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乗り物での「ちょっとしたこと」に癒され、跳ね返す夏の憂鬱

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
(写真:アフロ)

 この時期、京都の市バスなどを利用すると、面白い光景に出くわす。降車時に支払うはずの料金を払わずに降りる子供達がいる。払わない代わりに彼ら彼女らは運転手に向けて一つの合言葉を口にする。

「エコサマー」。

 

 京都では、1人の大人に対して2人までの小学生は無料でバスなどを利用できる。一応期間は決まっている。7月21日からスタートして8月31日までの平日も含む夏休み期間と9月25日(月)までの土曜、日曜、祝日である。市内のほとんどの交通機関は無料で、それだけではない。割引サービスなども含め「エコサマー」が年を追う毎に乗り物に限らず施設などの箱物にも広がってきている。

「エコサマー」は、環境にも、家庭にも優しい。良いこと尽くめで、まさに三方良しである。このようなことがあったりすると、夏の暑さと、観光シーズンが憂鬱で出不精になっている者さえも、子供を連れて街に足を延ばして、思い出をつくりたいという気持ちにもなる。

 お盆に新幹線に乗った。急に決まったのもあって席が取れず、見知らぬ大勢とともに狭いデッキで時間を費やした。こんな時も車掌は切符をチェックしにやって来る。ポケットから切符を差し出す。「thank you」と言われ切符が戻ってくる。本来ならそうだが、今回ばかりは違った。

「Thank you Sir」

ハッとした。

私などは、「日本の接客はthank you ではなく、有難うございます」というべきではないかと主張したい。

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そう考える一つ大きな理由は、「有難うございます」がもつ日本語の素晴らしさが「thank you」では表現出来ると思えないからである。その点、どうしても英語でお礼を言いたい場合は、日本語の「有難うございます」に近い英語は、まさに男性に対してなら「thank you Sir」であり、女性に対してなら「thank you Ma'amやmadam」であると考える。

 頻繁に、新幹線に乗っているが、初めて車掌からSirなどと言っていただいたので、JRはインバウド対策で英語に力入れるようになったのか気になり、終着駅に着くなり車掌室まで行って確認することにした。

 すると別にJRが社員教育で指導したわけではないと言う。では「車掌さんが海外での生活は長いのか」と聞くと「海外などに行ったこともない」と言う。どうやら独学のようである。素敵な車掌のおかげで、蒸し暑い夏と人混みの憂鬱さをどこか吹っ飛ばされ、爽やかな風を感じることができた。

 

 数日前に友人が京都に遊びに来て、市内観光を経て帰りに自宅に寄ってくれた。しばらく前まで九州のとある市の観光課の課長などを勤めたような人物だが、市バスに乗ってこちらに向かう途中、感動的な出来事があったと言う。

 

 聞いてみると、バスを降りる頃になって、細かいお金がなく、5千円札しか持っていないことに気づいたらしい。車内で両替もできるような状態ではなく、どうしようかと考えている時に、運転手に「次に乗った時に今日の料金も合わせてお支払いください」と言われたと言う。

そのようなことは決して珍しいことでもないようである。妻に確認すると230円を払わないといけないところで、手元に細かいお金が210円しかなくて「今回はそれで結構です。足らない部分は、次に乗った時に払ってください」と言われたことなどもあったのだと言う。

 残暑が厳しい日が続いたりとちょっと外に出かけるのも億劫な時期である。そんな中での、「ちょっとした」ことが、夏と人混みの憂鬱さを見事に跳ね返してくれる。だからこそ「ちょっとしたこと」をこれからもお互いに大事にしたいものである。

社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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