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映画『サバイバルファミリー』:家族再生の物語

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:有楽町マリオン(ペイレスイメージズ/アフロ)

すべての「電気」が消えた世界で、私たちはどうなる? それでも何とかやっていけるかな。これは、家族再生の物語。

■映画『サバイバルファミリー』(ネダバレなし)

2017年2月11日公開映画。公開日に観てきました。主演は小日向文世さん。監督は、『ウォーターボーイズ』『ハッピーフライト』 の矢口史靖監督。この映画も、楽しくて心温まるコメディー映画です。

■映画『サバイバルファミリー』あらすじ

ある日突然世界から「電気」がなくなります。停電するだけではなく、電池も手回し発電機もダメ。現代社会では、ありとあらゆるものに「電気」が関わっています。電気がなくなれば、ガスも水道も自動車も、ネットも情報も、全てストッップ。

もう都会では生活できないと思った東京の家族が、自転車でおじいちゃんがいる鹿児島を目指すという話です。

地球上のすべての電気が止まるというと、SF映画の古典的名作『地球が静止する日』(1951)を思い出しますが、雰囲気は全く違います(『地球が静止する日』のリメイク(2008)もありますね)。

今回の映画は、SF的な設定ではありますが、SFっぽくはありません。ハリウッド的なパニック映画でもないでしょう。『サバイバルファミリー』ですからサバイバル映画ですけれども、本格的なサバイバル劇とも違います。

この映画は、サバイバルコメディー。そして、家族の物語です。

■最もサバイバルにふさわしくない家族のサバイバル

ハリウッドのパニック映画だと、大抵お父さんは、かっこいいですね。強くて、頼りがいがあって、家族を守ります。『ワールドウォーZ』(2013)のお父さん(ブラッド・ピット)も、『2012』(2009)のお父さん(ジョン・キューザック)も、『宇宙戦争』(2005)のお父さん(トム・クルーズ)も。

ところが、『サバイバルファミリー』のお父さん(小日向文世)は、ヘタレ。口ばっかりで頼りになりません。そしてこの家族みんなが、矢口史靖監督に言わせれば「生き残る才能が、いちばん欠如した人たち」です。

「偉そうなことばかり言って何もできない。お父さんはそういう人」。お母さん(深津絵里)は、お父さんのことがわかっていますが、それでも何とかみんなで頑張ろうとします。

でもこのお父さんは、平均的な日本の父親像なのかもしれません。

■「すべてがOFFになると人間がONになる」

「すべてがOFFになると人間がONになる」。映画『サバイバルファミリー』のCMコピーです。コミディー映画ですから、ダメな家族が真っ先にみんな死んで終わり、ということはありません。コメディー映画はいつもハッピーエンド。

映画『サバイバルファミリー』は、家族の再生物語です。極限状態に陥って、どうしようもないところまで行って、そこで初めて家族は目覚めます。

これは、物語の中だけではありません。家族の誰かが病気になると、子どもたちが家事の手伝いをはじめたりします。災害発生時には、大人も子どもも力を発揮します。東日本大震災など、大災害発生時には世界が驚くほどの力を被災地の皆さんは示しました。

アメリカでかつて経済的な大恐慌(1929~33)が発生した時、中産階級の家庭が次々と没落したのですが、子どもたちはグレることなくかえってとても頑張ったという記録も残っています。

ジブリ映画『千と千尋の神隠し』は、引っ越して転校することでへちゃむくれていた主人公が、両親が豚にされてしまう危機の中で、能力を発揮して力強く自分の人生を生き始めます。

テレビ番組『はじめてのおつかい』では、お父さんが忘れ物をしたり、お母さんがとても忙しくなってしまうという状況で(これは「演出」に過ぎないのですが)、子どもたちは大人が感動するような勇気と実行力を示してくれます。

『はじめてのおつかい』:きびしくてやさしい「ウソ」と子どもの自立の心理学

努力をしてもしなくてもすべてが満たされてしまうような現代社会で、私たちはやる気と生きる気力を失います。けれども、必要に迫られれば、必死になれば、現代人も結構頑張れるのでしょう。

そして、一生懸命に生きることは、大変ではあっても不幸ではないのでしょう。

■家族の回復、成長する家族

『サバイバルファミリー』の主人公家族は、あまりにお気楽です。困ってはいるのですが、家族それぞれが文句を言い、力が出せません。

実は、電気がなくなって右往相応している家族を見て、私は最初あまり笑えませんでした。「電気」が世界から消えたことを、登場人物たちはまだ知らないのですが、観客は知っています。電気がなくなるということは、人類存亡の危機です。恐怖です。笑えません。

ところが、この不便生活を続ける家族を見ているうちに、私も次第にリラックスしてきました。物語の家族が電気のない生活に慣れていくように、観客も映画の設定に慣れてきたように感じます。

家族は少しずつ力強くなり、極限状態の中で助け合い、希望を持ってユーモアの心さえ取り戻します。観客も、いつの間にか物語の家族とともに泣き、笑っています。

世界から電気がなくなる設定は、科学的にあり得るのかはわかりません。でも、現代社会が徐々に崩壊していく設定としては、とても良い設定でしょう。

ただ考えてみれば、エジソンが電球を発明したのが、1879年。日本で最初の発電所ができたのは、1891年。私たちは、100年前まで電気なしで暮らしてきました。

一度は崩壊しかけた家族と現代社会が、もう一度立ち直るのも可能だという設定としても、電気がない世界はちょうど良いかもしれません。

映画を見ながら、私たちも疑似体験ができるでしょう。当たり前と思っていたことがどれほど感謝なことなのか。そしてどんな苦しみも、きっと乗り越えていけると。

家族みんなで見たいと思わせる映画です。

映画『サバイバルファミリー』

2017年2月11日公開のサバイバルコメディ。

脚本監督:矢口史靖

出演:小日向文世・深津絵里・泉澤祐希・葵わかな

主題歌:SHANTI「Hard Times Come Again No More」

フジテレビジョン・東宝

サバイバルファミリー公式サイト

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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