「村田諒太と日本で戦うのか?」4階級制覇王者カネロ・アルバレス直撃インタビュー
ボクシングの世界4階級制覇王者、サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)は、WBA世界ミドル級王者の村田諒太(帝拳)と日本で戦うのかーーー。
昨年12月頃からボクシング界にはそんな話題が飛び交い、実際にカネロがスポーツ動画配信サービスの「DAZN USA」のインタビューで日本行きの希望を公言したために大きな反響を呼んだ。今年1月にはカネロ対村田の交渉が進み、5月下旬に日本開催で成立寸前までいったとも報道された。
1試合40億円近いファイトマネーを手にするカネロは紛れもなく現代のボクシング界を代表するスーパースターだ。そんな最強王者が、なぜ日本での試合を望んでいるのか。
5月5日(現地時間)、日本メディアとしては初めてとなる電話での独占インタビューに応じてくれた。カネロの言葉からは、10代の頃からの“約束の地”であり続けた日本への熱い思いが浮かび上がってきた。(インタビューではカネロは英語の通訳を通じ、スペイン語で質問に答えた)
なぜ日本で戦いたいのか
――昨年末からあなたは日本での試合希望を公言して、日本のボクシングファンを驚かせました。なぜ日本で戦いたいと思ったんですか?
サウル・アルバレス(以下、SA): これまでもずっと日本で戦いたいと思っていました。その希望は常に頭にありました。じつは18歳の時、トレーナーのエディ(・レイノソ)に連れられて日本に行ったことがあるんです。大阪で亀田選手の試合を見て、日本ではボクシングが盛んであり、ファンの熱気も素晴らしいことを知りました。良い思い出なので、また行きたいと考えていました。
――亀田3兄弟はすべて世界王者になっていますが、誰の試合だったのかはっきりと覚えていますか?
SA : (当時メキシコで練習をしていた)和毅ではありません。大毅です。大毅の世界タイトル戦でした。
注) 2009年10月、大阪市中央体育館で開催されたデンカオセーン・カオウィチット(タイ)対亀田大毅のWBA世界フライ級タイトル戦
――1990年に元統一世界ヘビー級王者のマイク・タイソン(アメリカ)が東京ドームでジェームス・ダグラス(アメリカ)と戦ってから、30年が経ちました。以降、東京ドームで試合をしたボクサーは一人もいませんが、タイソンも戦ったリングに立ちたいという思いもありますか?
SA : その気持ちはあります。これまでトレーナーのエディとも東京ドームで戦いたいという話をずっとしてきました。エディからはとても大きく、素晴らしい会場だとずっと聞かされてきましたから。だからこそ、東京ドームで戦いたいのです。
「村田諒太は手強い相手」
――東京ドームで戦うとしたら、ロンドン五輪金メダリストで、現WBA世界ミドル王者の村田諒太選手が対戦候補に挙がるはずです。村田選手にはどんな印象を持っていますか?
SA : とても強い選手です。勇敢であり、激しい戦いをする選手。危険なファイターで、素晴らしいパワーを持っています。手強い相手だと感じています。
――昨年11月の試合では175パウンドのライトヘビー級で戦いました。近い将来に村田戦が実現するとすれば、階級を下げることになると思います。体重の問題について不安は感じていませんか?
SA : 私の計画では、5月に予定していた試合はスーパーミドル級で戦う予定でした。(5月の試合は流れたが、)次戦後、再びミドル級へと段階を踏んで階級を下げていくつもりでいます。
――現在、新型コロナウイルスの影響で今後の試合計画を立てるのが非常に難しい状況になっています。それでも依然として近い将来に日本で戦いたいと思っていますか?その答えがイエスならば、いつ頃になると考えていますか?
SA : 現時点ではまったくわかりません。状況が状況だけに、今後のことはわからなくなっています。ただ、なるべく早いうちに実現させて、私の夢を叶えたいと願っています。
「井上尚弥は偉大なボクサー」
――日本人ボクサーの印象について聞かせてください。村田選手以外に知っている日本人ボクサーはいますか?
