメを制作しています。過去のアーカイブ作品をインドで展開したところ大人気で、ぜひ続編をという要望があったので、インドの制作会社と共同で制作しています。インドのアニメ産業はこれからだと思いますが、その中でしっかりとリードして地固めをしていき、各社と協力しながら日本のアニメをさらに広めていきたいと考えています」

 テレビ朝日では2020年4月から土曜深夜に『ヌマニメーション』というアニメ枠を開設した。3年経て現状はどうなのだろうか。

「キッズ以外のアニメに関しては『ヌマニメーション』が基点ですが、そこでしっかり地固めできたかなと思っています。鍵となるのは『僕の心のヤバイやつ』という秋田書店『マンガクロス』連載の人気作品ですが、昨年度4月クールと1月クールにアニメ化をして放送させていただきました。製作委員会の幹事を務め、グループ会社の『シンエイ動画』が制作しました。素晴らしいフィルムに仕上がり、グループ全体でこの作品をアニメ市場に供給できたかなと思っています。海外のいろんなランキングサイトでも、トップ争いを続けており、大きな自信になりました」(小野部長)

テレビ東京の長年にわたるアニメ事業

 かねてからアニメ事業に力を入れてきたのがテレビ東京だ。この間、民放全局がアニメ事業に大きな取り組みを見せているが、テレビ東京は歴史的に先行してきた局と言ってよいかもしれない。

 2023年12月に劇場版が公開された『SPY×FAMILY』はテレビ東京でアニメが放送されていた作品だ。アニメ局アニメ事業部の紅谷佳和部長に話を聞いた。

「『SPY×FAMILY』はアニメの2期の終了とほぼ入れ替わるタイミングで劇場版が公開されたのですが、土曜の23時台での放送という深夜アニメとしては考えられないくらいお子さんも観てくださっていたので、結果的にファミリー層も劇場に誘導することができたかなと思います。映画も大ヒットでした。原作の連載も続いていますし、『SPY×FAMILY』については次の展開も考えていくことになると思います」

 アニメについては今後も力を入れていくようで、この春の改編でもアニメ枠の新設があった。

「日曜日の深夜23時45分から30分間の枠が新しくアニメになり、4月クールだけでなく今後、この枠は引き続きアニメを放送していくことになります。4月スタートの第1弾は『ブルーアーカイブThe Animation』。アプリゲームが原作のアニメですね。ゲーム自体も大変人気のある作品で、新枠のスタートにふさわしいタイトルと考えました。

 この4月クールの注目作は土曜23時の『怪獣8号』でしょうか。『ジャンプ+』で連載されている原作も大ヒットしており、満を持してのアニメ化です。

 4月クールのそのほかのラインナップを紹介すると、月曜24時が『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』という転生もの作品ですね。元々の原作はライトノベルですが、『マガジンポケット』でのコミカライズも好評な注目作ですね。

 火曜24時は『忘却バッテリー』、この作品も『ジャンプ+』の連載ですが、ギャグがあったりシリアスがあったりというドラマ性の強い野球マンガです。

 水曜24時は『バーテンダー 神のグラス』。以前にもアニメ化やドラマ化された実績のある作品です。原作のマンガはだいぶ前に終了していますが、当時から根強い人気があり、改めて一から、今の時代に沿うようなアニメとして作り直されることになりました。バーのお酒がメインになっていく話ですが、サントリーさんが監修に関わり、リアリティを追求した内容ということで注目されています」(紅谷部長)

『SPY×FAMILY』がアニメと映画の連動となったことは前述したが、この春から夏にかけては『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』という浅野いにおさん原作のアニメ映画が公開されている。前章と後章に分かれており、前章はすでに公開中、後章が5月24日公開だ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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