SA : 私の戦う階級以外でもということであれば、長谷川(穂積)、井上(尚弥)、亀田といった選手たちのことはよく知っています。
――井上尚弥選手はあなたと同様にパウンド・フォー・パウンド(全階級を通じた最強ランキング)でも非常に高い評価を勝ち得ています。井上選手のボクシングをどう見ていますか?
SA : 井上は偉大なボクサーです。これまで2試合を見たことがあります。質の高い技術を持っており、それと同時に強さも備えている選手という印象です。
――これまでのキャリアのことを聞かせてください。あなたはキャリアの中期からディフェンス面で急激に向上し、今では現役最高級の防御技術を身につけるに至りました。ディフェンスをもっと重視しなければいけないと感じたターニングポイントのような試合があったのでしょうか?
SA : ディフェンスはキャリアを通じて私の戦術の中で常に重要であり続けました。ボクシングは攻撃だけに集中すべきではありません。打つだけではなく、打たせずに打つことが大事。もちろん攻撃が防御になるときもありますが、プロになって以降、トレーニングではいつでもディフェンスに重点を置いてきました。
――これまで多くのビッグファイトを経験してきましたが、最も印象に残る一戦はどの試合でしょうか?
SA : これまで多くの難しい試合や、厳しい戦いを経験して来ました。それぞれの試合に印象的な部分があるので、1試合を挙げるのは適切ではないかもしれません。ただ、選ぶとすれば、最も難しかったのは2013年のフロイド・メイウェザー(アメリカ)戦、そして最も厳しかったのは2017年と2018年に戦ったゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)戦です。
世界4階級制覇王者の最終目標とは
――スポーツ動画配信サービスのDAZNと11戦で3億6500万ドル(約400憶円)という契約を結び、誰よりも大金を受け取るボクサーになりました。緊張感を保ち続けるのは容易ではないと思いますが、何が最大のモチベーションになっているのでしょうか?
SA : 私はボクサーであり、ボクシングを愛しています。ボクシングと恋に落ちたのです。今後も歴史を作り続け、史上最も偉大なボクサーとして認められることが今の私のモチベーションになっています。
注) 具体的には1戦1500万ドル+10戦3億5000万ドルという契約
――あなたにとってお金とはどういったものですか?巨額なファイトマネーを受け取る前と後で、何か変わったことはありますか?
SA : お金は私にとって最優先事項ではありません。もちろんお金は役に立つもので、おかげで家族をサポートできますし、必要なものを買うこともできます。私は最高の選手になるために戦ってきたのであり、その姿勢は変わりません。
――最後に聞きます。キャリアの最終目標は何ですか?
SA : ボクシング史上最高と呼ばれるファイターの1人になることです。
今回の電話インタビューにはカネロ、通訳以外にも少なくとも3人の広報、関係者が同席し、北米の現役ボクサーでは最大の商品価値を誇るカネロへの周囲のガードの固さが感じられた。私が「5月に計画された村田戦の交渉は具体的に何パーセントぐらい進行していたのか?」という質問を挟むと、広報が「交渉のことは話せない」とやりとりをストップ。一時は契約寸前と伝えられた日本史上最大級のビッグファイトについて、それ以上の追求は叶わなかった。
それでも、もともと口数の多い方ではないカネロが、日本人記者からのインタビュー依頼を快諾したことからも、日本リングへの思いの強さは見て取れる。通訳を通してのやりとりでも、”思い出の地”である日本への好意的な姿勢は感じられた。
本人の言葉にある通り、パンデミックの影響でカネロの今後の予定も混沌としているが、依然として近未来の来日ファイトを熱望していることは間違いなさそうだ。
サウル・“カネロ”・アルバレス
1990年7月18日生まれ 29歳 メキシコ、グアダラハラ出身
戦績:53勝(36KO)1敗2分 スーパーウェルター級、ミドル級、スーパーミドル級、ライトヘビー級を制し、4階級制覇を達成
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